
投資家の中でも配当を重視した投資家のことを「インカムゲイン投資家」と呼ぶのだが、米国のインカムゲイン投資家の中で、圧倒的に愛されている銘柄がある。リアリティ・インカム(Realty Income Corp)だ。この企業が、いかにインカムゲイン投資家にとって素晴らしいか、知ってもらいたい。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
インカムゲイン投資家にふさわしい
投資家の中でも配当を重視した投資家のことを「インカムゲイン投資家」と呼ぶのだが、米国のインカムゲイン投資家の中で、圧倒的に愛されている銘柄がある。
リアリティ・インカム(Realty Income Corp)だ。ティッカーシンボルが【O(オー)】なので、「オー」と呼ばれることもある。同社は、ほとんど日本人に知られていないのだが、知っておいても損はない。
不動産投資信託(REIT)界の巨人として知られる企業で、長期的なネット・リース契約に基づく商業用不動産の取得と管理に特化した事業モデルを持つ。そして、安定した賃貸収益を生み出す自立型商業不動産のポートフォリオを構築し、投資家に魅力的な配当を提供することを目指している。
まさに、配当重視のインカムゲイン投資家にふさわしい銘柄なのだ。
同社の事業展開は、地理的にも産業的にも広範囲に及ぶ。米国50州すべてに加え、プエルトリコ、イギリス、スペイン、イタリア、アイルランド、フランス、ドイツ、ポルトガルにまで及ぶ1,300以上の顧客に、86の産業にまたがる約15,450の資産をリースしている。この多様性こそが、リスク分散と安定した収益の源泉となっている。
同社の不動産ポートフォリオは、小売業、工業、ゲーム、農業、オフィスなど多岐にわたる。特に主要産業としては、食料品店、コンビニエンスストア、ドルショップ、ドラッグストア、ホームセンター、クイックサービスレストランである。
これらの業種は、景気変動に比較的強い特性を持ち、安定した賃料収入を生み出す傾向がある。
配当重視のインカムゲイン投資家をさらに狂喜させることがある。同社は「月次配当会社」としても知られており、安定した月次配当を長年にわたって維持してきているのだ。つまり、毎月「給料」をもらうように、配当をもらえる。
フルインベストの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』
配当をもらい続けるために保有する
不動産投資信託(REIT)業界は、経済環境の変化や金融市場の動向に大きく影響を受ける。リアリティ・インカムもその例外ではない。現在、業界を取り巻く主要な話題としては、金利環境、インフレ動向、不動産市場の変化、そして新たな投資機会の探索が挙げられる。
不動産にかかわっている人ならわかると思うが、不動産の利回りは一にも二にも「金利」である。金利環境は、リアリティ・インカムの収益性と魅力度にも直接的な影響を与える。
低金利環境下では、REITの高配当利回りが投資家にとって魅力的となる。しかし、金利上昇局面では、REITの借入コストが増加し、収益性に圧力がかかる可能性がある。金利が上昇する局面になると、この企業の株価は暴落し、低迷し続ける。
2020年に同社の株価が大暴落しているのは、まさにそうした例でもある。
インフレも、REITにとって両刃の剣となる。不動産価値の上昇や賃料の引き上げにつながる可能性があるが、一方で他方で運営コストの増加をもたらす。
リアリティ・インカムは、その多様なポートフォリオと長期契約を通じて、インフレの影響を緩和する戦略を取っている。実際、REITは一般的にインフレヘッジの手段として認識されており、この点でリアリティ・インカムは投資家にとって魅力的な選択肢となっている。
2020年の金利引き上げによる大暴落のあとに株価が堅調に上がっていたのは、インフレヘッジとしての側面があったからでもある。そう考えると、この企業の株価そのものは、金利をトレードするためのものであるともいえる。
ただ、この企業は最初にいったように「株価の上昇を期待して保有する」ものではなく、「長期的に配当をもらい続けるために保有する」投資家が多い。そのため、株価の動きは「下落したら買い増す」ためのシグナルでしかないように見える。
「フルインベスト・メルマガ編」の『ダークネス:株式で安定した固定収入を得る状態を作り上げたら、もう株価を見る必要もない』で書いたように、個人事業主やフリーランサーなどは収入が不安定で私生活での経済的冒険が大きい。
そうした立場であれば、こうした株を保有しておけば、少なくても配当分だけでも経済的安定が得られる。そういう「生活防衛型」の株式なのだ。

『邪悪な世界のもがき方 格差と搾取の世界を株式投資で生き残る(鈴木傾城)』
毎年3.8%ずつ配当収入が増えていく
リアリティ・インカムは、長年にわたって安定した月次配当を維持してきた。2024年の予想配当利回りは5.6%から6.00%程度とされており、これは多くの固定利付証券よりも高い水準だ。配当額は今のところ、毎年増配されている。推移を示すと以下の通りだ。
2015年:2.27ドル
2016年:2.39ドル
2017年:2.53ドル
2018年:2.64ドル
2019年:2.72ドル
2020年:2.80ドル
2021年:2.83ドル
2022年:2.97ドル
2023年:3.05ドル
2024年:3.15ドル
10年間で38.77%もらえる配当が増えている。これは、毎年3.8%ずつ配当収入が増えていくことを意味する。
もちろん、増配はかならず約束されているわけではないのだが、そうした傾向があるというのはインカムゲイン投資家には心強いはずだ。ちなみに、この企業はこの30年間毎年増配を続けているのだ。
この安定的な配当を出すために、リアリティ・インカムはひたすら不動産の「場所」と「借主」を分散させている。「ひとつがダメージを受けたらすべてダメージを受ける」ようなリスクを避け、保有する不動産を幅広く分散させ、借主の産業も分散させているのだ。
分散は大きな成長が取れない。そのため、成長株のように株価が10倍、20倍になるようなことはあまり考えられない。絶対にないとは言わないが、相当環境が変わらないと起こりえないだろう。
その代わり、社会情勢がどう変わっても常に「平均」でいられる。このリアリティ・インカムの地理的・産業的多様性こそが、平均値を維持し、安定した収益の源泉となっている。
『亡国トラップ-多文化共生- 多文化共生というワナが日本を滅ぼす(鈴木傾城)』
「投資家に毎月安定した収入をもたらすこと」
リアルティ・インカムは安定した配当を維持しつつ、緩やかな成長を続けている。べつに爆発的な成長よりも「安定・安心・安全」を望むインカムゲイン投資家なら、むしろそちらのほうが好ましく感じるはずだ。
インカムゲイン投資家は短期的な市場の変動に左右されることなく、継続的に収入を得ることを重視する。株価の短期的な変動にとらわれない。市場が乱高下しようが、経済環境が荒れようが、きちんと配当が入ってくる限りにおいて、「無風」と同じである。
不動産危機といえば、2008年のリーマンショックを思い出すが、驚いたことにリアルティ・インカムはこの時期も減配せず、配当を維持・増加させ続けた実績がある。リーマンショックは「資本主義が崩壊する」と恐怖されたくらい衝撃的な出来事であり、その震源地が「不動産」であったのだ。
そのリーマンショックでも耐えて、株主のために配当を出し続け、増配し続けたリアルティ・インカム社は相当強い株主重視のポリシーを実行していることがわかる。
インカムゲイン投資家は、これによって市場の乱高下に影響されにくい安定した収入源を確保することができる。
もし、配当を再投資できるのであれば、インカムゲイン投資家は複利効果をも存分に活用することができる。定期的に得られる配当を再投資することで、資産の成長を加速させることが可能なのだ。
こうやって総合的に見ても、インカムゲイン投資家にとって「リアルティ・インカム社【O】は非常に魅力的な投資対象であることがわかるはずだ。安定性重視、長期保有、リスク抑制、複利効果を狙うインカムゲイン投資家にとってリアルティ・インカム社は理想的な投資対象であると言える。
高配当利回りと安定した月次配当を取れるのであれば、どこかの時点で入りたいと思わないだろうか?
ちなみに、この企業は1994年にニューヨーク証券取引所 (NYSE) に上場しているのだが、企業自体は1969年にカリフォルニア州で設立されている。創業者はウィリアム・クラークとジョーン・クラーク。このふたりが目標をしたのはこうだ。
「投資家に毎月安定した収入をもたらすこと」
素晴らしいではないか。私自身は不動産投資にはまったく関心がないのだが、もし不動産にかかわるとしても、実際に不動産売買をするのではなく、リアルティ・インカム社を長期保有することでかかわるはずだ。
