トランプ大統領が生む不確実性。長い目で見ると、それは基本的に株価を押し下げる

トランプ大統領が生む不確実性。長い目で見ると、それは基本的に株価を押し下げる

トランプ大統領の予測不能な政策運営が国際的な不確実性を高め、金融市場や外交関係に多大な影響を及ぼし続けることになる。そのトランプ政権は、まだ「はじまったばかり」である。そんな中で、当然といえば当然の結果ではあるが、株式市場は乱高下している。今後、どうなるのか予測しても無駄だ。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

トランプ政権はまだ「はじまったばかり」だ

ドナルド・トランプ政権2.0になってから、その予測不能な性質は金融市場や外交分野において大きな影響を及ぼしている。

メキシコ、カナダ、中国に対する関税政策や、ウクライナのゼレンスキー大統領との公開口論、メキシコ湾の呼称問題、エネルギー政策の転換、為替相場での圧力、FRB(連邦準備銀行)への圧力、政府機関の再編など、予測不能で突発的な言動が市場の不確実性をどんどん高めている。

トランプ大統領は、メキシコとカナダからの輸入品に対して25%の関税を課すことを発表し、それを交渉条件にして両国を振り回し続けている。これは、これらの国々が米国へのフェンタニル流入を十分に阻止していないとの主張に基づくものだ。

カナダも米国からの輸入品1000億ドル相当に対する報復関税を課す方針を示し、メキシコも独自の報復関税を発表した。トランプ大統領は「カナダが報復するなら、同額の関税をさらにかける」と恫喝している。

トランプ大統領は中国からの輸入品に対しても20%の追加関税を課すことを決定した。中国も15%の報復関税をかけており、米中間の貿易摩擦が再燃し、国際的な市場の不安定性が増大している。

外交面では、2月28日にホワイトハウスでおこなわれた会談中、トランプ大統領とゼレンスキー大統領が公開の場で激しい口論を繰り広げて世界に衝撃を与えた。

関税に関しても、外交に関しても、毎日のように目まぐるしく状況が変わっており、上記も明日には違う話になっているだろう。

トランプ大統領の予測不能な政策運営が国際的な不確実性を高め、金融市場や外交関係に多大な影響を及ぼし続けることになる。そのトランプ政権は、まだ「はじまったばかり」である。

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トランプ大統領の一言が売買行動を左右する

そんな中で、当然といえば当然の結果ではあるが、株式市場は乱高下している。

就任直後こそ、政策への期待感からダウ平均株価が連日で最高値を更新する局面が続いた。法人税減税や規制緩和による企業収益拡大が期待されたためである。

だが、その後の米中貿易摩擦の激化や、貿易不均衡を正すためと称して追加関税を断続的に発動した結果、市場心理は大きく揺れ動いた。グローバル株価は急落し、同業他社にまで不安が波及して一気に売り注文が膨らんだ。

現在の市場は極めて政治的で、トランプ大統領のSNSでの発言や突発的な記者会見の発言に対して敏感に反応している。

従来、為替や金利の動向は経済指標や各国中央銀行の政策に左右されると理解されてきた。しかし、トランプ大統領の一言が機関投資家の売買行動を左右し、短時間で市場を乱高下させている。

株式市場の自動取引システムは、大量のニュースソースを監視して瞬時に売買をおこなう。大統領のツイートがネガティブと解釈されると、アルゴリズムがいっせいに売り注文を出し、数分で相場が急落させる。

逆に、何かポジティブな発言があれば、同じように買いが殺到して短時間で株価が急騰する。このような急激な変動は投資家の心理をさらに不安定にし、マイナス材料が出た際の下落幅を拡大させる。

この流れが繰り返されるうちに、市場はトランプ大統領の発言を注視するようになり、ちょっとしたニュアンスの変化で急落や急騰を招く状況が固定化された。

このような「不確実性」が高まると、投資家のあいだからリスク回避志向が強まる。特に機関投資家やヘッジファンドなどは、大きな損失を避けるために現金化や安全資産への資金移動を優先するようになる。

その結果、売り圧力が高まり、株価全体が下を向く傾向が強まる。短期的には上昇に転じる場合があっても、材料が尽きれば急落するパターンが顕著である。トランプ大統領の不確実な対応が続く限り、株価の下振れリスクはつねにつきまとっている。

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無理して予測しなくてもいい。予測は無駄

トランプ大統領の政権運営は一貫性に乏しく、論理的な積み重ねよりも即断即決の政治手法が特徴である。この状況下では、従来の経済分析モデルや専門家の見通しが、大きく外れる事態が起きやすい。

多くの投資家が政治リスクや経済指標を総合的に吟味しようとしても、大統領個人の一声がすべてをひっくり返す可能性がある。

したがって、トランプ大統領在任時の相場動向を正確に予測しようとすること自体が無駄であると断定できる。ころころと変わる言動を予測することに労力を割く意味もそれほどない。

意味のないことをしても、意味のある結果は生まれない。そのため、私はトランプ政権の結果として株価がどう転がるのかは、まったく予測したいとも思っていない。

一方的な関税引き上げが発表された翌日に、すぐ交渉再開の意志を示すケースも目立つ。こうした突発的な言動は、企業収益に関する伝統的な分析モデルの前提を大きく崩す。

たとえ為替レートの動向を精査しても、大統領のSNS投稿ひとつで相場の方向が反転するため、長期的な予想を立てても空振りに終わりやすい。先日も「通貨安を低く誘導する国は関税をかける」と言われたとたんにドル円レートは円高ドル安に転換したが、そういうことは今後もいくらでも起こりえる。

政治アナリストや経済学者のあいだでも、トランプ大統領の政策を正確に言い当てた例はほとんどない。関税が高いまま固定されると予想された場面で、突然撤廃に動く発言が出たり、外交上の衝突が深刻化すると思われた直後に協議路線に転じたりして、そのたびに株式市場が動揺している。

明日には別の方向へかじを切るかもしれないという確信がある以上、詳細な予測はあまり役に立たない。むしろ、予測を更新するためのコストやリスク管理が高まり、その分だけ投資判断を遅らせる要因になる。

トランプ大統領のような独自路線の指導者が政権を握る限り、予測を重ねても短期間で覆されることが多い。そうであれば、複雑化した政治リスクに対応するには、一歩引いた視点が有効であることが理解できるはずだ。

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結局、不確実性は基本的に株価を押し下げる

トランプ政権期の株式市場では、不確実性による乱高下の末、暴落する場面が何度もやってくる。

もちろん、その後の交渉再開や利下げ観測を背景に急反発し、短期間で損失を取り戻す展開もあるが、不確実性が高まれば高まるほど、市場にとどまるリスクをすべての投資家が過敏に意識するようになる。

そのため、トランプ大統領の言動が不確実性を高めれば、投資家は何かあるごとに動揺して利益確定や損切りに走る。リスク回避の動きが過熱すれば、合理的な価格を大きく下回るほどの急落が起こる。

急落だけではない。こうした乱高下や暴騰や暴落が続きやすい相場環境では、その株価変動《ボラティリティ》を取りにいく投資家がこぞってギャンブルするので、より振幅が激しくなって、突き上がるに上昇することもある。

だが、長い目で見ると「不確実性は基本的に株価を押し下げる」のだ。

これは、逆に考えれば、良い企業が市場に釣られて「正常な評価額よりも安くなることもありえる」ということでもある。そうした瞬間こそ、大きく値下がりした優良企業の株や、ファンダメンタルズが健全な銘柄を仕込む好機となり得る。

ギャンブラーではなく、「良い企業やETFを、ほど良い価格で買って長期で保有する」ような投資家であれば、べつに予測をしなくても現金をきちんと保有しておいて、黙って状況を見守っておけばいいのではないか。

不確実性が続くのあれば、いずれはそれが元凶となって株式市場が致命的なまでに暴落する日がどこかでくる。そのときに、欲しい銘柄やETFをバーゲン価格で大量に買えばいいだけの話で、何も難しいことはない。

ある日、何かが壊れてしまったら、誰もが株式を売り、株式市場は悲惨な状況になる日がやがてやってくる。そうなれば、安く大量に良い銘柄やETFが拾えるのだから、その日に何を買っておくのかしっかり考えておくべきだ。

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