
2004年の四半期報告書(13F filing)で、ウォーレン・バフェット率いるバークシャーハサウェイがはじめてコンステレーションブランズ【STZ】に562万4,324株を投資していることがわかって話題になっている。「コカコーラ」に匹敵するブランド力が「コロナ」や「モデロ」にあるのかもしれない。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
コンステレーションブランズ【STZ】
2004年の四半期報告書(13F filing)で、ウォーレン・バフェット率いるバークシャーハサウェイがはじめてコンステレーションブランズ【STZ】に562万4,324株を投資していることがわかって話題になっている。
メキシコ生まれの人気ビールブランド「コロナ(Corona)」や「モデロ(Modelo)」の販売権を有する企業として広く知られ、米国市場でのプレミアムビール需要をがっちり押さえている企業が、このコンステレーションブランズだ。
同社は1945年、創業者マーヴィン・サンズが小規模なワイン事業からスタートさせた企業で、当初はニューヨーク州のフィンガーレイクス地方を拠点としていた。
地道な流通拡充とブランド開発によって、ワイン市場で地歩を固めると同時に、積極的な買収戦略を打ち出して会社を拡大していった。こうした拡大路線は時代のニーズを巧みに捉えながら展開され、現在ではビール、ワイン、蒸留酒にわたる多様なブランドポートフォリオを擁するに至っている。
コンステレーションブランズはワインでも名だたる銘柄を所有している。カリフォルニア産ワインの代表格「ロバート・モンダヴィ」などがその一例だ。各ブランドの絶大な知名度は、企業収益を支える主柱となっており、近年の業績報告を見るかぎりでもビール事業は全体売上の過半数を占めるほどの成功を収めている。
こうした背景には、プレミアム価格帯の商品への消費者の意欲的な支出が存在しており、より質の高い飲酒体験を求める層をロイヤルカスタマーとして獲得し続けてきた。
さらに同社は、カナダに拠点を構える大手マリファナ企業との資本提携にも動き、多角化とイノベーションに積極的な姿勢を示している。
カンナビス(マリファナ)の成分が含まれた飲料の可能性をさぐる取り組みは投資家からも注目され、既存のアルコール飲料市場に新風をもたらすプラットフォームを構築しようとする意識が見て取れる。
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消費者の嗜好の多様化
コンステレーションブランズの株価は低迷気味である。これは、若い世代がもうビールやワインを飲まなくなってきていることで売上が落ちてきているからだ。アルコール飲料業界は、消費者の嗜好の多様化や規制環境の変化など、幾多の要因によって常に動揺する。
特にビールセクターは、若年層の嗜好変化や健康志向の高まりによる消費量の伸び悩みが長らく懸念されてきた。
しかし、その一方で、プレミアムやクラフト、輸入ビールへの需要は依然として根強く、コンステレーションブランズの主力であるメキシコビールは米国の消費者から非常に高い支持を得ている。
コロナやモデロなどのブランドは、軽快な飲みやすさや異国情緒を訴求点にし、特に若い世代から熱狂的に受け入れられているのが実情だ。
ワインや蒸留酒のセグメントに目を向けると、健康志向や高品質志向の消費者はけっして少なくない。近年ではオーガニックワインや低アルコール商品、さらにはノンアルコールのワインテイスト飲料などが台頭し、市場を活性化させている。
コンステレーションブランズもこうした多様化の波を見逃さず、既存ブランドの再構築や拡張を進めつつ、ターゲット層を細分化して商品開発を進めている。
また、プレミアムレンジのワイン需要が伸長するなかで、ブランドイメージの強化と適度な高価格帯設定を両立させる動きは、同社の収益基盤の安定にも寄与している。
蒸留酒市場では、テキーラやウイスキーなどの需要が世界的に拡大傾向にある。特に米国でのテキーラ人気は顕著で、メキシコビールとの相乗効果を狙うコンステレーションブランズにとって魅力的な展開が期待されている。
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いずれマリファナ飲料がやってくる
アメリカでは、夏場のバーベキューシーズンや祝祭時期にビール消費が増加する。コロナやモデロなどのライトテイストの輸入ビールはその恩恵を受けやすい。
さらに、スポーツイベントや音楽フェスなど、大規模な娯楽行事が盛り上がるタイミングでもアルコール消費は活発化する。コンステレーションブランズはこうした時期に合わせてプロモーションを強化することで、需要を効果的に取り込んでいる。
好景気が続く局面では、消費者は比較的高価格帯のアルコールに手を伸ばしやすい。そのため、プレミアムビールや高級ワイン、クラフト蒸留酒などが伸長し、コンステレーションブランズの収益拡大に寄与する可能性が高まる。
逆に、不況期には全体的な消費マインドが冷え込み、アルコール飲料といえども安価な商品へシフトする傾向が見受けられる。しかし、それでもアルコールの需要そのものが消滅するわけではない。
むしろ「手頃な贅沢」として一定の需要を保つことも少なくない。ビールやワインは外食産業に比べれば価格が抑えられ、宅飲み需要として堅調に推移するため、コンステレーションブランズにとっては底堅い収益源となりやすい。
マリファナとのクロスオーバーに関する法整備が進む地域では、新商品や新市場の開拓が期待される。実際、コンステレーションブランズはマリファナ関連企業への出資によって、合法化が進む国や州で新規需要を取り込む準備を進めている。
ちなみに、コンステレーションブランズが大規模投資をおこなっているマリファナ企業は、カナダを拠点とする「キャノピー・グロース(Canopy Growth)」である。キャノピーは医療用および嗜好用の大麻の栽培・加工・販売事業で知られ、北米だけでなく世界各地域への事業展開も進める大手プレーヤーでもある。
保健福祉長官に選ばれたロバート・F・ケネディJr.はマリファナ推進派である。もしかしたら、これによってコンステレーションブランズも恩恵を受けることもあるかもしれない。(ダークネス:ロバート・F・ケネディJr.の保健福祉長官承認なるか。この機会に注目したい株とは?)
マリファナ飲料が長期的な成長ドライバーとなるときが楽しみだ。
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消費者の「ブランド」忠誠心が高い
コンステレーションブランズの投資妙味は、まずビール事業の圧倒的なブランド力と収益力にある。コロナやモデロといったメキシコブランドの存在感は、米国をはじめ世界中の消費者からも高い支持を受けている。
これらは景気動向に左右されにくいので、一定の売上は見込める。
一方で、アルコール飲料市場は巨大資本がしのぎを削る激戦区であり、アナハイザー・ブッシュ・インベブやヘイネケン、モルソン・クアーズなどのグローバル企業とのシェア争いは熾烈を極める。
また、消費者の健康志向やノンアル市場の拡大は、従来型のアルコール飲料を扱う企業にとって軽視できないリスク要因となる。特に若い世代の「アルコール離れ」が指摘される中で、持続的に売り上げを伸ばすには絶え間ない製品開発とマーケティング投資が必須だ。
財務面では、積極的なM&Aや投資活動に伴う負債リスクが挙げられる。大型買収によるブランドポートフォリオの強化は、企業価値の向上につながる半面、負債比率の上昇やキャッシュフローの圧迫を招く恐れがある。
コンステレーションブランズは過去に幾度となく大型投資を実行してきた実績を持つが、それゆえに財務レバレッジの増大が株主にとって不安材料となることもある。今後、同社が投資方針を誤ればリスクが顕在化する可能性がある。この部分は注意が必要かもしれない。
それでもなお、米国ビール市場における独自の優位性とプレミアム飲料セグメントでの高い知名度、さらには将来のカンナビス事業拡大への布石など、多角的に収益を生む構造が魅力的である。
ウォーレン・バフェットのバークシャーがこの企業を買っているのは、まさに消費者の「ブランド」忠誠心が高いことを重視しているからなのだろう。バフェットが永久保有株と述べている「コカコーラ」に匹敵するブランド力が「コロナ」や「モデロ」にあると考えているのかもしれない。
いすれにしても、コンステレーションブランズがビールブランドを中心に高い収益性を確保しつつ、変化する市場ニーズに合わせて柔軟に事業を再編する力を持っていることは疑いない。競争は激しいものの、安定収益と成長余地の両面から魅力的な選択肢となり得る企業といえる。
予断だが、バフェットはアルコールを飲まないのだという。
