
AI(人工知能)でエネルギーへの希求が高まるなか、世界中では約60基の原子炉が建設中で、さらに110基が計画段階にある。現在、世界中の原子力発電所が年間に消費するウランは、現在おおむね6万トンくらいだ。最新の予測では、2040年までにウラン需要は13万トンに達する可能性があるとされる。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
原子力発電の復活とウラン需要
世界のエネルギー地図を塗り替える野心的な動きが、今まさに原子力発電の領域で再燃している。AI(人工知能)でエネルギーへの希求が高まるなか、世界中では約60基の原子炉が建設中で、さらに110基が計画段階にある。
かつて停滞していた産業の息吹が、この瞬間に強く戻ってきた。
そして、その中心に位置するのが核燃料として不可欠なウランである。現在、世界中の原子力発電所が年間に消費するウランは、現在おおむね6万トンくらいだ。最新の予測では、2040年までにウラン需要は13万トンに達する可能性があるとされる。
つまり、需要は15年で2倍になる。5年前と比較してウラン鉱石の価格が大きく跳ね上がっていることは、この需要の伸びを如実に反映している。ウランは新たなエネルギー転換期を担う肝要な鉱物として、投資家の注目をふたたび集めているのだ。
ただ、ウランへの投資は荒波が高い。現に今も2024年に高値をつけてから、1年くらい大きく下がり続けている。
原子力発電においてウランを使用可能な燃料形態にまで加工するには、採掘に続き、転換や濃縮といった複雑なプロセスを経なければならない。これらの工程がウランの価格形成に直接影響する上、国際情勢の変動がそこに拍車をかける。
ロシアのウクライナ侵攻以降、加工済みウランの価格が急速に上昇していったのは、その好例だ。安定した供給源と信じられていた地域からのルートがふさがれる懸念が生まれ、各国の発電所運営者にとって燃料確保のリスクが増幅した。
原子力発電は二酸化炭素排出量の削減に大きく貢献すると期待されている一方、事故リスクや廃棄物処理などの難題を抱え、その評価はつねに波乱含みだ。環境保護団体の原子力発電所反対も非常に強硬である。
それでも世界規模の電力需要増大と気候変動への対処という大命題の前では、原子力の復活は既定路線に近い流れを見せつつある。
今後の13万トンという膨大な必要量の背後には、ベースロード電源を確保したいという各国の切実な思惑が透けて見える。今後、原子力発電とウランの関係性はさらに密接化し、その動向は市場全体に少なからぬ影響を及ぼすことになるはずだ。

フルインベストの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』
ウラン供給の課題と地政学リスク
原子力時代の再来を背景に、ウラン需要の拡大は力強い現実として眼前に迫っている。その需要急増の一方で、ウラン供給の先行きには暗雲が立ちこめる。
とりわけ顕在化しているのが、世界の加工済みウラン供給を左右する地政学リスクだ。ロシアによるウクライナ侵攻を機に、ロシアが世界のウラン転換能力の22%、濃縮能力の44%を握っているという厳然たる現実が改めて浮上した。
米国がロシア産ウランの禁輸を打ち出し、一部の電力会社に2027年末までの例外措置を設けたものの、ロシア側は濃縮ウランの輸出規制をちらつかせる。こうした政策の応酬は、核燃料の安定供給への懸念を加速させている。
フランスや米国、カナダに大規模な転換施設があるとはいえ、実際に新たな設備拡充へ踏み切る動きは鈍い。
発電所運営者は供給者が転換施設を増強しなければ長期契約を渋り、供給者は長期契約の保証がないまま大規模投資に踏み切れない。これが、ウランの需要を逼迫させている。
さらに供給面を不安定化させるのがカザフスタンだ。世界のウラン生産の43%を担う同国は、その多くをロシア経由で輸送してきた。ところが、制裁リスクと物流障害のため、従来のルートは選択肢から外れつつある。
代替としてカスピ海やアゼルバイジャン、ジョージアを経由するルートが模索されてはいるが、インフラ不足と高コストが壁になる。結果として、カザフスタンの生産分は中国やロシア圏へ流れることになる。
こうした地政学的要素は、単にウランの入手難を深刻化させるだけでなく、価格面にも大きく反映される。実際、ウクライナ侵攻以降、加工済みウランの価格が急上昇しているのは、その象徴的な事例でもある。
カナダや米国、オーストラリアで一部のウラン鉱山が再開されたとしても、2040年までに膨れ上がるウラン需要を満たすにはまだ心許ないという批判は根強い。
地政学的リスクにさらされる一方で、原子力への期待が世界規模で高まるがゆえ、供給の逼迫は一過性ではなく長期的な課題となるだろう。ウラン市場が迎えつつある中で、ウランは希少な物資と化す。とすれば、価格が上がっていくのは自明の理だ。
『邪悪な世界のもがき方 格差と搾取の世界を株式投資で生き残る(鈴木傾城)』
ウラン関連米国株の投資ポイント
ウラン投資の手段としてわかりやすいのが、ウラン関連企業の株式を取得するアプローチかもしれない。
米国市場には、ウラニウム・エナジー(UEC)、カメコ(CCJ)、ネクスジェン・エナジー(NXE)、デニソン・マインズ(DNN)、エナジー・フュエル(UUUU)、そしてセントラス・エナジーA(LEU)といった多彩なウラン関連銘柄が上場している。
ウラニウム・エナジーはISR(原位置回収)と呼ばれる方法で低コスト採掘を狙い、カメコはカナダの有力鉱山を背景に安定的な供給体制を構築している。
ネクスジェン・エナジーやデニソン・マインズはカナダのアサバスカ盆地で有望資源を探索し、エナジー・フュエルは米国内で稼働するプロジェクトに注力。セントラス・エナジーAは濃縮技術を強みに、原子力産業向けのサービスを提供する。
これらの企業は、それぞれ異なるリスクと収益構造を持ち、投資家に多様な選択肢を与えている。
もちろん、今の段階でウラン関連株への投資は、不確定要素が多い。需要拡大が見込まれれば株価にプラスに作用する一方、地政学的緊張が物流や激しく強硬な反対運動が生産を妨げる懸念もある。
ロシアによる濃縮ウラン輸出の制限が実施されれば、米国企業にとっては有利になる部分もあるが、世界の供給網が乱れ、燃料コスト全体が急上昇すれば一概に業績向上とはいかない可能性もある。
カメコのように既存の長期契約が収益を下支えする企業と、開発段階のプロジェクトに重きを置く企業とでは、リスクとリターンのバランスが大きく異なる。さらに、原子力発電所の建設計画が実際にどれほど実施されるかといった政策面の読みも欠かせない。
だが、誰も見ていないときに、黙って投資しておくというのは長期投資家としては基本でもある。そういう意味で、ウラン関連米国株は魅力的な成長が期待される分野であるとも言える。

『亡国トラップ-多文化共生- 多文化共生というワナが日本を滅ぼす(鈴木傾城)』
ウランETFの特徴と購入手段
ウラン市場全体に分散して投資したい場合、ETF(上場投資信託)も有力な選択肢になりえる。
その代表格がグローバルX ウラニウムETF(ティッカー:URA)である。
このETFは、ウラン採掘企業や原子力関連部品の製造をおこなう企業に幅広く投資している。米国ETFとして流動性も一定水準を確保しており、投資家は個別銘柄の選択リスクを軽減しつつ、ウランセクター全体の成長シナリオに乗ることができる。
ETFという性質上、ウラン価格や原子力政策による影響を受けやすいのだが、企業個別の倒産リスクを相対的に低減できるメリットは見逃せない。
一方、国内投資家にとって注目度が高まっているのが、2024年7月25日に東京証券取引所に上場した「グローバルX ウラニウムビジネスETF」(銘柄コード:224A)である。
海外ETFではなく国内ETFとして上場したことで、為替リスクへの対処がしやすくなり、取引通貨も円建てですむ点が魅力的だ。信託報酬は0.7175%(税込)と公表されており、売買単位が1口から可能というハードルの低さも特徴的である。
楽天証券をはじめとする国内証券会社を通じて売買ができるため、日本の個人投資家がウラン関連に参入する窓口としては実用的だろう。ただし、米国のURAと同様に、ウラン価格や国際情勢の影響をまともに受ける。
ETFの分散効果があったとしても、原子力発電を取り巻く環境が激変すれば、その価格変動は避けられまい。個別株投資ほどのボラティリティではないとはいえ、地政学リスクが台頭しやすいセクターである以上、ETFへの投資も安穏とはいかない。
そうした国際的な波瀾万丈の荒波を味わいながら、今後15年で2倍になる需要を取りにいける投資家はウランほど面白いものはないと言えそうだ。
