
投資系SNSで人気を集める銘柄を鵜呑みにし、大きなリスクを認識せずに新興市場の急騰銘柄へ大金を投じた投資家が破綻に至った例は山ほどある。SNSで語られる「夢」や「将来性」には信憑性なんかないものも多い。投資は一歩間違えると自分の人生を破壊してしまうことさえもある。そんな人を大勢見てきた。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
人々を破滅へ追い込む場所
株式市場は富を築く場であると同時に、無慈悲に人々を破滅へ追い込む場所でもある。過去にはネットバブルの崩壊やリーマンショックの影響を受け、多数の個人投資家が再起不能の大損害をこうむった。
日本では1980年代後半のバブル崩壊で大損害を食らい、すべてを失った人を私は身近で見てきている。彼は儲けに酔いしれ、さらに利益を求めて証券会社から多額の信用取引枠を借り入れ、リスクを拡大させながら投資を続けた。
バブルが弾けると株価は急落し、彼の保有銘柄は軒並み暴落した。追証の支払いに追われても株価が戻ることを信じて銘柄を売らず、ついには全財産が吹き飛んで、大きな負債を抱えてその後も10年近く残務処理に追われた。
同じ頃、不動産に分相応なまでに莫大な投資をしていた人も破綻していた。当時は銀行が「借りてくれ」と営業に回るくらいカネが余っていたのだ。その人は不動産に大金をつぎ込んだ結果、1993年の総量規制で首が回らなくなってしまった。
当時、金策に窮して消費者金融にも手を出して追い込まれて自殺した人も社会問題となっていた。
そういうのを見てきているので、投資は一歩間違えると自分の人生を破壊してしまうというのを私は肌感覚でとらえている。
近年では、投資系SNSで人気を集める銘柄を鵜呑みにし、大きなリスクを認識せずに新興市場の急騰銘柄へ大金を投じた投資家が破綻に至った例もある。SNSで語られる「夢」や「将来性」には信憑性なんかないものも多い。
しかし、それを信じた結果、下落局面で売り抜けることができずに巨額の含み損を抱え、金銭的にも精神的にも打ちのめされた人も多い。
フルインベストの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』
破産する人たちが陥る投資方法
株式市場は膨大な資金が流れ込む一方で、終わりなき誘惑と恐怖が交差する。
高リスクへ踏み込む者ほど、相場急変時にすべてを失う。彼らは一時的に莫大な利益を手にしても、その利得が無常の幻であると知ることなく、最後には重い代償を支払って市場を去っていく。これこそが株式市場の冷厳な現実である。
株式市場で破産する人たちが陥る投資方法には共通点がある。真っ先に挙げられるのが、過度な信用取引の利用だ。
自己資金以上の取引余力を与える信用取引は、大きな利益を狙える可能性を秘める。だが、下落局面に突入したとき、莫大な追証を請求されるリスクが膨張する。信用取引で失敗する人は、多額の借金を抱えながら値が戻るのを待ち続けて破滅する。
あと、信用取引に限らず、FXや先物取引など多彩なレバレッジ手段を用いて資金効率を極限まで高めることを好む人も多い。一瞬の値動きが自身の資産を跳ね上げることに興奮し、さらに大きなリスクを積み重ねる。
だが相場が反転すると、そのレバレッジは破壊力を伴って損失を拡大させる。資金管理を怠ったまま取引を続ける投資家は、最後には致命傷を負う。
無謀なまでの集中投資もかなり危険度が高い。個人投資家の中には、わずか1〜2銘柄に全財産をつぎ込む人もいる。リスクを分散させる意識を持たず、とにかく「大化け」を狙って一点に集中する。
もし当該銘柄が大きく値上がりすれば巨額のリターンを得られる。逆に、万が一でも経営不安や不祥事が起これば一気に暴落し、逃げ場なく大損となる。実際、ある新興IT企業に全資産を賭けた投資家がその企業の不正会計発覚により株価が暴落した結果、一夜にして財産を失った事例がある。
あるいは、ハイリスク銘柄へ過剰投資する人もいる。業績の安定しない企業や未知数の新興銘柄へ大量の資金を投入する。成長期待が語られている企業は投資家に夢を与えるが、実態が伴わない場合は株価の乱高下に巻き込まれやすい。
少数の当たり株をつかめば一気に儲かるが、失敗したときのダメージは甚大となる。破産を経験する投資家は、大半がこのようなハイリスク銘柄に偏ったポートフォリオを組んでいる。
『邪悪な世界のもがき方 格差と搾取の世界を株式投資で生き残る(鈴木傾城)』
相場では損した人のほうが圧倒的だ
こうした人々は、適切なリスク管理が欠如している。儲けることは考えても、生き残ることは考えない。
分散を軽視し、全力買いや一点張りのギャンブル的な手法に走る。株価が好調なうちは明確なリスク管理を怠っていても利益が出るので、さらに強気な投資を重ねてしまう。下落が始まってから慌て、どう対処すればよいかわからないまま損失を拡大する。
相場が順調なときは神のごとき万能感に浸るが、逆風が吹いた瞬間に総崩れになる。そうは言っても、信用取引やレバレッジの魔力は特に強烈で、勝ち続けると増大する利得に酔いしれてしまう。
こうした投資で成功した人もいるが、人々が気づいていないのは、その裏側で膨大な人々が大損して誰にも何も言わずに黙って相場から去っているからだ。大損して消えた人は、誰にも顧みられることもない。そのため、相場で成功した人ばかりのように見える。錯覚だ。相場では損した人のほうが圧倒的だ。
破産につながる人は、往々にして感情的な取引で失敗している。市場の値動きに振り回され、冷静さを失った取引を繰り返す人は多い。噂話に踊らされ、わずかな情報をもとに大金を投じ、相場が急騰しているときには強欲に買い進み、下落しはじめるとパニック売りをしてしまう。
理性を欠いた衝動的な売買は、結果的に高値づかみや底値売りを誘発し、損失を重ねて資金を溶かすことになる。
それが借金だったりしたら最悪の結果となる。中にはカードローンや銀行からの借入金で投資している人すらもいる。自分の範囲を超えた負債を抱えている状況で、株式相場の変動を冷静に受けとめられるはずがない。
精神的重圧により冷静さが欠落し、損したらギャンブル的に一発逆転を狙う行動に陥る。「相場の損は相場で取り返せ」という言葉もあるのだが、そういう発想でやっていると、ますます深みに落ちる。そして、借金だけが残ることになる。
『亡国トラップ-多文化共生- 多文化共生というワナが日本を滅ぼす(鈴木傾城)』
多くの人は自分の実力を過信する
投資で破滅に至るのは、投資家が自ら選択するハイリスクな手法に根差していると言っても過言ではない。
株式売買は短期になればなるほど、刹那的になればなるほど、ギャンブルの要素が強まっていく。そこに大金を賭けたり、信用やレバレッジを使ったりすると、投資は一気にギャンブル化する。
集中投資やハイリスク銘柄への過度な資金配分も、リスクに見合わない夢を追いかける行為である。彼らは「一瞬で金持ちになる」ことだけを考えている。短期的な大きな利益に魅了されている。
株式市場は長期的に見れば上場企業の成果を投資家に配分するしくみだが、短期的には投機の魔力が渦巻く場所であり、そこに惹きつけられた者の多くが高い代償を支払っている。
投機的な短期取引に偏る投資家は、運よく勝てる期間があっても、いずれ相場の急落や予測不能な出来事によって資金を失うことが多い。もちろん、そこで成功し続けることができる人もいるのだが、それは限られた人だけである。
だが、多くの人は自分の実力を過信しやすく、ボラティリティが高い場面で成功体験を積むと、自分の実力を過信してしまう。
特にSNS上で、一瞬で「億り人」になった人の話が拡散されると、自分にも同じ成功が手に入ると信じ込み、リスクを顧みずに大金を投じる。もしかしたら、嫉妬も混じっているのかもしれない。
そうやって資金を吹き飛ばして、投資する前よりも悲惨な状況になった人たちを見ていると、いかに自分をコントロールすることが大切なのか見えてくる。
大勝ちを目指した強引な取引、過度に期待をかけた銘柄への集中、戻らない株価を祈るように見守る執着……。株式市場は欲望と恐怖が複雑に絡み合う世界であり、自己統制を失った人の末路は悲惨だ。
そこでは、冷静さを失った瞬間に破滅のフラグが立つ。儲けることは考えても生き残ることは考えない人は、最後にはやられてしまう。
