
Nvidiaの2025会計年度第4四半期決算は、売上高と純利益が過去最高を更新しており、AI(人工知能)ブームによるGPUの需要がまったく途切れていないことを、まざまざと見せつけた。ところが、市場の反応は冷ややかで、株価は上がるどころか下がってしまっているのが現状だ。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
Nvidia成長への疑念と「推論100倍」説
Nvidiaは投資価値を失ったのだろうか。今、この疑問が投資家のあいだで静かに広がっている。AI需要の急拡大に乗って急成長した同社だが、最近のアナリストからは「最盛期は過ぎた」という厳しい評価が聞かれるようになった。
Broadcom、Marvell、Google、Amazon、Microsoft、Meta、OpenAIなどの強力な資金力を持つ競合他社がカスタムチップの開発を急ぎ、GPUの市場支配力が弱まりつつあるという見方もある。
このような逆風の中で、Nvidiaのジェンスン・フアンCEOは「推論時代」の到来がコンピューティング需要を飛躍的に拡大させ、同社の成長機会をさらに広げると主張している。
ジェンスン・フアンによれば、AIモデルが単純な一回限りの応答からより複雑な思考プロセスを実行するようになるにつれて、必要な計算能力は大幅に増加し、それに伴いハードウェア需要も急増するというのだ。
興味深いのはジェンスン・フアンが述べる「推論100倍」の概念である。
従来型の単純なAI応答処理から高度な推論能力を持つモデルへの移行過程で、これから必要とされる計算リソースが100倍に拡大するというのだ。この予測は極めて重要な意味を持つ。計算リソースが100倍に拡大するなら、GPUは「まだまだ圧倒的に足りない」ということになる。
一部のアナリストはこの見通しを過大評価と見なし、Nvidiaへの懐疑的な姿勢を維持している。だが、もし100倍の計算需要増加が現実のものとなれば、Nvidiaの売上と利益はふたたび力強く成長し、現在の疑念は払拭されることになる。
「推論100倍」の概念は、果たして誇大宣言なのか、それとも事実なのか。それによってNVIDIAに賭け続けるのが正解か、売り払ったほうが正解なのかが分かれてくる。
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市場は「もっと驚異的な数字」を求めている
Nvidiaの2025会計年度第4四半期決算は、売上高と純利益が過去最高を更新しており、AI(人工知能)ブームによるGPUの需要がまったく途切れていないことを、まざまざと見せつけた。
Blackwell(ブラックウェル)は売れまくり、データセンター部門売上高の約3分の1を占めている。売上高は、前年同期比78%増の393億3100万ドル、純利益は80%増の220億9100万ドルである。すさまじい成長だ。
ところが、市場の反応は、冷ややかなものだった。過去に何度も市場を驚かせる好業績を発表してきたNvidiaにとって、今回の発表は控えめな印象を与えたのだ。
数字自体は悪くないものの、「投資家の高まる期待に応えるほどのインパクトがなかった」ことが、市場の落胆を生んだ。
粗利益率も市場に疑念を抱かせた。4月期の粗利益率見通しは市場予想の72%に対して71%と、わずかながら予想を下回った。さらに7月期にはこの数字がさらに低下する可能性も示唆されている。
Nvidiaの説明によれば、この一時的な利益率の低下は、新たな製造プロセスの立ち上げコストや、新製品ラインへの移行に伴う一過性の要因によるものであると説明されたが、市場は「一過性」とは考えなかった。
NVIDIAは、「10月期から翌年1月期にかけて、Blackwellの生産歩留まりが向上するにつれ、粗利益率は75%前後まで回復する」と予測している。この見通しが実現すれば、Nvidiaはふたたび過去最高水準に近い収益性を達成することになる。
とはいえ、目の前の数字だけを見る限り、かつてのような驚異的な成長の勢いは感じられない。同社の株価がもう一度大きく上昇するためには、市場の期待を上回るさらなるポジティブサプライズが必要だという見方が広がっている。
Nvidiaは依然として半導体業界の中心的存在であり、AI革命の主役であることに変わりはない。だが、市場の期待値が極めて高い水準に達している現在、単に「良い」数字を出すだけでは不十分となっている。
投資家たちは貪欲になりすぎ、「もっと驚異的な数字」を求めている。
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「Blackwell」の需要状況をめぐる見方
NVIDIAのGPU「Blackwell」は発売以来、市場から熱い注目を集め続けている。昨年10月期の決算発表では、年末まで品薄状態が続くという見通しが示され、一部アナリストはこの状況が2025年まで続くと予測していた。
だが、今回の決算では、肝心の需要動向について具体的な最新情報がほとんど公開されなかった。
通常、企業は売上が好調なときこそ詳細なデータを積極的に開示する。あえて情報を伏せるということは、「実は需要が予想ほど強くないのではないか」という疑問を招きかねない。
投資家は情報が少ないほど最悪の状況を想像しがちであり、今回もそうした懸念が広がりつつある。決算のあとにはトランプ政権の関税発言もあって市場が動揺したのだが、これでNVIDIAも一時マイナス10%強の下げとなってしまった。
だが、この状況を前向きに解釈する見方も存在する。
NVIDIAの経営陣は、短期的な品薄状態を強調するよりも、長期的な成長可能性に投資家の目を向けさせようとしているのではないかという見方だ。
ジェンスン・フアンCEOは、Blackwellへの自信が3か月前よりも高まったと公言し、その理由として生産量の拡大と「かつてないほど強い」需要の両立を挙げている。
この発言をそのまま信じるかどうかは意見が分かれるところだが、経営トップが具体的な短期業績に言及せずに自信を示すのは、需要減速への懸念を払拭したいという思いの表れとも考えられる。
実際、NVIDIAはBlackwellの生産拡大をしながらも高い利益率を維持できる技術力を強調している。需要に関する具体的なデータは明かされていないものの、長期的な視点では悲観論を排除できる根拠が示されている。
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疑念を抱く市場と、トランプ政権の関税と、競合の台頭
ジェンスン・フアンは「AIコンピューティングの需要はまだ始まったばかりだ」と繰り返し、明確に述べている。
これまでのAIモデルでは、ユーザーが入力する簡潔なプロンプトに対して1秒程度で単一の回答を生成する「ワンショット」処理が中心だった。今後は、AIモデルが文脈を維持しながら複数の推論ステップを踏む方式へと発展する。そうなると、必要な計算量は大幅に増加する。
次世代の推論モデルでは、現在と比較して数百倍から数百万倍もの演算処理が求められるようになり、これによってGPUなどのハードウェア需要は劇的に拡大する見込みである。
だから、ジェンスン・フアンはこの変化を「100倍の演算需要拡大」と表現しているのだ。そして、NVIDIAのGPUが「今後も引き続き、もっとも有力な選択肢」であることを強調している。
カスタムシリコンなど代替製品の台頭も見られるが、ジェンスン・フアンの説明によれば、これらを大規模に量産することの難易度は高く、処理トークンあたりのコスト面でもNVIDIAのGPUが2〜8倍ほど優位性を保持している。
製造歩留まりがさらに向上すれば、同社の粗利益率は70%台後半にふたたび近づき、収益力は一層強化されると述べている。
NVIDIAの全盛期が過ぎ去ったと疑問視する声は絶えないものの、少なくともAI推論時代の到来において、競合他社が早期に対等な立場に立つ状況は考えにくい。ジェンスン・フアンが予測する「推論100倍」の領域に達した場合でも、NVIDIAは今後数年にわたって業界をリードし続けるのではないか。
ただ、株価に関しては、市場の疑念が晴れないので、かなり大きなボラティリティがあるようにも思える。
トランプ政権の関税のゆくえもあり、そうした不確定要素もNVIDIAの株価を下落させる要因となり続けるだろう。今後は、疑念を抱く市場と、トランプ政権の関税と、競合の台頭の3つがNVIDIAの株主を苦しめることになる。
私自身は、まだAIによるパラダイムシフトが終わったと思っておらず、NVIDIAがさらに大きな利益を手にする確率は高いと考えている。楽観と悲観が交互に株価を上下させつつ、最終的にはもっと上を目指すのではないか。
