MicrosoftがAIデータセンターのリース解約。市場の見解と同社の発表の齟齬とは?

MicrosoftがAIデータセンターのリース解約。市場の見解と同社の発表の齟齬とは?

Microsoft【MSFT】が米国内で一部のAI用データセンターのリース契約を解約したという報告が、米国株式市場に波紋を広げている。メガテックの設備投資が終わったのであれば、AIバブルは今がピークだということになる。だが、市場の見解と同社の発表の齟齬が興味深い。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

Microsoft、AIデータセンターのリース解約

米国株式市場が割高だと言われながらも世界中から投資資金が流れ込んで高値付近にいるのは、AI(人工知能)による期待がすさまじく大きいからでもある。そして、このAIの期待はメガテックの旺盛な設備投資に集約されている。

逆に言えば、AIバブルが続くのかどうかは、設備投資が続くのかどうかを見ればいいということになる。設備投資が続く限り、AIバブルは続く。設備投資が途切れれば、AIバブルは弾ける。

そんな中、Microsoft【MSFT】が米国内で一部のAI用データセンターのリース契約を解約したという報告が、米国株式市場に波紋を広げている。

この情報は、TDカウエンのアナリストチームが21日付でまとめたリポートによってあきらかになった。同リポートによると、Microsoftは少なくとも2社のデータセンター運営会社との「数百メガワット」規模のリース契約を打ち切ったとされる。

この動きは、Microsoftが長期的に必要以上のAIコンピューティング能力を構築しているのではないかという懸念を反映している可能性がある。TDカウエンのアナリストチームは、サプライチェーンの調査結果に基づいてこの情報を報告しており、その規模はデータセンター2カ所分に相当するという。

さらに注目すべきは、Microsoftが通常であれば正式なリース契約につながるはずの資格証明書の書類変更も停止しているという点だ。

この報告を受けて、投資家のあいだでは人工知能ブームに牽引された相場上昇が行き過ぎではないかという疑念が改めて強まった。特に、中国の新興企業DeepSeekの登場などによって、AIブームの持続性に対する懐疑的な見方が広がっていた矢先のことだ。

メガテックの設備投資が終わったのであれば、AIバブルは今がピークだということになる。果たしてどうなのか……。

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これはMicrosoftの戦略転換なのかもしれない

バーンスタインのアナリスト、マーク・マルダー氏は、主要クラウド事業者の四半期業績が振るわなかったことも相まって、需要鈍化を示唆している可能性があると指摘している。

同時に、Microsoftがこれまで需要に対応しようとするあまり、必要以上の供給能力を契約で確保してしまった面もあるのではないかという見方を示している。

ただ、Microsoft自身は「戦略的にインフラのペースを調整することはあるが、顧客の需要に応えるため、記録的なペースで拡大を続けている」と述べており、AIインフラ整備の方針自体は変更していないことを強調している。

この市場の見解と、Microsoftの発表の齟齬は興味深い。

表層的に見ると「需要鈍化、または設備投資の行き過ぎでリース契約を解約した」ように見えるのだが、そうではないかもしれない。それは、Microsoftのビジネス戦略に基づいたものかもしれないと考えるアナリストもいる。

注目すべきは、MicrosoftがOpenAIとの提携を通じてAI開発に積極的に取り組んできた経緯だ。OpenAIの目標は汎用人工知能(AGI)の実現かもしれないが、Microsoftの目標はそれとは異なる。

Microsoftはクライアントが大量に採用する便利で手頃なAIを望んでおり、Azureプラットフォームを通じてそれを提供することで収益を上げることを目指している。

この方針の違いは、MicrosoftのAIインフラ投資戦略にも反映されている。同社はOpenAIのために巨額のトレーニングデータセンターを構築するのではなく、多数の顧客のAI「推論」需要に応えることを優先することを決断したのではないか?

つまり、OpenAIは「トレーニング用のデータセンター」を必要としているのだが、Microsoftは「推論用のデータセンター」を必要としている。リース契約を打ち切った分というのは、単にOpenAIが欲している「トレーニング用のデータセンター」という可能性がある。

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データセンターは推論第一に切り替わっていく

OpenAIと違って、Microsoftは「AIで儲けること」を第一優先で考えている。Microsoftは顧客が自社のクラウドであるAzureでAIを動かしてくれれば儲かるのだが、そのAIはOpenAIのChatGPTであってもいいし、他の企業のAIであっても構わない。

それこそ、DeepSeekであってもMicrosoftはまったく問題ない。要は、AIが何であれ、Azureで動かしてくれればMicrosoftが儲かる。だから、そのAzureのデータセンターを拡張するほうは今後も邁進するということでもある。

もちろん、OpenAIが成功を収めれば、OpenAIと組んでいるMicrosoftも投資で優位に立つ。だが、意に反してDeepSeekのようなオープンソースAIが主流になっても、Microsoftはダメージを受けないポジションを作ろうとしている。

オープンソースAIが主流になったらなったで、AIの民主化によってより多くの顧客がAIを採用し、やはりMicrosoftのクラウドサービスの需要が増加する。この点、サティア・ナデラCEOは巧妙に立ちまわっているといえる。

MicrosoftによるAIデータセンターのリース解約は、表面的には投資の縮小や需要の鈍化を示唆するように見えるが、実際にはより戦略的で長期的な視点に基づいた判断だと考えれば、まだまだAIへの設備投資は続いていく。

ただ、今後はトレーニング第一から、推論第一に切り替わっていく。

Microsoftが推論AIに重点を置いた戦略を展開していく決断をしたのであれば、MicrosoftはAzure上で動作するCopilotなどのAIサービスを通じて、企業の業務効率化や生産性向上を支援し、収益を拡大していく路線を鮮明にすることを意味する。

これは、投資家にとっては朗報でもある。AIのトレーニングはAIを高度化するのに重要なのだが、直接的には利益には結びつかない。しかし、推論のほうはさまざまなビジネス展開が予測されるので、収益に結びつく。

OpenAIは「AIをもっと賢くしたい。AGI(汎用人工知能)を目指したい」という姿勢で一貫している。だが、「もうAIは今のレベルでいいから、これを展開してカネを稼ごう」というのがMicrosoftの姿勢である。

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漁夫の利を得るのはやはりMicrosoftか?

AIをもっと賢くするには、トレーニングにもっとカネをかける必要がある。Microsoftがその部分から足抜けしようと考えているかもしれないのは、OpenAI、Oracle、SoftBankが打ち出したスターゲイト計画にあるのかもしれない。

スターゲイト計画はOpenAIのChatGPTが中心に据えられるわけで、OpenAIの姿勢から、当然「現在のAIをもっと高い次元に引き上げるためのデータセンター」を莫大な金額で構築することになる。

MicrosoftはそれをOracleとSoftBankに押しつけて、自身は推論優先のデータセンターに切り替えて、金儲けする方向に切り替えたという考えかたもできる。つまり、Microsoftは巧妙な戦略を展開しているわけだ。

スターゲイト計画によってOpenAI、Oracle、SoftBankが莫大な資金を投じてAIの高度化を進める一方、Microsoftは推論AIに特化したデータセンター構築に注力することで、リスクを最小限に抑えつつ収益を最大化できる。

トレーニングよりも推論へ。これがMicrosoftの姿勢だろう。

Microsoftは2025年度に約800億ドルものAIデータセンター投資を計画しているが、これはCopilotをはじめとするさまざまなAIサービスの拡充に使えて、さっさと金儲けすることができる。

このような多角的かつ戦略的なアプローチにより、MicrosoftはAI市場において優位な立場を確保するのかもしれない。AIの開発と実用化の両面でバランスの取れた投資を行い、カネのかかる部分を他に押しつけながら、自分は収益機会を最大化する姿勢はずる賢く見えるが、投資家にとって魅力的だ。

MicrosoftのAI戦略は長期的な成長と収益性を見据えた巧妙なものであり、投資家にとっては高いリターンが期待できる選択肢となっている。

漁夫の利を得るのはやはりMicrosoftなのかもしれない。

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