ベッセン財務長官から見えるトランプ政権のゆくえ。大統領を取り囲む人脈の正体

ベッセン財務長官から見えるトランプ政権のゆくえ。大統領を取り囲む人脈の正体

トランプ政権の中でもっとも興味深いのはスコット・ベッセントかもしれない。ベッセントは、ドナルド・トランプ大統領によって財務長官に指名された人物であり、経済界での豊富な経験を持つ戦略家でもある。トランプ政権の経済政策はベッセン財務長官から来ている可能性がある。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

スコット・ベッセントの人物像

トランプ政権の中でもっとも興味深いのはスコット・ベッセントかもしれない。ベッセントは、ドナルド・トランプ大統領によって財務長官に指名された人物であり、経済界での豊富な経験を持つ戦略家でもある。

経歴は、ソロス・ファンド・マネジメントの元幹部としての活動や、自身が設立したヘッジファンド「キー・スクエア・キャピタル・マネジメント」の運営など、多岐にわたる。キー・スクエアは2015年に設立されたヘッジファンドだが、主にグローバル・マクロ戦略を採用していた。

わかりやすく言うと、地政学的動向や経済政策、金融市場の大局的な動きを分析し、それに基づいて外国為替、株式、債券、コモディティなど多様な資産クラスに投資するものだ。

ベッセントは政治的・経済的イベントを正確に予測する能力で知られ、2016年のブレグジットや米大統領選挙でのトランプ勝利を的中させ、それに伴う市場変動から利益を上げた。

キー・スクエアの投資戦略は「リスクとリターンの非対称性」を重視している。つまり、小さなリスクで大きなリターンを狙うアプローチを取っていた。

特に外国為替市場への強みが際立ち、企業の資金移動や通貨保有の動機を深く分析することで成果を上げた。また、柔軟な資産配分も特徴であり、株式や債券、コモディティなど幅広い分野に投資していた。

たとえば、2022年には米国インフレの長期化を予測し、債券売りやハイテク株売りを仕掛けて年間29%という高いリターンを達成している。こうした人物が財務長官に指名されたわけであり、投資分野で見るとスコット・ベッセントの目指している戦略を知るのは役に立つのは理解できると思う。

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「クリーンエネルギー競争」への懐疑

ベッセントはトランプ大統領選挙キャンペーンにおいて経済アドバイザーを務め、関税政策やエネルギー政策を含む「米国第一主義」を支持する姿勢を明確にしてきた。逆にいえば、トランプ政権の経済政策はベッセントの骨子を取り入れているものであるともいえる。

しかし、ベッセントの政策提言には批判も少なくない。特に、エネルギー政策に関しては、批判が渦巻いている。再生エネルギーに冷淡だからだ。ベッセントのエネルギー政策は、「安価なエネルギーが経済競争力を左右する」という信念に基づいている。

安価なエネルギーとは何を指すのか。
それは化石燃料、特に石油や天然ガスである。

ベッセントは、バイデン政権が押し進めてきた再生可能エネルギー政策には非常に懐疑的な立場で、「化石燃料の採掘拡大や規制緩和を通じて、米国がエネルギー市場で優位性を確保する」ことを目指している。

もちろん、中国との「クリーンエネルギー競争」に対しても懐疑的だ。中国が石炭火力発電所や原子力発電所を多数建設しているのに、なぜアメリカがわざわざ高額な再生可能エネルギーを進める必要があるのか、という立場だ。

「再生可能エネルギーへの過度な依存が経済的リスクを伴う」とベッセントは考えている。再生可能エネルギーや電気自動車(EV)の普及がもたらすコスト増加や供給不安定性を問題視しており、それらが国家経済全体に与える影響についても警鐘を鳴らしている。

このような姿勢は、一部から支持を得る一方で、環境保護団体や再生可能エネルギー推進派からの強い反発も招いているのだが、ベッセントは、「クリーンエネルギー競争」は一部の国際的な政治的アジェンダによって推進されている側面があり、それがかならずしも米国の利益と一致するわけではないという立場を貫いている。

ドナルド・トランプの「ドリル・ベイビー・ドリル(掘って、掘って、掘りまくれ)」政策は、ここから来ているのだ。

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エネルギー生産拡大の推進

ベッセントが提唱するエネルギー政策は「3-3-3」政策と呼ばれている。この政策は、

財政赤字をGDP比3%まで削減し、
経済成長率3%を目指し、
日量300万バレル相当のエネルギー生産増加を達成する

という野心的な目標を含む。日量300万バレル相当のエネルギー生産は、アメリカ一国の増産計画としては非常に大きな目標である。この計画は、米国が世界最大級のエネルギー生産国としての地位をさらに強化し、それによって地政学的影響力を高めることを目的としている。

「3-3-3」政策には、一部で期待が寄せられている。たとえば、増産によるエネルギー価格の低下はインフレ抑制効果をもたらし、それが結果として消費者や企業活動に好影響を与えるとされている。また、増産分が輸出されれば、米国の貿易赤字削減にも寄与する可能性がある。

だが、この計画には多くの課題も存在する。

まず、既存インフラや環境規制との整合性が問題視されており、大規模な増産には新たな設備投資や規制緩和が不可欠となる。また、国際市場での需給バランスや価格変動リスクも無視できない要素となる。

さらに、このような化石燃料重視の政策は気候変動対策への逆行とみなされ、今後は国内外から激しい批判と大規模な反対抗議デモによって混乱する可能性もある。しかし、トランプ政権がそんなもので折れるわけがない。

反対が燃えさかれば燃えさかるほど、むしろ強硬になって「ドリル・ベイビー・ドリル」を押し進めていくことになるのだろう。

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経済成長との関連

スコット・ベッセントは、「安価で安定したエネルギー供給こそが経済成長の鍵である」と断言している。この考えかたは、一見すると単純明快だが、その背景には深い戦略的洞察がある。

ベッセントによれば、低コストのエネルギー供給は製造業や輸送業など幅広い産業分野で競争力強化につながり、それが結果としてGDP成長率向上にも寄与する。さらにベッセントはエネルギー価格低下によるインフレ抑制効果にも注目しており、それによって購買力向上や消費拡大が期待できると述べている。

このような視点から見ると、ベッセントのエネルギー政策は単なる資源開発推進ではなく、「経済全体への波及効果」を重視した包括的な戦略と言える。

トランプ政権がこの化石燃料重視に本気なのは、エネルギー長官にクリス・ライトを選んでいることからもわかる。クリス・ライト氏は石油掘削サービス企業リバティー・エナジーの最高経営責任者である。

内務長官および国家エネルギー評議会の委員長はダグ・バーガム氏だが、この人物は原油生産量が米国で第3位のノースダコタ州の知事である。

つまり、トランプ政権2.0は、実質的には「化石燃料」内閣なのだ。トランプ大統領は就任してからすぐに「私はただちに不公平で、一方的なパリ協定から離脱する」と述べて大統領令に署名しているのだが、それを見てもトランプ政権が何者なのかがわかるはずだ。

トランプ大統領は「関税マン」であると同時に「石油マン」でもある。大統領を取り囲む人脈は「石油関係者」が固めている。

今、世界は人工知能(AI)による覇権争いのまっただ中なのだが、AIは、とにかく電力を莫大に食う。そのため、ベッセントの言う「安価なエネルギーが経済競争力を左右する」という理解は正しい。その安価なエネルギーの中心に石油がある。

今後の4年、アメリカのエネルギー政策から目が離せない。

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