
スミス&ウェッソン(Smith & Wesson)は、アメリカの歴史そのものといえるほど、深くこの国と結びついている。興味を持って調べてみると、たしかにアメリカの「老舗」であった。ホーレス・スミスとダニエル・B・ウェッソンによって設立されたのが1852年だから、もう170年を超える企業であったのだ。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
アメリカの歴史と共に歩む老舗ブランド
先日、米国株に投資する人と話をしていて、楽しい時間を過ごしたのだが、その人は米国株の前に米国の文化が大好きで、あまりにも好きすぎて「儲かる、儲からない」を度外視して「アメリカを象徴する企業の株をずっと持ってるんですよ」と笑った。
彼がコレクションのように保有していたのは、スミス&ウェッソン【SWBI】だった。
スミス&ウェッソン(Smith & Wesson)は、アメリカの歴史そのものといえるほど、深くこの国と結びついている。私は銃に関しては幼稚園児くらいの知識しかないが、それでもS&Wくらいは知っているので、そのブランド力は相当強いのだろう。
映画や小説の世界でも、スミス&ウェッソンの銃は象徴的な存在だ。
西部劇では、アウトローや保安官がスミス&ウェッソンのリボルバーを手にして対決するシーンが頻繁に登場する。ハリウッド映画では、クリント・イーストウッドの『ダーティハリー』シリーズに登場する44マグナムのリボルバーが特に有名だ。
興味を持って調べてみると、たしかにアメリカの「老舗」であった。ホーレス・スミスとダニエル・B・ウェッソンによって設立されたのが1852年だから、企業活動としては、もう170年を超えている。
設立以後、同社は、西部開拓時代、南北戦争、そして現代に至るまで、アメリカの銃器産業を牽引してきた。
西部開拓時代には、スミス&ウェッソンのリボルバーが広く使用され、多くのガンマンや法執行機関のあいだで人気を博した。代表的なモデルとしては、44口径のスミス&ウェッソン・モデル3がある。これは1870年代にアメリカ陸軍に採用され、西部の開拓者やガンファイターたちにも広く使われた。
南北戦争では、スミス&ウェッソン製の回転式拳銃が北軍の士官たちに愛用された。20世紀に入ると、第一次世界大戦や第二次世界大戦でもアメリカ軍の標準装備の一部として採用され、戦場での信頼性の高さを証明している。

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強いブランド力とアイコニックな製品たち
スミス&ウェッソンのブランド力は、現代でもその製品の品質と革新性に支えられている。リボルバーの代名詞ともいえる同社の製品は、法執行機関、軍隊、民間人のいずれにおいても高い評価を得ている。
特に、M&P(ミリタリー&ポリス)シリーズは、近年のスミス&ウェッソンの成長を支えている重要なラインナップとなっている。ポリマーフレームを採用し、軽量かつ耐久性に優れたM&Pピストルは、多くの警察機関や民間の銃愛好家に売れている。
「M&P22マグナムのように、弾薬の種類を多様化させることで、ターゲットシューティングやセルフディフェンス用途にも適したモデルを展開している」というのだが、マグナムというのもよく聞く単語だ。
知らなかったが、『007』シリーズでは、イギリス人であるジェームズ・ボンドさえもスミス&ウェッソン製の銃を使用するシーンが見られるのだという。アメリカの刑事ドラマでは、もはやお約束のようにリボルバーやM&Pシリーズが登場し、視聴者にその存在感を強く印象づけている。
「強いアメリカ」と言えば、多くの人はカウボーイハットをかぶって銃を持った男を思い浮かべるが、スミス&ウェッソンはまさに、その「強いアメリカ」の象徴として今も全世界の人々が思い浮かべるのだ。
アメリカの文化が大好きな人であれば、銃は持てなくても株式を持っているだけでも蒐集欲が満たされるというのもわかるような気がする。
日本にとって銃は遠い遠い存在なのだが、アメリカでは今もなお「自己防衛」のために銃を所持する人が増えており、そうした人々が真っ先に選択肢に上げるのも、やはりスミス&ウェッソンだった。
もちろん、銃器は殺傷兵器であり、その普及が社会問題を引き起こしていることも否定できない。アメリカでは銃犯罪が深刻な問題となっており、銃乱射事件やギャングによる暴力、家庭内暴力における使用など、社会に与えている負の面も計り知れない。
スミス&ウェッソンが強力なブランドであるにもかかわらず、コカコーラ【KO】のように、「誰からも愛されている」わけではないのは銃器メーカーの暗い一面でもある。

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アメリカ市場の根強い需要と成長戦略
アメリカにおける銃器市場は、政治的な影響を受けながらも依然として大きな規模を誇る。スミス&ウェッソンは、その市場において競争力を維持し続けている。ただ、アメリカの市場においては根強い需要があっても、銃器業界は規制の影響を受けやすく、グローバルな展開も難しいので株価は芳しくない。
現在のところ、株価収益率は14.06 と比較的低く、業界平均と比較して割安と考えられているように思う。割安なのは、業界がクローズアップされておらず、投資家から忘れられているという言い方もできる。
株価売上高倍率を見ても、1.0を下まわっているので過小評価されている銘柄であることがわかる。
今年はあまり売上に期待はできそうになさそうだ。ただ、EPS過去5年成長率は20.77%なので「良好」といってもいいのだろう。売上過去5年成長率を見ても、プラス6.36%であり、爆発的に成長しているわけではないものの、安定的に成長はしている。
ただ、売上成長は停滞しており、今年の1株当たり利益はマイナス53.99%であるのが少し懸念材料として目をひく。業績のブレが大きいのだろう。
財務レバレッジは低く、健全なバランスシートを維持している。ただ、会社自体を巨大化させようとしているわけでもなく、今の事業をほどほどに成長させて生きていく方針であるのが見て取れる。
同社の売上が今年はマイナスというのは、よくよく考えればアメリカ人が銃を必要としていないということであって、米国全体としては治安が悪くないことを示しているのが皮肉だ。
もし、米国国内が大混乱し、暴動や略奪が横行し、ストリートで銃撃戦が起きるような事態になったとき、それこそ映画『シビル・ウォー』のような国内分断で内戦が起きたときのような話になると、俄然、スミス&ウェッソンの売上は伸びていくように思う。
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所有欲を満たして楽しむというのもいいのかも
自分の資産を膨らませるという本来の投資でいえば、スミス&ウェッソンはまったく選択眼にも入らない企業であると思う。強力なブランドを持っていながらも、成長企業としての魅力に欠ける。
今の株価は11ドル程度だが、10年前もそれくらいだったわけで、突発的に跳ね上がることはあったとしても、何年も停滞してしまうこともあって、おおよそ保有銘柄としては魅力に欠ける。
投資の本質は資産を膨らませることであり、そのためには持続的な売上成長や収益性の向上が必要だ。しかし、スミス&ウェッソンの財務データを見る限り、売上はほぼ停滞し、EPSの変動も激しい。
売上を上げるために、アメリカ全土を無法地帯にしてしまうわけにもいかない。
銃の乱射事件が起こるたびに銃メーカーの株価が大きく下落する。スミス&ウェッソンも例外ではなく、短期的な市場の動きに左右されやすい。投資家にとって、こうした不確実性の高い業界に資本を投じることは合理的とは言えない。
だから、この企業の株を保有するというのは、「アメリカの象徴を所有する」という満足感以外にないのかもしれない。
スミス&ウェッソンは、アメリカを象徴するブランドのひとつとして、その存在感を維持し続けている。同社の製品は、歴史、文化、ポップカルチャーに根付いており、今後も市場における影響力を持ち続けるだろう。
米国株というよりも、アメリカ文化そのものが大好きな人は、こういう銘柄を1つくらいは保有して「株主」としての所有欲を満たして楽しむというのもいいのかもしれない。それは異質な株の保有理由ではあるが、それはそれで心地良い楽しみとなるのかもしれない。
