
トランプ政権が掲げる大型のインフラ支出計画や、「Buy American」政策を通じた国内調達の推進は、ニューコアのビジネスにとって追い風になる。米国の製造業復活というスローガンのもと、大型の公共事業が連鎖的に立ち上がるような状況では、まさにニューコアの独壇場と化す。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
アメリカを拠点とする鉄鋼メーカーに注目
ドナルド・トランプ米大統領は2025年2月10日、すべての輸入鉄鋼およびアルミニウム製品に対して25%の追加関税を課す大統領令に署名した。この新たな関税措置は2025年3月12日より発効し、これまで適用されていた国別や製品別の関税適用除外措置は廃止される。
これにより、アメリカではアメリカ製品の鉄鋼やアルミニウムが使われるようになる。そこで投資対象として注目されるようになっているのが、アメリカを拠点とする鉄鋼メーカー「ニューコア(Nucor)」だ。
Nucor Corporation【NUE】は、米国ノースカロライナ州シャーロットに本社を構える鉄鋼メーカーである。一般的な巨大製鉄所のイメージとは一線を画し、エネルギー効率と多様な製品ラインアップを武器に、米国内でも有数の地位を確立している。
企業としての起源は20世紀初頭の自動車関連事業にさかのぼるが、現在のスタイルを築き上げたのは、従来の高炉による製鋼ではなく、電気炉(Electric Arc Furnace)を積極的に導入した点にある。
電気炉は、鉄スクラップを溶かして再利用する工程を採用するため、初期投資や環境負荷を抑えやすいという特徴があった。これにより安定した収益構造を作り上げ、同業他社が乱高下するなかでも、比較的堅調なパフォーマンスを見せる企業へと成長したのだった。
製品ラインアップは建設用の棒鋼や鋼板、鉄筋など多岐にわたり、さまざまな産業分野を支えている。自動車や建築、インフラ投資といった需要源に幅広く対応できるため、景気変動に合わせて一部が落ち込んでも、他分野で補完し合える。
潤沢なキャッシュフローの活用策にも定評がある。戦略的な設備投資やM&Aを通じて生産能力や技術力を高めながら、株主還元も意識した配当や自社株買いを継続してきたので、投資家にも一定の評価を受けている。
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バイデン前政権の政策に大きなダメージを受けていた
ニューコアが属する鉄鋼業界は、厳しい業界でもあった。中国やインドといった新興国の膨大な生産力が市場に影響を及ぼしており、鋼材のダンピングと供給過多がニューコアを苦しめていた。
安価な鋼材が国境を越えて流入すれば、ニューコアのような国内の製鋼業者は価格競争を強いられ、収益性が圧迫される。
そこにきて、これまではバイデン前政権が押し進めていた環境保護政策が鉄鋼業界にも大きなダメージを与えていた。鉄鋼生産は一般に高エネルギーを要し、二酸化炭素の排出量が多い産業として批判の的になりやすかったのだ。
特に欧米の投資家を中心にESG(環境・社会・ガバナンス)の評価が重視されるようになると、グリーンスチールへのシフトや排出量削減目標の公表が各社に求められるようになった。
二酸化炭素排出量の大幅削減を掲げる企業が増える一方で、その技術革新や設備更新には多大なコストが伴うため、ニューコアもそうした対応で体力が削られていた側面もあった。
そこにきて、中国の不動産バブル崩壊である。インフラ整備や都市開発の伸びが需要を押し上げる局面では、業界全体が好調に転じやすいが、逆に景気後退の局面では需要減退の影響をまともに受ける構造的な弱点がある。
自動車や建設分野の落ち込みが顕著になると、鋼材の在庫がだぶつき、価格が一気に下落してしまう。そのため、各社とも景気の先行きを読みつつ、生産調整や在庫管理をおこなう必要に迫られる。
最近、ニューコアの株価が冴えなかったのは、こうした複数の要因が業績に悪影響を与えていたからでもある。
しかし、トランプ政権になって、こうした環境が一気に変わった。トランプ政権は環境問題には関心がなく、中国などの安価なダンピング製品を激しく憎んでおり、アメリカ企業を絶対的に保護しようとしている。ニューコアにとっては大きな追い風となる可能性が高い。

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トランプ政権はニューコアにとっては追い風
トランプ政権はアメリカ第一主義であり、それはアメリカの内需を大きく刺激することにもつながる。ニューコアの場合は特に米国のインフラ投資や建設需要が増大する局面で真価を発揮するので、需要は大きく伸びることが予測されている。
道路や橋梁、発電所などの大型プロジェクトが進めば、それに伴い鋼材の需要が増すため、ニューコアの販売数量は跳ね上がっていくだろう。
さらに、トランプ政権が掲げる大型のインフラ支出計画や、「Buy American」政策を通じた国内調達の推進は、ニューコアのビジネスにとって追い風になる。米国の製造業復活というスローガンのもと、大型の公共事業が連鎖的に立ち上がるような状況では、まさにニューコアの独壇場と化す。
最近、カリフォルニア州で起きた市場最悪の山火事もそうだが、アメリカでは自然災害による破壊が相次いでいる。こうした大規模な自然災害やパンデミックによるサプライチェーンの混乱に直面したとき、国内生産基盤を持つニューコアは緊急的な需要に素早く対応できる。
トランプ政権は、まさにこうした「国内で完結できる生産能力」を求めているわけで、今の時代においてはニューコアの存在は特に注目を集めることになる。ニューコアは、スクラップを溶解して鉄鋼を生産する手法を採用しており、全米の鉄鋼生産の約70%を占める存在である。
自動車のEV化が進むにつれ、軽量素材や高強度素材への需要が強まるが、この方面に関してもニューコアは抜かりなく手を打っている。こうした製品と、それに付随するラインアップをいち早く取り込み、新たな市場を開拓している。
ニューコアは、トランプ政権の関税政策を支持し、国内市場での地位強化に注力しており、トランプ政権の気が変わらなければ、ニューコアの国内優位性はかなり強化されていくのではないか。
ただ、トランプ政権の恫喝関税外交はインフレ圧力や貿易摩擦の激化をもたらすので、最終的には米国の製造業全体を苦境に陥れるという意見もあり、ニューコアがメリットだけを享受できるかどうかは未知数でもある。
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それは、トランプ政権の政策を買うということ
ニューコアを買うというのは、トランプ政権の政策を買うということでもある。投資先としてのニューコア【NUE】は強固な財務基盤と収益性から見ても悪い選択肢ではないように見える。
投資家目線で見ると、配当方針の安定性や自社株買いに象徴される株主還元策も魅力的で、企業としての成熟度や株主重視の姿勢がうかがえる。米国国内の鉄鋼需要が活性化するタイミングでは、その恩恵をダイレクトに享受し、業績を急伸させるポテンシャルを備えている。
ただ、その一方で業界の構造的なリスクは避けがたい。
鉄鋼価格の変動が激しく、景気後退局面では輸入鋼材との競合や需要減少により利益率が大きく揺さぶられがちだ。さらに、トランプ大統領の関税が気まぐれで、突発的で、不明瞭であることから、方針が変わるとニューコアも影響を受けやすい。
もし、トランプ政権が全世界を敵に回して関税をかけまくってインフレを再燃させると、FRB(連邦準備銀行)は利上げをせざるを得なくなり、それは経済を冷やす可能性が高くなる。
鉄鋼業界は好景気の波に乗れば業績は急伸する一方で、不景気になって建設投資や自動車販売が低迷すれば下振れリスクも顕在化しやすい。過去の市況を振り返っても、鉄鋼株は一時的な熱狂を伴いながら急騰し、その後の景気失速とともに大幅に調整するケースが多い。
トランプ政権の関税外交とアメリカ第一の強烈な政策が成功するのか失敗するのかで、ニューコアの投資が成功するのか失敗するのかが決まると言っても過言ではない。
総合的に見れば、ニューコアは米国の鉄鋼セクターを象徴する存在であり、米国経済のインフラ投資や建設需要が拡大するシナリオが描けるなら、十分に魅力的な投資先となるであろう。
だが、トランプ政権が生み出す混乱や、景気サイクル次第では不透明感が増す。トランプ政権が成功するという確信が持てる投資家は、ニューコアへの投資は面白いものになるのではないか。
