Uber。ビル・アックマンが約3,500億円を注ぎ込んで勝負に出たのがこの企業だった

Uber。ビル・アックマンが約3,500億円を注ぎ込んで勝負に出たのがこの企業だった

創業初期の攻めの姿勢が度を過ぎ、一部で不正行為やセクハラ問題が指摘されるなど、Uberは社会的非難を浴びていた。今でもUberにはあまり良い感触を持っていない投資家は多い。しかし、アクティビスト投資家のビル・アックマンが約3,500億円を注ぎ込んで勝負に出たのがこの企業だった。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

UBERとはどのような企業か?

Uber Technologies【UBER】は、ライドシェアやフードデリバリーなどを展開する巨大なテクノロジー企業である。2010年に米国カリフォルニア州サンフランシスコで設立され、2025年現在、世界70カ国以上、900を超える都市圏で事業を展開している。

主力のライドシェアはアプリと独立したドライバーをマッチングさせるオンデマンド配車サービスであり、従来のタクシー産業を一変させた。需要が急増する時間帯に料金が上昇するサージプライシングや、利用者・ドライバー相互の評価システムが象徴するように、柔軟で効率的な価格設定を可能にしている。

ライドシェア以外にも多角的に事業を拡大してきた。フードデリバリーであるUber Eatsは、レストランや食料品店からの配達を請け負い、利用者と店舗の新たな接点を生み出した。こちらのほうは、日本でもよく知られている。大きな黒いバッグを背負って自転車で街中を走る姿は、もはや日常になった。

カジュアルな食事から高級レストランまで幅広く扱い、デリバリー市場における競合他社との熾烈な競争の中でも、重要な収益源として成長している。

さらにUber Freightという貨物輸送プラットフォームも手がけており、荷主とトラック運転手を結びつけるビジネスモデルを展開している。こうした多角化により、Uberは「単なるライドシェア企業」ではなく、モビリティと物流の両面を支える巨大プラットフォームへと進化している。

Uberの急拡大はギグエコノミーの象徴として語られる。

契約ベースで働くドライバーや配達員は、従来の雇用形態とは異なる柔軟性と課題を伴う。世界各地で法規制や雇用形態をめぐる議論が巻き起こり、Uberも度々批判や法的紛争に直面した。ただし、それを乗り越える形で事業を継続・拡大している点が、この企業のしぶとさだ。

かつては創業期にタクシー業界と対立する場面も多かったが、近年は落ち着いてきている。米国のライドシェア市場においてUberは6割以上のシェアを占めるとされ、フードデリバリー分野でも2割超を確保している。

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Uberに賭けるアクティビスト投資家

最近、このUberに総額23億ドル相当(約3,482億4,550万円)もの巨額投資をして注目を浴びたのがビル・アックマンだ。ビル・アックマンは著名なアクティビスト投資家であり、狙いを定めた企業への大胆な出資と改革提案で知られている。

アックマンが運用するヘッジファンド「パーシング・スクエア」は、飲食チェーンや不動産関連企業、医薬品企業など多方面に投資し、ときに企業経営に積極的に介入するスタイルで注目を集めてきた。

ビル・アックマンはUberを「極めて収益性が高く、現金を生み出す成長マシン」として評価し、その長期的成長余地に賭けた。

アックマンの投資スタンスは短期的なトレードを狙うというよりも、中長期での企業価値向上を目指すものが多い。Uberへの投資を決断した要因のひとつは、同社の多角的ビジネスモデルだと指摘されている。

ライドシェアで確立したブランド力とユーザーベースを軸に、フードデリバリーや物流、そして将来的には自動運転技術への参入を視野に入れ、収益源を拡大している点を高く評価した。

アックマンはUberの株価が「本質的価値に比べて割安」と断言し、同社が市場から正当な評価を受けていないと主張している。上場以来、Uberの株価は急騰と急落を繰り返し、ライドシェア業界が抱える規制リスクや競争激化を背景に、一時的に投資家のセンチメントが悪化する局面もあった。

だがアックマンは、Uberのビジネスモデルがもはや社会インフラとしての地位を確立しており、潜在的な市場規模が極めて大きいと述べている。さらに「ライドシェアやデリバリーだけでなく、会社全体をプラットフォームに据えた多角化戦略を正当に評価すべき」と強調する。

アックマンは企業経営に干渉するイメージが強いが、Uberについては経営陣を高く評価し、トップラインと利益の両面から強い成長を実現できると確信しているように見える。ビル・アックマンが総額23億ドルを賭けてもいいと決断させたのは、ダラ・コスロシャヒCEOである。

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Uberの救世主ダラ・コスロシャヒCEO

ダラ・コスロシャヒは2017年にUberのCEOに就任し、同社を劇的に建て直した立役者である。就任当時のUberは、急激な拡大路線を背景に、さまざまな内部トラブルや創業者との対立、企業文化の混乱が露呈していた。

社内のガバナンス強化やブランドイメージの改善が急務とされる中、コスロシャヒはエクスペディアのCEOとして培った経験をもとに、大胆な改革を断行した。

彼がまず着手したのは、企業カルチャーの刷新だった。

創業初期の攻めの姿勢が度を過ぎ、一部で不正行為やセクハラ問題が指摘されるなど、Uberは社会的非難を浴びていた。コスロシャヒは社内規範を見直し、社員やドライバーを含むステークホルダーとの信頼関係を回復する姿勢を明確に打ち出した。

同時に、業務効率化と財務改善を同時進行させ、上場へ向けた整備を急いだ。結果として、Uberは2023年には黒字計上を実現し、収益性が飛躍的に向上した。

またコスロシャヒは、多角的プラットフォーム戦略を加速させた。ライドシェアの次なる柱としてUber EatsやUber Freightの拡充にリソースを注ぎ込み、利用者と加盟店・運転手を結びつける仕組みを総合的に改善した。

ドライバー確保への取り組みも功を奏し、2023年にはアクティブドライバー数が過去最高水準に達した。これは、パンデミック中に急落したモビリティ需要が回復すると同時に、フードデリバリーは在宅ニーズの増大を背景に拡大し、Uberは安定的に収益を伸ばす基盤を築くことになる。

さらに自動運転技術への展望や新興国市場でのシェア獲得にも積極的である。自動運転分野では提携や投資を通じて未来のモビリティを先取りしようとし、新興国では現地特有の規制やライバル企業に対する戦略を柔軟に進めている。

こうした多面的な拡大路線を成功させるにあたり、コスロシャヒの経営手腕とビジョンが大きく寄与している。

コスロシャヒのリーダーシップで、あきらかに透明性が高まり、事業の可視化とガバナンスの強化が進んだ。投資家にとっては、業績と企業文化の両面が改善されることが重要だが、コスロシャヒはそこを短期間で成し遂げた。ビル・アックマンは、それを高く評価している。

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投資対象としてのUberはどうなのか?

投資対象としてのUberは、短期的な株価変動や規制リスク、競争激化など課題を抱えながらも、長期的なポテンシャルが大きい企業であるともいえるかもしれない。

ライドシェア分野では米国市場の大半を押さえ、フードデリバリー分野でも強力なブランドを確立している。さらに Uber Freightなどの物流事業へ拡大し、自動運転技術の開発にも余念がない。

ただ、利益面の変動は激しく、上場後も株価は乱高下してきた。

2023年以降、会計上の黒字を達成したものの、フリーキャッシュフローや営業利益率の安定化にはまだ時間を要すると考えられる。

Uberは急拡大の最中に多額の投資を行い、新たな事業領域に挑んでいるため、収益が大きく成長するタイミングと投資コストの兼ね合いでEPS(1株当たり利益)の上下動も激しい。だが、規模の経済とネットワーク効果を最大限に活かせるプラットフォーム企業としての強みをダラ・コスロシャヒCEOは活かす能力がある。

規制リスクは世界各国でのドライバーの雇用形態やライセンス問題に直結し、各地域での法制度や利害関係者との折衝が不可避である。これに加えて競合他社が台頭し、配車やデリバリーの市場シェアを狙っている。

それでもUberは、利用者・ドライバー双方にとって使いやすいアプリと強力なブランドを武器にしており、ギグエコノミーの代名詞としての存在感が揺らいでいない。

短期的には市場のセンチメントに左右されやすい銘柄だ。しかし、事業規模の拡大とともにブランド価値も蓄積する。ビル・アックマンのような大口投資家は、短期的な業績変動よりも、数年から十数年を見据えたプラットフォームの成長性に注目しているのだろう。

投資家はUberの継続的な収益拡大とコスト管理のバランス、そして各国での法規制対応を見極める必要がある。それらを克服できれば、Uberは世界規模のモビリティと物流の根幹を支える存在として、さらに事業価値を高めることになる。

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