
株式投資の世界では、いつの時代でも無謀な賭けをする人がいる。無謀なリスクの背後には、短期間で大きく儲けたいという過度な欲求や、他者の成功事例に乗っかろうとする安易な考え方が潜んでいる。絶対に退場するわけではないが、成功して生き残れる人は少ないだろう。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
投資にかかわる4つのリスク
「投資はしたいが、絶対に損したくない」と普通の人は考える。そうすると、万が一でも買い値を割ったりする確率があるものは買えなくなる。だが、どんな優良企業の株式でも下がるときは下がる。世の中は自分中心に回っていない。そして、不確実性でいっぱいだ。
投資におけるリスクとは、資金を投入する行為に伴う不確定要素のことである。このリスクを無視すると、資産を増やすどころか急速に減らす危険が高まる。そのため、投資家はリスクを正しく認識しなければならない。
リスクを適切に理解しない投資家は、突然の価格変動や流動性低下に翻弄され、不要な損失をこうむる危険が極めて大きい。投資の世界にはさまざまなリスクが存在するが、大別すると以下のようなものがある。
・価格変動リスク
・信用リスク
・流動性リスク
・金利リスク
価格変動リスクは、株式や債券、商品先物などの価格が市場環境によって上下する危険を指す。近年はグローバル化の進展により、海外経済指標や政治情勢の影響が迅速に反映され、投資家はかつてないほど短期間での価格乱高下にさらされている。
信用リスクは、企業や債券の発行体が債務不履行となり、利息や元本が返済されなくなる危険を示す。経営破綻や業績の急激な悪化によって企業価値が一挙に失われることもあり、信用力の見極めは投資の根幹をなす課題である。
流動性リスクは、保有資産を望むタイミングで適正価格で売却できない状況を指す。マイナーな銘柄や不動産投資のように買い手が限定的な市場に資金を集中すると、現金化の機会が著しく制限され、突発的な売却ニーズが生じても対応できずに損失を拡大しやすい。
金利リスクは、金利の変動によって特に債券の価値が上下する危険を意味し、長期債券は金利上昇局面で大きく価格が下落する可能性をはらむ。これらのリスクは同時発生する場合も多く、組み合わさることで複雑な損失につながる恐れがある。
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無謀なリスクと必要なリスク
リスクは投資収益の原動力にもなるが、すべてのリスクが正当化されるわけではない。「無謀なリスク」と「必要なリスク」の区別を誤ると、資産を増やすどころか一瞬で失うような事態にも陥る。
「無謀なリスク」とは、根拠に乏しい期待や勘だけを頼りに投資を行い、冷静な分析を省略してしまう行為を指す。企業の財務状況や環境を無視して値動きの激しい銘柄に集中投資したり、高レバレッジの先物取引に大半の資金を投じたり、流行りの上昇銘柄に飛び乗るなどが典型例だ。
無謀なリスクをとる投資家は、一時的には大きな収益を上げる場合もある。だが、長期的に破綻へ至る可能性が高い。資産防衛とリスクの概念が欠如しているため、最終的に市場から退場させられやすいのだ。
いつの時代でも、無謀なまでの「一攫千金」を目指す投機的行動に走る人が後を絶たない。SNSや掲示板の噂話に踊らされ、裏づけのない推測だけで大金を投じるのは無謀そのものだ。
無謀なリスクの背後には、短期間で大きく儲けたいという過度な欲求や、他者の成功事例に乗っかろうとする安易な考え方が潜んでいる。絶対に退場するわけではないが、成功して生き残れる人は少ないだろう。
これに対し、必要なリスクは、十分な情報と合理的な判断から生じる。
企業の財務諸表を精査し、成長や競合優位性を考慮したうえで、今後の利益拡大が見込める株式を購入する行為は、「必要なリスク」をとった投資である。経済環境や金利動向に応じてリスク・リターンのバランスを考慮し、適切な債券をポートフォリオに組み入れる判断も同様だ。
必要なリスクをとる投資は、そのリスクに見合うリターンを期待できるだけの根拠がある点で無謀さと一線を画す。
無謀か必要かの判断基準は、投資家がどれほどデータに基づく分析を行い、自らの投資方針に沿って行動しているかに尽きる。情報不足や過度な楽観視は無謀なリスクに直結し、適切な情報と分析があれば、そのリスクは理にかなう選択となる。
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リスクを適切に管理するとは?
投資家が資産を防衛しつつ成長を促すためには、リスクを適切に管理する方法を身につけることが重要となる。
「リスクを適切に管理する」とは、どういうことなのか?
まずは、分散投資が挙げられる。特定の銘柄やセクターに過剰に資金を集中させると、ひとつの不測の事態で大幅な損失をこうむる恐れが高まる。たとえばITセクターの一社だけに大金を投じていた場合、その企業で業績不振や不正が発覚すると、資産の大半を一瞬で失いかねない。
これを避けるには、業種や地域、さらには株式だけでなく債券やコモディティ、現金なども組み合わせ、複数のリスク要因を分散させることが効果的である。
第二に、レバレッジの使用を慎重に行う必要がある。投資家を破滅させるのは「酒と女とレバレッジ」と言われるのだが、レバレッジで破綻した人の話は枚挙に暇がないほどある。
先物やFXなどは少額で大きなポジションを取れる利点がある半面、相場が逆行した際の損失リスクが極端に高まる。証拠金が不足すれば強制ロスカットにより一瞬で大幅な損失を負い、資金全体が壊滅的被害を受ける。
レバレッジを取るのは、「急いで金持ちになりたい」「早く大金をつかみたい」という焦りが心の奥底にあるからだ。こうした焦りは、ときに無謀な賭けを誘発する。そして、この無謀な賭けが外れたときに資産が吹き飛ぶ。
こうした失敗をしたくないのであれば、「ゆっくりと金持ちになる」ことを目指していかなければならない。レバレッジで短期爆益を狙うのではなく、複数の資産クラスへ分散投資して持続的にリスクを管理する。
焦る必要はない。時間を味方につけながら徐々に資産を積み上げれば、一時的な下落を乗り越えやすい。無理のないリスク水準を維持しつつ資産を拡大していけば、大きなレバレッジをかけて一瞬で市場から退場するような事態を避けられる。
結果として、目先の利益だけを追い求めるよりも安定感のある資産形成を実現できる。レバレッジが悪というわけではないが、投資家自身のリスク許容度を超える使い方が危険であることは明白だ。
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長期的な資産形成戦略
リスクを過度に恐れて預貯金だけにとどめる行動は、インフレや低金利の影響で資産が目減りする要因になりやすい。長期的な資産形成を志向する投資家は、適度なリスクを許容しながら複利効果を活かす戦略に注力したほうがいい。
具体的には、S&P500連動ETFなどを中心に据え、長期保有によって資産を成長させる手法が代表例である。株式市場は短期的には乱高下するが、経済成長が持続する限り、長期的には上昇トレンドを示すケースが多い。
分散された株式ポートフォリオを時間をかけて保有することで、配当とキャピタルゲインを通じた複利の恩恵を期待できる。複利は、利益がさらなる利益を生み出す仕組みである。
一見地味だが、長期ではこの「積み重ね」が大きな差を生む。
株式の配当を再投資し続ければ、配当が新たな株式を生み、さらに多くの配当へとつながる。このサイクルが年々重なり合って加速し、長期的には想定以上のリターンをもたらす。短期間では小さな違いに見えても、時間がたつほど雪だるま式に利益が増大し、結果的に資産総額を何倍にも押し上げる。
長期投資では、ドルコスト平均法による積立投資も有効な手段である。一定額を定期的に投資することで、価格が下落している局面でも安い水準で買い増しが可能となり、結果として平均購入単価を下げられる。
多くの投資家が最適なタイミングを見極めようとしているのだが、そんなものを正確に予測するのは困難である。ドルコスト平均法は定期的に市場へ資金を投入することで、値動きのブレを平準化しやすい仕組みを提供する。
・分散投資
・長期投資
・配当再投資
・ドルコスト平均法
この4つはリスクを抑えながら資産を大きく増やすための基本戦略である。値動きを正確に読もうとするのは骨が折れるが、定期的な資金投入と配当再投資を組み合わせれば、複利効果が加速し、長期的に資産を飛躍的に増やす道が開ける。
