IBMは少しずつ成長しつつあるが、今もかつてのブランド力を取り戻していない

IBMは少しずつ成長しつつあるが、今もかつてのブランド力を取り戻していない

かつてIBMは、並び立つものがいないほどの「ハイテクの巨人」だったが、このIBMを叩きのめしたのがMicrosoftだった。当時、IBMはPC(パーソナルコンピュータ)を軽視していたのだが、1990年代に本当に重要だったのはPCだった。今も、IBMはこの戦略的失敗から立ち直っていないように見える。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

クラウドとAIで復活しつつあるIBM

IBMは2024年度第4四半期の連結決算を発表しているのだが、IBMの生成AI関連ビジネスの規模が累計で50億ドルを超え、前四半期比で約20億ドル増加している。この企業が、AI市場においても強固な地位を築きつつあるのが見て取れる。

総収益は176億ドル、前年同期比1%増、為替変動の影響を除くと2%増となった。特筆すべきは、ソフトウェア事業の好調さである。ソフトウェア事業の収益は10%増(為替変動の影響を除くと11%増)の79億ドルを記録した。

この成長を牽引したのがRed Hatで、16%増(為替変動の影響を除くと17%増)と大きく伸長している。

Red Hatと言えば、かつてはLINUXを代表するディストリビューションであったが、IBMがRed Hatを340億ドルで買収してからエンタープライズ市場での影響力が増し、クラウドやAI分野での技術統合が進んでいる。

このRed Hatの買収に中心的な役割を果たしたのが現在のCEOであるアービンド・クリシュナ氏だ。クリシュナ氏は、3年前に掲げた成長加速と収益性向上のビジョンを達成し、さらにそれを上回る成果を出していると述べている。

また、2025年以降も順調な成長を見込んでおり、少なくとも5%の売上成長と約135億ドルのフリー・キャッシュ・フローを予想している。

これらの結果は、IBMが着実に復活への道を歩んでいることを示している。ソフトウェア事業の成長、AI市場での存在感の拡大、収益性の改善など、さまざまな面でIBMの戦略が功を奏しているのがわかる。

ちなみに、日本が命運をかけている半導体メーカー「ラピダス」が共同開発パートナーシップとして選択したのがIBMである。IBMの先端半導体技術をラピダスが活用し、日本国内での最先端半導体生産を目指している。

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着々と成長していこうとしている

IBMは、その長い歴史と豊富な実績を背景に、世界有数のテクノロジー企業として君臨している。創業は1911年にまで遡り、かつては計算機械やパンチカードシステムを主要製品としていた。

以後、時代の変遷と共に技術革新を遂げ、現在ではハードウェア、ソフトウェア、クラウド、人工知能、コンサルティングなど多岐にわたる事業領域を持つ。

企業本体はニューヨーク州アーモンクに本社を置き、世界中に展開するグローバル企業としての顔を持ち、日本とも関係が深い。

IBMの事業は、ハードウェア製品に加えて、Watsonと呼ばれる人工知能プラットフォームや、Red Hatの買収を起点とするオープンソースソリューションなど、先端技術に裏打ちされたソリューションを提供する。

かつてIBMは、並び立つものがいないほどの「ハイテクの巨人」だったが、このIBMを叩きのめしたのは、WindowsをひっさげてOSの独占に乗り出したMicrosoftだった。当時、IBMはPC(パーソナルコンピュータ)を軽視していたのだが、1990年代に本当に重要だったのはPCだった。

この分野をMicrosoftにごっそり持っていかれたのがIBMの歴史最大の失敗だった。

この戦略的失敗でIBMはMicrosoftにハイテクの王座の座を譲ることになり、以後は迷走して存在感を失っていった。今、ハイテクの世界は「マグニフィセント7」と呼ばれる企業が世界に君臨しているが、残念ながらIBMの名前はそこにない。

そういう意味では、IBMは今もなお「完全に復活した」とはいえない状態なのかもしれないが、Red Hatをコアにして着々と成長していこうとしている。

今やIBMは、グローバルな経済環境下で多角的なビジネス展開を行い、既存事業と新興技術の融合を図ることで、技術革新と市場ニーズに応える体制を整えている。アービンド・クリシュナCEOの手腕には期待したい。

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どこに焦点を当てるのか興味深い

現代のテクノロジー業界は、急速なイノベーションと市場構造の変革が激しく交錯する。AIの分野にしても、これまでアメリカのAIがリードしてきた中で、中国のDeepSeekが安価で高度なAIを出してきたことによって一気に業界の光景が変わった。

こうした激変が恒常的に起こるのが情報技術分野の世界だ。

今後も、クラウドコンピューティング、人工知能、量子コンピューティング、ロボット、自動運転など、次々と登場する先端技術で絶え間なく続き、企業の趨勢が変わっていくはずだ。

アービンド・クリシュナCEOは、IBMの長年の経験と膨大な研究開発力に裏打ちされた技術基盤を武器に、既存のハードウェア市場からサービス領域へのシフトを断行して、それを成功させている。

これに対し、Amazon Web Services、Microsoft Azure、Google Cloud Platformといったクラウド大手企業は、シンプルかつ柔軟なサービス提供により市場シェアを拡大し、IBMにとっては厳しい競争環境が広がっている。

IBMがここからさらに成長するには、何らかの革新的なイノベーションが必要になってくるのだと思うが、クリシュナCEOがどこに焦点を当てるのか興味深い。

ただ、ひとついえるのは、これまでIBMはつねにエンタープライズ寄りであり、その方針は今後も変わらないと予想されることだ。とすれば、クリシュナCEOは、AIとコンサルティングの融合の部分を強化していくはずだ。

ハード面でIBMの起爆剤があるとしたら、それは量子コンピューターの分野になるのかもしれない。現在、IBMの量子コンピューターに40万人以上のユーザーが登録し、研究開発が進んでいるという話だ。

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劇的に復活してくれたら面白いが……

IBMは成長を取り戻しつつある。この状況が続くのであれば、IBMへの投資は面白い局面にあるといえる。IBMは長い歴史の中で培われた技術力と研究開発体制、そして堅牢な顧客基盤を有しており、それは現在も機能している。

膨大な特許保有数や、業界をリードする人工知能やクラウドサービスは、今後の市場成長を支える大きな強みとなる。

また、Red Hatの買収をはじめとする戦略的なM&Aは、オープンソース技術の強化や新市場への進出を可能にし、短期的な収益拡大と長期的な競争力強化の両面で評価される。さらに、グローバルな事業展開と政府機関、大企業との深い関係は、安定した収益基盤として投資家に安心感を与える要素である。

IBMの投資はこうした部分が評価できるはずだ。

一方で、欠点としては、歴史ある企業であるがゆえの組織の硬直性や、精彩を失って「地味な企業」になってしまっている現状が、やや心配材料となる。

急速に変化するテクノロジー市場において、クラウド市場の主要プレイヤーとの競争は熾烈を極める。IBMの現在の成長が競争が激化する業界で間に合うのか否かは依然として不透明だ。

競合環境や内部改革の進捗状況次第では、投資リターンに大きな変動が生じる可能性もある。

IBMは1990年代のWindows95の時代に凋落して、今もなお、かつてのブランド力を取り戻していないと個人的には思っている。もし、IBMが1990年代に戦略を間違わずにPCのOSをしっかり押さえておけば、今のMicrosoftの立場はIBMであったかもしれない。

時価総額で見ると、IBMはマグニフィセント7銘柄には並び立つこともできないほど劣後してしまった。2000年代には瀕死状態だったAppleが復活したように、ここからIBMが劇的に復活してくれたら面白い展開だと思っている。

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