
カルト株とは、企業の業績や収益性といったファンダメンタルズに見合わないほど、熱狂的な支持者を獲得している銘柄を指す。こうした銘柄は、SNSやオンラインコミュニティを中心に「信者」と呼ばれる投資家集団が形成され、正当な評価を超えた株価上昇を演出する場合が多い。カルト株に惹かれる人は多い。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
熱狂的な支持者を獲得している銘柄
2025年1月29日、Tesla【TSLA】は決算を発表したのだが、2年連続で利益が減少し、アナリストの市場予測も大きく下まわった。それで、どうなったのか。テスラの株式は3%以上の上昇を見せた。
「テスラは自動車企業ではない。総合AI企業だ。すさまじい将来性がある」と投資家は熱狂して、イーロン・マスクCEOに対して絶大な支持を送る投資家が「テスラは財務諸表で語ってはいけない会社」だと述べていた。
一方、こうした熱狂の中で「テスラはカルト株である」と断言して距離を置く投資家も出てきている。じつはS&P500銘柄の中には、宗教的なまでに熱狂的支持を受けている企業がいくつかあって、そうした銘柄は「カルト株」と呼ばれている。
カルト株とは、企業の業績や収益性といったファンダメンタルズに見合わないほど、熱狂的な支持者を獲得している銘柄を指す。こうした銘柄は、SNSやオンラインコミュニティを中心に「信者」と呼ばれる投資家集団が形成され、正当な評価を超えた株価上昇を演出する場合が多い。
実際に、カルト株は周囲の冷静な分析を無視するかのように急騰と急落を繰り返し、株価チャートは乱高下の様相を呈する。業績が赤字続きであるにもかかわらず、熱量だけで高値を更新し続ける例も存在する。
こうした現象は、一種の集団心理や祭りのような雰囲気によって支えられている。
カルト株の背後には、SNSで拡散される偏った情報や、特定のインフルエンサーが発信する強烈な買い煽りがある。こうした情報は真偽の検証が疎かにされるため、適正な株価評価からは著しくかけ離れた状況を生む。
つまり、理屈ではない動きをするのが「カルト株」の正体なのだ。
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カルト株に取り込まれる投資家は多い
カルト株は、一般的な株式投資とは異なる危うさをはらんでいる。決算の悪材料が出ても、相場の暗転が起きても、支持者はまったく怯まない。理性的な判断ではなく、狂信的な感情で動いているので悪材料が出れば出るほど買い支えに回る。
すると支持者は、下落しない株価に確信を強め、より熱狂のボルテージを上げていく。その状況の危うさを語る人物がいると、口汚く罵り、叩きのめし、自分たちの「砦」を守り、布教する。
こうして次々と信者が生まれ、株価は実態とかけ離れた水準に到達する。
カルト株に目を奪われる投資家は、しばしばCEOを教祖化し、CEOが語る将来計画を過度に理想化して捉える。企業の売上高や営業利益、さらには市場シェアなどが芳しくなくても、未来の大化けを確信する声がコミュニティ内で大きく拡散される。
こうした空気の中で形成されるカルト株は、夢のような急騰劇を演じることもしばしばある。だが、そこには明確な根拠はない。実際の事業展開が伴わず、財務諸表にも劇的な改善が見られない場合でも、信者の買い支えによって株価が跳ね上がる。
まだ開発段階にあるサービスでも過度に評価され、短期間で株価が上がる。
株式市場は本来、企業価値の増大を正当に評価する場であるはずだが、カルト株の場合はその原則が大きくゆがめられる。狂騒の果てに待ち構えているのは、通常の投資判断では説明しがたい評価と、極端な価格変動《ボラティリティ》である。
異常なボラティリティがあると、今度は投機家も乗り出してくる。冷静さを失ったトレードが横行し、自己陶酔と集団幻想が繰り返される。これこそがカルト株の真の姿である。
S&P500の銘柄の中には、そうしたカルト株もいくつか潜んでいる。熱狂がいつまで続くのかは、誰にもわからない。それでも、熱狂は伝播するものなので、カルト株に取り込まれる投資家は多い。
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大きく儲けたいという群衆心理
カルト株に投資する第一の危険性は、投機的な欲望が暴走してしまう点にある。
一般的な銘柄であれば、企業の利益成長率や業界の動向などを踏まえて冷静に値動きを判断する。だが、カルト株では、熱狂的なコミュニティが醸成する過度な期待や噂が独り歩きしており、事実を無視した取引が普通になる。
この状況では、通常のファンダメンタル分析がまったく機能しない。
たとえば当該企業の財務指標が深刻な赤字を示しているにもかかわらず、コミュニティ内では「将来の画期的な技術がすべてを変える」という楽観論が幅を利かせる。ここでは合理性よりも熱気が優先される。
支持者は短期的な利益に目がくらみ、大きなリスクを軽視する傾向が強まる。
彼らが買い支えて上がっていくのであれば、それはそれで結構なことなので、べつに熱烈な「信者」でもない人も投機熱に煽られて引き寄せられていく。そして、カルト株は投機株になる。
こうした投機が高まる背景には、短期間で大きく儲けたいという群衆心理がある。カルト株は夢を見せてくれるのだ。
だが、夢というのは往々にして人々の目をくらませる危険なワナになる。夢が覚めて現実に戻ると、ある日突然いっせいに「売り」が発生し、株価は一気に暴落する。問題は、いつ何がきっかけで夢が覚めるのかわからないことだ。
テクノロジー企業やバイオ関連銘柄など、将来性を過度に夢想しやすい領域でカルト化が起きやすい。投資家は「新技術がブレークスルーを起こす」などのストーリーに飛びつき、実際の研究開発進捗や資本力を検証しないまま大金を投じる。
こうした行動は、初期には大きな利益をもたらすことがあるが、根本的な裏づけが希薄である以上、ある程度の期間が過ぎると空虚な神話として崩れ去ることが多い。
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結局のところカルト株はギャンブルか?
カルト株に投資したら、絶対に損するわけではない。むしろ短期間で莫大なリターンを得る例も存在する。だからこそ多くの投資家が引き寄せられ、コミュニティに深くのめり込むのだ。
一部の成功体験が過剰に語られ、その輝きが投資家の判断力を奪う要因になる。実際、ネット上にはカルト株を爆買いして「数倍になった」「短期間で人生が変わった」といった成功談がいくつも転がっている。
1990年代後半に起きたドットコム・バブルは、まさにカルト株が満ちあふれていて、ナスダック市場全体が多幸感に包まれていた。
だが、本質的にカルト株はボラティリティが極端に高く、リスクとリターンの振れ幅が想像を超える。上昇局面で大胆に資金を投入すれば一時的に大儲けできるが、その後の暴落で資産が激減する危険性は極めて高い。
地合いが悪化すれば、熱狂が恐怖に変わって投げ売り状態に陥ることも珍しくない。
それでもカルト株に大金を投じる投資家が後を絶たないのは、短期的な爆発力に魅了されるからだ。ギャンブル的な側面が強い一方、成功したときのリターンがあまりにも刺激的であるため、カルト株は人々の欲望をかき立てる。
こうした爆発力に飛びつくことが絶対的に悪いわけではないとしても、ファンダメンタルズから外れたリスクは無視できないものがある。瞬間的に資産を倍増できたとしても、次の暴落で資金をすべて失う危険がつねにつきまとう。
結局のところ、カルト株はギャンブル要素が強い銘柄なのだ。短期的な金銭的成功を生む場合があるものの、長期投資に値する銘柄ではない。熱狂的コミュニティが生み出す過度な期待は、かならずしも企業の実力を反映したものではないのだ。
私自身は、カルト的な雰囲気を持つようになってファンダメンタルズに乖離していく銘柄を見たら、そこには近づかないようにしている。
