
イスラエルの国防を担っているのが「アイアンドーム」だが、トランプ大統領は2025年1月27日、米国版「アイアンドーム」の構築を命じる大統領令に署名している。トランプ大統領の狙いは明確だ。「強さによる平和」という目標をさらに推進し、外国からのあらゆる空からの攻撃を抑止することにある。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
米国版「アイアンドーム」の構築
トランプ大統領は2025年1月27日、米国版「アイアンドーム」の構築を命じる大統領令に署名した。この決定は、米国の国防戦略に大きな転換をもたらす画期的な出来事であるとも言える。
トランプ大統領は、弾道ミサイル、巡航ミサイル、極超音速ミサイルなどの長距離攻撃から米国を守る次世代型の防衛網の構築を目指している。これは、従来の防衛システムを大きく超える包括的な防衛網だ。
この構想の核心は、イスラエルが開発した「アイアンドーム」システムを米国版に適応させることにある。
イスラエルのアイアンドームは、ドローンやロケット弾、巡航ミサイルといった多様な脅威に対応できる高度な防衛システムだ。トランプ大統領は、この技術を基盤に米国の国土を守る新たな防衛網を構築しようとしている。
トランプ大統領の狙いは明確だ。「強さによる平和」という目標をさらに推進し、外国からのあらゆる空からの攻撃を抑止することにある。
この構想は、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」政策の延長線上にあり、米国の軍事的優位性を確保するための重要な一手と言える。
米国の防衛力強化は、他国、特に中国やロシアとの軍拡競争を加速させる可能性がある。トランプ大統領の「強さによる平和」という考えが、逆に国際的な緊張を高める結果になる可能性も否定できない。
しかし、トランプ大統領は臆しないだろう。トランプ大統領は、この防衛システムがすべて米国内で生産されることを強調している。これは、国内の防衛産業を活性化させ、雇用創出にもつながる狙いがある。
フルインベストの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』
米国版「アイアンドーム」は簡単ではない
イスラエルでの運用実績によると、アイアンドームは90%の迎撃成功率を達成している。この高い性能が、トランプ大統領の関心を引いたのは間違いない。米国版「アイアンドーム」が実現すれば、米国本土の防衛力は飛躍的に向上する。
イスラエルのアイアンドームは、2008年の段階で15キロメートルの射程で150平方キロメートルのエリアを防御可能とされていた。だが、米国の国土は広大だ。この防衛範囲をどのように拡大するかが、大きな技術的課題となる。
また、アイアンドームは全天候型のシステムとして設計されているが、米国の多様な気候条件下でも同様の性能を発揮できるかは不明だ。極寒地や砂漠地帯など、さまざまな環境下での運用を想定した技術的な改良が必要となる。
さらに、アイアンドームは重要性の低い目標へ向かう攻撃を対象から除外することで、ミサイルの消費を抑える機能を持っている。だが、米国の場合、何を「重要性の低い目標」とするかの判断は非常に難しい。この機能をどのように適用するかも、重要な検討事項となる。
コスト面での課題も大きい。アイアンドームの開発には、米国が多額の資金援助をおこなっている。米国版の開発と展開には、さらに莫大な費用が必要となる。この費用を誰がどのように負担するのか、議会との調整も必要となる。アイアンドームが実現するかどうかは、この部分がもっとも大きな問題点となるはずだ。
実現すれば、米国の防衛産業に大きな刺激を与えることになる。
トランプ大統領は、このシステムをすべて国内で生産することを強調している。これは、防衛関連企業に大きなビジネスチャンスをもたらすと同時に、新たな雇用創出にもつながる。
とは言っても、その実現には多くの技術的、経済的、外交的課題が待ち受けている。これらの課題をどのように克服し、真に効果的な防衛システムを構築できるか。トランプ政権の手腕が問われることになる。
『邪悪な世界のもがき方 格差と搾取の世界を株式投資で生き残る(鈴木傾城)』
新たな防衛手段の必要性が高まっている
トランプ大統領による米国版「アイアンドーム」構想は、単なる軍事的な判断ではなく、複雑な社会的背景から生まれたものだ。この構想の背後には、変化する国際情勢、国内の政治的動向、そして米国民の安全保障に対する意識の変化がある。
まず、国際情勢の変化が大きな要因となっている。近年、北朝鮮の核・ミサイル開発や、ロシアとの対立や、イランの核問題など、米国にとっての脅威が増大している。
特に、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発の進展は、米国本土への直接的な脅威となっている。また、中国やロシアによる極超音速ミサイルの開発も、米国の防衛戦略に大きな影響を与えている。
これらの脅威に対し、従来の防衛システムでは十分に対応できないという認識が広がっている。特に、極超音速ミサイルは従来の迎撃システムでは捕捉が困難とされ、新たな防衛手段の必要性が高まっている。
国内の政治的動向も、この構想の背景にある。
トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」政策は、国内産業の保護と育成を重視している。米国版「アイアンドーム」のすべてを国内で生産するという方針は、この政策の延長線上にある。これは、防衛産業の活性化と雇用創出という経済的効果も期待できる。
イスラエルのアイアンドームの成功が、米国民の関心を引いている点も重要だ。イスラエルは、アイアンドームを使って敵のミサイル着弾を防いでおり、その高い成功率が注目を集めている。これが、米国版の構築を求める声につながっている。
ただ、米国の財政赤字が拡大する中、このような大規模プロジェクトに多額の資金を投じることはできるのだろうか? そうした批判もあって、国内のインフラ整備や社会保障の充実など、他の優先課題があるという意見も根強い。
トランプ大統領はこれらの批判を押し切る形で、米国版「アイアンドーム」構想を推進している。これは、国防を最優先する姿勢の表れであり、同時に自身の政治的基盤を強化する狙いもあると見られる。
『亡国トラップ-多文化共生- 多文化共生というワナが日本を滅ぼす(鈴木傾城)』
構想が実現すればどこに投資すべきか?
米国版「アイアンドーム」構想は、防衛産業に大きな影響を与える可能性がある。特に、防衛関連企業の株価に注目が集まっている。この構想が実現すれば、これらの企業に大規模な受注がもたらされる可能性が高いからだ。
まず注目すべきは、ロッキード・マーティン【LMT】だ。
同社は、イスラエルのアイアンドーム開発にかかわった実績がある。米国版の開発でも中心的な役割を果たす可能性が高い。また、同社はすでに米国のミサイル防衛システムの主要な供給者でもあり、この分野での豊富な経験を持つ。
RTXコーポレーション(旧レイセオン)【RTX】も重要な投資対象となる。
同社は、ミサイル防衛システムの分野で強みを持つ。特に、レーダーシステムや迎撃ミサイルの開発で高い技術力を有している。米国版「アイアンドーム」の構築において、重要な役割を果たす可能性が高い。
ノースロップ・グラマン【NOC】も、注目に値する。同社は、宇宙・ミサイル防衛システムの分野で強みを持つ。特に、高度な指揮統制システムの開発で知られており、米国版「アイアンドーム」のシステム統合において必要な企業だ。
もし、米国版「アイアンドーム」構想が実現するのであれば、これらの防衛企業は恩恵を受ける可能性が高い。具体的な開発計画が発表されたり、大規模な予算が割り当てられたりした場合、株価は大きく反応するだろう。
今のところは、投資に慎重な判断が必要だ。この構想の実現には不確実性が伴う。技術的な課題や、予算の問題、政治的な反対など、さまざまな障害が存在する。これらの要因によって、構想が遅延したり、規模が縮小されたりする可能性もある。
しかし、実現すれば、米国版「アイアンドーム」構想は、防衛産業全体にとって大きな成長機会となる。他国からの需要も見込める。特に、同盟国からの関心が高まれば、輸出による収益増加も期待できる。
投資機会としても興味深い動きなので米国版「アイアンドーム」の動きには強い関心を持って追っていきたい。
