マグニフィセント7に交差する強気と弱気。現在の巨大なAI先行投資は報われるか?

マグニフィセント7に交差する強気と弱気。現在の巨大なAI先行投資は報われるか?

マグニフィセント7の大規模なインフラ投資を要するクラウドサービスが、これまでのように安定した収益を保証してくれない状況が生じ、AI関連事業の収益化にも時間を要する以上、しばらくはコストとリターンの乖離が目立つ状態に陥る。これによって、投資家のあいだでは強気と弱気が交差するようになった。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

マグニフィセント7に激震が走る

現在、メガテック企業群として知られているAmazon、Microsoft、Alphabet(Googleの親会社)、Apple、Meta、Tesla、NVIDIAは、「マグニフィセント7」と呼ばれ、突出して巨大な時価総額を誇り、世界に影響を与えている企業群である。

現在、S&P500全体の時価総額の約30%を占めているほど巨大だ。

これらの企業に共通している強みは、それぞれが独占的な製品を持ち、先端テクノロジーを実用レベルへ迅速に落とし込み、市場を席巻することで莫大な利益を上げられる点だ。

特にクラウドサービス分野は、AmazonのAWS、MicrosoftのAzure、そしてGoogle Cloudなどが猛スピードで成長し、収益源としての地位を確立している。このクラウドビジネスは、AIの広がりで今後も成長エンジンであり続けると考えられていた。

ところが、最近になって様相が一変している。

中国で設立されたDeepSeekという企業が2025年1月に「DeepSeek-R1」モデルを公開したのだが、のモデルは低コストで開発されたにもかかわらず、OpenAIの最新モデルと同等の性能を持つと報告された。

この発表は「DeepSeekショック」として市場に大きな影響を与えた。2025年1月27日、AI関連銘柄の株価が急落し、特にNVIDIAの株価は17%下落、時価総額が91兆円減少するという惨事に見舞われた。これは、AI開発に莫大な資金が不要ではないかという疑念が生じたためである。

そして、ハイパースケーラーなデータセンターに莫大な金額を使っているAmazonや、Microsoftや、Googleや、Metaなどにも、無駄な設備投資をしているのではないかという疑念を抱かれて動揺が広がっている。

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これまでの強みが弱点へ転じる構図

マグニフィセント7のうち、Amazon、Microsoft、Alphabetはクラウド分野の雄として知られてきた。

AWSはEコマースで培った膨大なデータ分析基盤を武器に、AzureはWindowsやOfficeといった企業向けソリューションとの親和性を生かし、Google Cloudは検索エンジンで得た技術力を活用してクラウド市場を切り拓いた。

この三社が競い合うことでクラウドサービスは急速に普及し、企業のデジタルトランスフォーメーションを後押ししてきた。これらの企業がAI関連のデータセンター構築へ巨額の資金を投じるようになり、設備コストの増大が収益の足かせになっている。

AmazonのAWSは、年間成長率50%超を誇っていた5年前と比較して、現在は20%ほどに減速している。Google Cloudも30%前後の伸びを示しているが、かつての勢いからすれば鈍化している側面が否めない。

それでも、これまでなら市場はAI投資を歓迎し、次のブレイクスルーにつながる大きな一歩と捉えていた。だが、DeepSeekの登場で投資家は「本当にそのストーリーは正しいのか?」と疑念を持つようになっている。成長が鈍化する中ではなおさらだ。

最近の投資家の目線はより短期的な収益性にシビアになっている。2025年にはマグニフィセント・セブンだけでも3,000億ドル以上をAIに投じる計画があるとされているが、この設備投資の拡大が利益率の低下に結びつきかねないとの懸念が強まっている。

大規模なインフラ投資を要するクラウドサービスが、これまでのように安定した収益を保証してくれない状況が生じ、AI関連事業の収益化にも時間を要する以上、しばらくはコストとリターンの乖離が目立つ状態に陥る。

つまり、クラウドという成長エンジンが減速しはじめた一方で、AIへの大規模投資はすぐには十分なリターンを生まなくなってきた。結果として、投資負担と収益減速が同時に企業価値に重くのしかかり、これまでの強みが弱点へ転じる構図が形成されている。

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リソース制約下で高性能なAIモデル

AIブームは企業や行政機関のあいだでデータ活用を促し、クラウドプラットフォームの需要を一段と押し上げると見込まれた。そのため、ビッグテック各社は早期に巨大なリソースを確保しようと積極的に設備投資を拡大し続けている。

GPUや専用チップの調達、データセンターの新設、さらにはクラウドセキュリティの強化など、あらゆる領域で資本が投下された。このような先行投資は利用者が増え続ける限り利益を保証し、きたるべきAI市場の寡占を進められるはずだった。

ところが、DeepSeekは一気にそれを覆した。

DeepSeekが開発した「DeepSeek-R1」は、わずか600万ドル以下という低コストで訓練されながら、OpenAIやGoogleなどの大手企業が数十億ドルを投じて開発したモデルに匹敵する性能を持つと発表された。

この成果は、従来のAI開発における「資本力が競争優位を決定する」という常識を根底から揺るがすものだった。

DeepSeekはNVIDIAの最新GPUであるBlackwellではなく、中国市場向けに制限されたH800チップを用いながらも、高度な蒸留技術によってモデルの効率化と高精度化を実現した。このアプローチは、リソース制約下でも高性能なAIモデルを構築できることを示し、多くの専門家から「破壊的イノベーション」と評価されている。

ただ、DeepSeekは中国企業であり、同社の発表は画期的である一方、いくつかの点で懐疑的な見解も存在するのも事実だ。同社が主張する「600万ドル未満の低コストで開発」という数字に関して、多くの専門家がその正確性を疑問視している。

DeepSeekが使用したとされるH800チップのみで、これほど高性能なモデルを構築できたかについても議論がある。一部では、同社が実際にはH100チップを秘密裏に利用していた可能性を示唆する声も上がっている。

H100は米国による輸出規制対象であり、中国企業がこれを入手することは困難とされるが、この疑念は完全には払拭されていない。

ただ、モデルの効率化によってLLM(大規模言語モデル)の進化が可能で、しかもそれがオープンソースで提供されたのであれば、今後は一気にLLMがコモディティ化していく道筋ができた。

そうなればハイパースケーラーな巨大データセンターに対する先行投資は正当なのかどうかをAmazon、Microsoft、Alphabet、METAなどは証明しなければならなくなる。本当に投資資金は回収できるのかと投資家は疑いはじめている。

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強気と弱気が交差する局面にきている

AI化の波は社会に不可逆的な変革をもたらしており、それ自体がビジネスチャンスであることは間違いない。ただ、その先行投資に要するコストが莫大になる以上、投資家が警戒感を強めるのは当然である。

投資家目線で考えると、現在のマグニフィセント7のバリュエーションの高さは「本当にここから、買い進めてもいいのか?」という懸念を生み出しており、強気と弱気が交差する局面にきている。

マグニフィセント7の2025年の予想PERは平均40倍程度と、S&P500全体の約21倍と比較して高い水準にある。

だが、「これらの企業の成長率を考慮すると、これがかならずしも割高とは言えない」と主張するアナリストも多い。たとえば、ウェドブッシュのアナリストであるダン・アイブス氏は、マグニフィセント7の成長性について強気の見解を示している。

ダン・アイブスは特に、AI技術がこれらの企業の成長を加速させる重要な要因であると主張しており、2024年から2025年にかけてAI関連の投資が企業の生産性向上と利益拡大に寄与すると予測している。

ゴールドマン・サックスも同様に、これらの企業の成長率が高い限り、現在のバリュエーションは正当化されると指摘している。特にNVIDIAなどの企業は、AI市場での収益性が高く、バリュエーションが収益によって吸収可能であるとの見解を示している。

JPモルガンのストラテジストによると、マグニフィセント7のうち5社は過去5年間のPERの中央値を下回る水準にあるという。これは、現在のバリュエーションがかならずしも歴史的に見て高すぎるわけではないという見方もあることを示唆する。

一方で、モルガン・スタンレーのマイク・ウィルソン氏は、マグニフィセント7の株価上昇が市場全体のリスクを高めていると指摘し、これらの銘柄に過度に依存することの危険性を警告している。

JPモルガン・チェースのマルコ・コラノビッチ氏も、マグニフィセント7の株価が過度に上昇しており、市場のゆがみを引き起こしていると警告している。

強気が正しいのか、弱気が正しいのかは、現在の巨大なAI先行投資が、どれだけ早く莫大な利益を生み出すかどうかにかかっている。ハイテク業界の動きは非常に早くて、それこそ今日の動向は明日にも変わることもある。

目が離せない興味深い局面だ。

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