
ドミノピザ【DPZ】は、世界的なピザチェーンの中でも強烈な存在感を放つ企業で、日本人でも知らない人はいないだろう。同社は独自のフランチャイズ展開と迅速なデリバリーサービスによって、一挙に店舗数を伸ばした企業だが、最近は市場の成熟化で成長が問われている。興味深い局面にある。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
ジャンクフードの王、ドミノピザ
ジャンクフード好きは、みんなドミノピザが好きなはずだ。私も大好きだ。最近、バフェット率いるバークシャー・ハサウェイがポートフォリオに加えたことで注目されているのが ドミノピザ【DPZ】である。
同社は、世界的なピザチェーンの中でも強烈な存在感を放つ企業で、日本人でも知らない人はいないだろう。
同社は米国で1960年に創業され、当初は小さなピザ店としてスタートしたものの、既存のピザ業態とは異なる独自のフランチャイズ展開と迅速なデリバリーサービスによって、一挙に店舗数を伸ばしてきた。
その規模拡大は、大胆なマーケティング戦略と合理的なオペレーションの徹底によって成し遂げられている。
とりわけ、限られたメニューのなかで商品クオリティを一定水準以上に保ちつつ、注文から宅配までのスピードを磨き上げる仕組みにこだわるのが、この企業の特徴であり、躍進の理由でもあった。
このピザチェーンが手がけるビジネスモデルは、店舗網の拡大とテクノロジーの活用に重点を置いた成長路線で支えられてきた。特に、オンライン注文やモバイルアプリを早期に取り入れたことで、来客需要を効率よく拾い上げる体制を築いている。
実際、顧客がスマートフォンなどを利用して簡単にピザを注文できるシステムは、今やグローバルな飲食業界において不可欠な存在となったが、ドミノピザはそうしたIT技術の先駆けだったのだ。
ブランドに裏打ちされた安定した売上、そして経営陣の柔軟な判断による投資戦略が確立されていることから、投資家にとっては魅力的な存在であり続けている。この企業をバークシャー・ハサウェイが関心を示したのが面白い。
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ドミノピザを取り巻く逆風とは?
飲食業界を取り巻く環境はつねに変動している。ピザ業態も例外ではない。さまざまな逆風がドミノピザにも押し寄せている。
従来、ピザの宅配といえばドミノピザをはじめ大手ピザチェーンの独擅場だった。しかし、スマートフォンを活用した各種デリバリーサービスが台頭し、各社が配達プラットフォームを取り入れる時代に突入した。
これにより、かつてはピザチェーンの独自サービスが強みだった「自宅に熱々のピザを届ける」という付加価値が、他のフードにも当たり前に適用されはじめた。その結果、顧客はピザ以外にも豊富な選択肢を持つようになり、あらゆる飲食店がデリバリー化を推し進めて強みがコモディティ化した。
こうした変化に対して、ドミノピザは早期からIT投資を積み重ね、自社の注文アプリや配達管理システムを高度化することで独自性を打ち出して対抗している。
ドミノピザは注文から受け取りまでのステップを簡略化し、消費者にストレスなくピザを届けるためのオペレーションが日々更新し、顧客のリピート率を高めるためにクーポンやポイントプログラムを充実させ、競合との価格・サービス面での差別化を進めてきた。
その一方で、最近になって大きな懸念となってきたのが、原材料の価格高騰やサプライチェーンの混乱である。
小麦やチーズなどの原材料価格が上昇すれば、利益率の確保が難しくなる。ピザチェーンは大量仕入れによるコストメリットを得られる半面、地域や国ごとの経済情勢が不安定になると、サプライチェーン全体に影響が及びやすい。
とりわけ世界展開をしているドミノピザにとっては、為替レートの変動も収益に影響を与える要素となっている。
こうした逆風もあって、ドミノピザに対しては「成長余地はまだ残されているのか」という懐疑的な声も上がっていた。すでに世界中にチェーン網を築いた企業が今後も継続的に大幅な売上成長を実現できるのか、投資家は吟味している。

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ドミノピザにとって有利な社会的情勢もある
ただ、ドミノピザにとって有利な社会的情勢もある。
まず、リモートワークや外出抑制といったライフスタイルの変遷は、デリバリー需要の拡大を後押ししている。
世界がパンデミックを経験した今、「自宅にいながら外食気分を楽しめる」需要が一層顕在化し、ピザチェーンを含むフードデリバリー市場が大きく伸びる素地が形成されたのだ。
ドミノピザはこの潮流を逃さず、オンラインやアプリ注文の導線を巧みに確立してきた点で、大きなアドバンテージを得ている。
また、ピザという商品の特性上、ホームパーティや家族・友人との集まりなど、カジュアルなイベント需要も無視できない。景気が上向き、人々が積極的に娯楽を求める時期には、こうしたパーティシーンでピザが選ばれる機会は多い。
特に、スポーツ観戦や季節的な行事に合わせてキャンペーンを打つドミノピザは、イベントと絡めたマーケティングが成功する場面で売上を伸ばす傾向がある。逆に、経済が停滞している時期でも、外食よりもデリバリーのほうが割安感や手軽さを感じさせるため、ある程度の需要は確保されやすい。
つまり、好不況を問わず一定の需要が見込めるビジネスモデルが、ドミノピザの強固な基盤となっているのだ。
ドミノピザの場合、自前の配達網とフランチャイズネットワークを組み合わせて、都市部から郊外まで一定のエリアをカバーできる点が強みだ。地域ごとの事情に合わせて営業時間や配送方法を変更し、利用者の生活圏での利便性を高める施策を打ち出して柔軟に対応できる。
最終的に、同社が活発に利益を伸ばすか否かは、こうした社会的トレンドにいかに対応できるかにかかっている。経済成長が鈍化する局面でも堅調な売上を確保できるのか、あるいはライフスタイルの変化に合わせて新サービスや新メニューを展開できるのか。
ドミノピザは、すでに豊富なノウハウを蓄積しているとはいえ、それに甘んじることなく変化を追い求めることで、社会情勢が好転するときも逆風のときも、ピザ業界を牽引する存在であり続けられるかが問われている。
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株価の割高感が指摘されるのも事実
ドミノピザ【DPZ】に対する投資判断をくだす際、まず注目すべきは安定した利益構造と現金フローの強さである。同社は売上から最終的な純利益までのプロセスが非常に効率的であり、コスト管理の巧みさとブランドの強さが収益率を高水準に保つ源泉となっている。
バフェットは強力なブランドを持った企業が好きだ。バークシャーも、このあたりに着目していたはずだ。
フランチャイズモデルに支えられた世界的な店舗網は、固定費を最小限に抑えながらロイヤリティ収入などを得る仕組みを可能にし、日々の事業活動から得られるキャッシュフローも増加傾向を示している。
この安定した現金の流れによって、ドミノピザは株主に対する配当や自社株買いといった還元策を積極的に行い、投資家の好感を集めることに成功してきた。短期的にはこの高収益モデルが株価を押し上げる原動力になりやすい。
ただ、その一方で株価の割高感が指摘されるのも事実だ。
市場における評価が高まるほど、成長の鈍化が見えはじめたときに調整リスクが顕在化しやすい。実際、引用にもあるとおり、ドミノピザの株価は、もう今後の成長を織り込んだ水準に達しているとの見方が強く、業績がわずかでも期待を下回れば大きな下落を引き起こす可能性がある。
近年はフードデリバリーの競争激化、原材料費や人件費の上昇など、同社の収益構造を揺るがす要素も散見される。これまでの勢いで売上を伸ばし続けるのは容易ではなく、企業としては新規顧客の開拓と既存顧客のリピート利用促進、さらには海外市場へのさらなる浸透策が求められる局面にきている。
以上を踏まえると、ドミノピザ【DPZ】は「安定した現金創出力」と「成長鈍化リスク」の二面性を抱えた銘柄であると断定できる。投資家にとっては配当や自社株買いによる還元を享受しながらも、株価が急上昇しているタイミングでは慎重になることが求められる。
投資に値するのかどうか、同社のピザを食べながらじっくり考えるのも悪くない。
