生成AIからフィジカルAIへ。AIを搭載したロボットが現実世界で自律的に動き出す

生成AIからフィジカルAIへ。AIを搭載したロボットが現実世界で自律的に動き出す

フィジカルAIとは、「AIを搭載したロボットが現実世界で自律的に動き、人間の作業を支援する技術」だ。今、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOがもっとも大きな関心を寄せて期待を寄せている分野が、フィジカルAIだ。フィジカルAIによって、さまざまな機械が知能的に動くようになる。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

機械が知能的に動くようになる

今、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOがもっとも大きな関心を寄せて期待を寄せている分野が、フィジカルAIである。フィジカルAIは、人工知能とロボティクス技術を統合し、人間の作業領域に実体(フィジカル)を伴って関与する。

もっとわかりやすく言おう。フィジカルAIとは、「AIを搭載したロボットが現実世界で自律的に動き、人間の作業を支援する技術」だ。

これまでのAIは、主にソフトウェア内での情報処理を担ってきた。フィジカルAIは違う。AIが物理的な装置や機械を制御しながら高度な判断をくだす。

ロボットアームや自律移動システムが有用なフィジカルAIとなるが、その中核にディープラーニングや強化学習のアルゴリズムが組み込まれ、画像認識センサーや触覚センサーによる物体識別を行い、リアルタイムで最適なアクションを実行する。

現在、自動車組立のような製造業だけでなく、医療・介護や農業分野でも用途が拡大している。物流倉庫では自動走行ロボットが導入され、ディープラーニングを駆使して通路の状況を瞬時に判断しながら注文品を最短ルートでピッキングする。

フィジカルAIの具現化においては、人間のように周囲を認知し状況に応じて行動を変化させることが重要な要素となる。

従来の産業ロボットは決められた動作を繰り返すだけだ。だがフィジカルAIは、カメラや各種センサーを介して環境を取得し、アルゴリズムがより柔軟な命令を実行するようになる。

人間の位置を見分けて衝突を回避しながら組立作業を続行する協働ロボットの事例が典型例である。ここでは機械学習モデルが人間の存在や作業ペースを推定し、ロボットの動きを制御して効率を保つ。

フィジカルAIによって、さまざまな機械が知能的に動くようになる。正確に、緻密に、安全に、疲れ知らずで働くようになる。

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ところで、その頭脳はどこにあるのか?

倉庫の自律搬送ロボットには、位置把握精度を高めるために高度なSLAM(自己位置推定と地図構築)アルゴリズムが組み込まれる。このアルゴリズムはあらゆる地点でのセンサー情報を取り込み、誤差要素を計算しつつロボットの軌道を修正する。

AIエンジンがこれをリアルタイムに処理することで、施設内の経路を安定して移動するだけでなく、路上に突然置かれた障害物や人間の歩行などの変化にも即応する。

ところで、その頭脳はどこにあるのか?

それは、データセンターである。ロボットの動作は大規模なクラウド環境やエッジコンピューティングとの連携で実現される。高性能GPUの高速処理が画像認識を支え、エッジ側の演算装置が低遅延制御をおこなう。

この高性能GPUを作っているのがNVIDIAなのだ。

このロボットとデータセンターまでの統合的システムこそがフィジカルAIの技術基盤を形作り、既存のAIロジックと物理ハードウェアの関係を再定義する。

フィジカルAI、すなわち知能的な動きをするロボットは、精密な制御によって労働生産性を大きく押し上げていく。すでに大手製造企業の約45%が先進的なロボットシステムを導入済みと報告する調査結果もある。

大手製造企業で過酷に使用され、知見が蓄積されていくと、フィジカルAIの実用化は大きく加速されることになる。すると、今後は家庭やサービス業など、より身近な領域にも浸透していく。

フィジカルAIは社会の多岐にわたる分野に拡散し、さらなるイノベーションが連鎖的に生まれていくだろう。

今後、生成AIからフィジカルAIに重点が移っていくのは間違いない。社会のあらゆるところでフィジカルAIが私たちの生活を変えていくことになる。だから、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOはそこに布石を打っている。

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人間を雇うよりずっと合理的・効率的

フィジカルAIへの社会転換は、「便利」というだけでなく、他の社会問題も解決していくかもしれない。たとえば、世界的な労働力不足の問題がフィジカルAIによって解決するかもしれない。

先進諸国では、どこも出生率の低下と高齢化が顕著となっている。製造ラインや物流、介護施設など幅広い現場で人材不足が問題化しているのは衆知の事実だ。この課題をフィジカルAIは解決する可能性が高い。

企業はフィジカルAIによって高度な自動化や省人化を図り、人手不足を解決しながら生産性を上げることができるようになる。高齢化社会の先頭を走る日本では、フィジカルAIへの社会転換は必須となるはずだ。

労働現場だけでなく、サービス業でもフィジカルAIは必須となるはずだ。ホテルの受付、飲食店の配膳、予約対応、苦情対応など、あらゆるところに自律型ロボットが導入され、従業員の負担を軽減する。

企業は人手不足だけでなく、人件費の高騰にも悩んでいる。欧米やアジア圏でも最低賃金が上昇し、企業が人を雇うコストは増え続けている。

フィジカルAIが組み込まれた高度なロボットの導入初期費用は高額かもしれない。しかし、ロボットは24時間365日、休むことなく正確な仕事をする。人間を雇うよりずっと合理的・効率的で、ワリに合う。

フィジカルAIは一時的なブームではない。社会ニーズが高まり、技術的にも対応が可能になった段階で、自然に発生した需要であり、今後も多様な領域へと波及していく巨大なイノベーションだ。

労働力不足や非接触需要の拡大により、ロボティクスとAIの統合は不可避となり、すでに産業・医療・物流・サービスなど多岐にわたる分野で実用化が進んでいる。今後も技術の進歩と市場の拡大が相互に作用し、フィジカルAIは社会全体の効率化と生産性向上を支える中核技術として成長し続けるだろう。

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トランプ政権を利用し尽くすために集結

今後、投資家には「フィジカルAI」の分野の成長に賭ける機会が生まれる。

フィジカルAIの投資対象は思ったよりも多岐にわたるはずだ。もっとも直接的な領域としてはロボットハードウェア製造企業が挙げられる。ロボットの開発企業は、目立つ投資先になるだろう。

現在、この分野で最強にアクティブな動きを見せているのはTesla【TSLA】かもしれない。Teslaは電気自動車だけでなく、人型ロボットの「Optimus」も製造している。イーロン・マスクCEOは、Optimusを2025年から2026年には実際に販売できるようにする計画を進めている。

AIアルゴリズムの開発企業にも投資の余地が存在する。ディープラーニングや強化学習の最先端モデルを構築し、ロボットの脳とも言えるソフトウェアを提供する企業は不可欠な役割を担う。

この分野で最先端をいくのはGoogle【GOOG】やMicrosoft【MSFT】かもしれない。高性能なアルゴリズムを実装し、安定した制御を可能にするプラットフォームを運営する企業は、今後の標準技術を握るポジションに立つ。

クラウド上のAI演算を支えるデータセンター企業としても両社は存在感を高めていく。他にも、Amazon【AMZN】やMeta【META】なども追いついてくるのだろう。

ロボットから送られる大量のセンサーデータをリアルタイムで解析するには、膨大な通信帯域と計算能力が必要だ。この分野で圧倒的なのは、もちろん言うまでもなくNVIDIA【NVDA】だ。

このように考えると、現在のマグニフィセント7銘柄が引き続きリードしていくことになるということに気づくはずだ。折しも、これらの企業はすべてトランプ政権2.0の政権運営にも食い込んできた。

世間はトランプ大統領が頂点に立っているように見ているが、私には米国の巨大ハイテク企業のほうが頂点にいて、トランプ政権を利用し尽くすために集結しているように見える。

今後、米国はフィジカルAIを核にして、ハイテク企業の躍進が続いていくように思える。これらの企業はすでに高値にあるのだが、トランプ政権2.0は大きな株価変動(ボラティリティ)を生み出すと思われるので、下落したところを買うのは面白いかもしれない。

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