GEエアロスペース。成長性と不確実性が背中合わせの世界でうまくやっている

GEエアロスペース。成長性と不確実性が背中合わせの世界でうまくやっている

GEエアロスペースは、ゼネラル・エレクトリック(GE)の航空機エンジン事業を核とする企業である。その歴史は古く、GE自体は1892年にエジソンらによって設立され、成長してきた。現在は商用および軍用航空機エンジンの設計、製造、サービスを提供する企業として重要な役割を担う。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

いまやGEエアロスペースは成長企業

GEエアロスペース【GE】が、2024年第4四半期において市場予想を大きく上回る業績を叩き出している。純利益は19億ドル、1株当たり1.32ドルに達し、アナリスト予想の1.04ドルを大幅に上回る結果となった。

売上高も98億8,000万ドルを記録し、市場が予測していた94億7,000万ドルを凌駕している。これにより、同社の事業基盤の強固さが改めて証明された。

収益の内訳を見ても、商用エンジンおよびサービス部門が76億5,000万ドルを計上し、主力事業としての地位を確立している。また、総受注額は155億ドルで、前年同期比46%増となっている。

さらに、2025年度に向けての展望も明るい。同社は調整後の収益で低い二桁成長を見込み、1株当たり利益を5.10ドルから5.45ドルのレンジで予測している。これは、今後の成長が持続的であることを示唆するものだ。

この決算を受け、市場の反応も顕著だった。GEエアロスペースの株価は約10%上昇し、18年ぶりの高値を記録した。投資家の期待は膨らみ、同社の将来に対する楽観的な見方が強まっている。

H・ローレンス・カルプCEOは、2025年には配当を30%引き上げ、70億ドル規模の自社株買いを実施する計画を発表。これにより、株主還元の姿勢を明確にし、投資家に対して強いメッセージを送っている。

調整後フリーキャッシュフローについては、63億ドルから68億ドルになると予想されている。かつての停滞していた頃とは打って変わって、いまやGEエアロスペースは、成長企業としての確固たる地位を築きつつある。

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GEエアロスペースという企業

GEエアロスペース(GE Aerospace)は、ゼネラル・エレクトリック(GE)の航空機エンジン事業を核とする企業である。その歴史は古く、GE自体は1892年にトーマス・エジソンらによって設立され、電気照明や電力供給システムの開発を通じて成長してきた。

1942年、GEはアメリカ国防総省の要請を受け、当時としては革新的だったターボジェットエンジンの実用化に取り組んだ。これが航空機エンジン産業への本格参入となり、以降、民間および軍用航空機向けエンジンの開発・製造において大きな影響力を持つに至った。

2021年11月、GEは事業の再編を発表し、ヘルスケア、エネルギー、航空の3部門に分社化する計画をあきらかにした。そして、2024年4月2日、エネルギー部門であるGEベルノバ(GE Vernova)が分社化され、GE本体は航空事業に特化したGEエアロスペースとして存続することとなったのだ。

現在、GEエアロスペースは商用および軍用航空機エンジンの設計、製造、サービスを提供する企業として、航空宇宙産業における重要な役割を担い続けている。

特に旅客機市場では世界各国の航空会社にエンジンを供給し、その技術力と安定したメンテナンスサービスの提供により高い評価を得てきた。ボーイングやエアバスといった機体メーカーとの協力関係は深い。

さらに軍需分野では、各国の防衛戦略の見直しが続くなか、最先端の技術開発を進めるパートナーとして一目置かれる存在にもなっている。こうした背景のもと、GEエアロスペースはGE全体の再編の要といえるほど重要性を増しているのだ。

GEは近年、本体の事業ポートフォリオを整理しつつあり、医療部門や再生可能エネルギー部門が独立を進めるなかで、航空事業は同社に残された「基幹的かつ稼ぎ頭」としての役割を担う。

ここに至るまでには航空業界全体の低迷もあったが、民間の旅客需要が再起動し、世界の人の流れがふたたび加速するなかでGEエアロスペースの強みである広範な製品ラインアップとサービス体制が再評価されている。

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上値を追うにはやや厳しい

もちろん、課題がないわけではない。航空業界の先行きは需給バランスや燃料費の変動、世界的な地政学リスクに左右されやすい。

とりわけ、軍事紛争や地域紛争が激化すれば、軍用機向けエンジンの需要は増す一方で、民間飛行の伸びは縮小する可能性もある。また、燃料効率の向上や、環境規制への対応も喫緊の課題だ。

こうした不確定要素はあるものの、GEエアロスペースが強固な基盤をもつことはたしかであり、成長企業としての地位を高めようとする動きが顕著になっている。

株価の動向もこれらの数字を敏感に映し出している。最新の株価情報によれば、GEエアロスペースの株価は200.8ドルで、前日比12.41ドル(約6.59%)上昇するという活況を呈している。

アナリストの投資判断は「強気買い」だ。平均目標株価は208.6ドルと報じられているため、現行の200.8ドルからはおよそ11.25%の上昇が見込まれる計算になる。短期的な株価の動きは流動的であり、この上昇幅が過大なのか、あるいはすぐに達成可能なレンジなのか、投資家の目線も分かれるところである。

もっとも、株価収益率や予想株価収益率、株価売上高倍率、株価純資産倍率、株価フリーキャッシュフロー倍率などは、現在の株価が「割高」であることを示している。

成長見込みがあるからこそ楽観視する意見が強い一方で、実際の利益やキャッシュフローの水準を考慮すると、さらなる上値を追うにはやや厳しいのではないかという慎重な見解も聞かれる。

だが、GEエアロスペースの決算数字が示す勢いはたしかであり、それが投資家の注目を強く惹いている。結局のところ、同社が今後も現行の売上増加率と利益成長率を維持できるかどうかが、株価水準の妥当性を左右する鍵となる。

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成長性と不確実性が背中合わせ

航空業界は世界経済の動向と深く結びつくが、そのなかでもエンジン事業は機体製造と並ぶコア領域であり、高度な技術力と巨額の開発投資を要する。そのため参入障壁が極めて高い。

それは、GEエアロスペースにとっては素晴らしいことだ。

ライバル企業としては英ロールス・ロイスや米プラット・アンド・ホイットニー(P&W)などが挙げられるが、GEはボーイング機やエアバス機の主力エンジン供給の一端を担う大手としての地位を確立している。

民間機エンジンのみならず、軍用エンジンやヘリコプター、ビジネスジェット分野など多面的な展開を図ることで、景気の波に左右されにくい体質を追求してきた点が特徴的だ。

ただ、航空業界は何かと波乱に見舞われる。バフェットもパンデミックという予期せぬ出来事で航空強業界への投資は失敗してきた。航空燃料の高騰、環境規制の強化、事故、パンデミックなど、企業の収益構造を圧迫するリスクは山ほどあるのだ。

持続可能な航空燃料(SAF)の普及や電動化の進展もあるが、こうした動きはエンジンメーカーにとって新たな技術革新の契機でありつつ、逆に開発コスト増大という重荷にもなる。

こうした複雑な背景を踏まえると、GEエアロスペースがどのように生き残り戦略を描くのかが焦点となる。

全体的に見れば、現時点では成長性と不確実性が背中合わせにある状態だ。それゆえに、同社への投資は「ポジティブな要素は多いが、過度な楽観は禁物」という結論に落ち着くかもしれない。うまくやっているし、嫌いでもないのだが、なかなか手を出しづらい。

GEエアロスペースは、そのような企業だと思える。

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