「投資の成功は、良い株式を買う以上に株式をうまく買うことにある」という哲学

「投資の成功は、良い株式を買う以上に株式をうまく買うことにある」という哲学

バリュー投資の実践者として、ハワード・マークスを知らない人はいない。市場では多くの投資家が短期的な情報に振り回されることで企業の価値と価格が乖離する。マークスはこの乖離を捉えるために、地道な分析と柔軟な思考を重視している。良い企業が叩き売られているとき、マークスは動く。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

 相場が下落しているときに思い出したいこと

相場が下落しているときに思い出したいのは、「安く買う」という株式投資の基本中の基本である。相場が下落すればするほど、「良い企業を安く買う」というバリュー投資は輝いていく。これは、投資の王道だ。

このバリュー投資の実践者として、ハワード・マークスを知らない人はいない。ハワード・マークスはアメリカ合衆国出身の投資家であり、オークツリー・キャピタル・マネジメントの共同創業者兼共同会長を務めている人物である。

オークツリーは、主にハイイールド債や不良債券などを扱う投資運用会社で、機関投資家から個人投資家に至るまで多様な顧客基盤を持つ。

マークスは投資哲学をまとめたメモを定期的に発信しており、その論考は機関投資家だけでなく個人投資家からも注目を集めている。彼のメモには市場のサイクルや投資家心理への洞察が多く含まれており、景気の上昇・下降局面における投資行動の指針を示してきた。

マークスはウォーレン・バフェットらと同様にバリュー投資の信奉者であり、市場価格と企業の本質的価値とのギャップを慎重に見極めて投資する。バリュー投資家らしく、「何を買うかよりも、いくらで買うかが重要」だと主張している。

「いくらで買うか」は、まさにバリュー投資の基幹部分でもある。いくら良質な企業であっても、それが過大評価された価格では魅力が乏しい。安く買えなければ、いくら良い企業であっても意味がないのだ。

彼の著書『市場サイクルを極める』や『投資で一番大切な20の教え』などは、投資家がどのように思考し行動するべきかを説いた内容として広く読まれており、長期的な投資方針を考えるうえでの参考文献とされている。

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過度な楽観や悲観が価格に与える影響を読む

ハワード・マークスは投資家心理の偏りや群集心理を分析の重要要素とみなし、過度な楽観や悲観が価格に与える影響を強調している。

市場では多くの投資家が短期的な情報に振り回されることで企業の価値と価格が乖離する。マークスはこの乖離を捉えるために、地道な分析と柔軟な思考を重視している。こうした手法は単純な企業分析だけでなく、市場全体の雰囲気や参加者のセンチメントを汲み取ることにも及ぶ。

投資家が熱狂や恐怖によって引き起こす価格の非合理的な動きを利用する。

具体的には、人々が何らかの社会的ショックで株式を手放し、企業が本来持つ価値より株価が下回っている時期を探索することを重視している。

人気銘柄に資金が集まる局面では、往々にして株価が企業の実力を超えて上昇する。マークスはそうした相場には容易に飛びつかない。反対に、市場全体が悲観的になり株価が大きく下落している場面で、バリュー(割安)な銘柄を拾う。

バリューであることを検証するために、マークスは多角的な分析をおこなう。

財務諸表の精査だけでなく、業界のトレンドやマクロ経済状況、投資家のセンチメントまですべてが調査の対象だ。こうして得られた情報をもとに、企業の本質的な価値と現在の株価を比較し、十分に割安と判断すれば投資を決行する。

バリュー(割安)で買うのは、安全への担保でもある。

市場では予期しない経済危機や個別企業の問題が突発的に起きる。最近ではトランプ大統領が恫喝関税外交で市場を振り回しているが、トランプ大統領がいなくても、市場は何らかの要因で下落する。

割安に買っておけば、そうしたリスクに対処しやすくなる。これは「いくらで買うか」に徹底的に焦点を当てるマークスの哲学を体現するものでもある。割安で買っていれば、想定外の下落があっても致命的な損失を避けやすい。これにより長期的視点で安定したリターンを狙うことが可能だ。

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判断基準は「適正な価格帯にあるかどうか?」

投資家の中には、マークスのようなアプローチを退屈だと批判する意見もある。

派手なハイテク株への投資や短期トレードの方が刺激的だからだ。だが、マークスは資産を堅実に増やす方法こそ、バリュー投資の強みだと断定している。

人気銘柄に過剰投資したあげく、暴落局面で大きな損失をこうむる事例は歴史上何度も見受けられる。彼はそうした落とし穴に陥らないよう、つねに冷静な視点で価格と価値のずれを追究し続けているのだ。

マークスは特定のセクターに固執せず、広範な市場を対象に投資機会を探ることで知られている。だが、基本的に購買の判断基準は「適正な価格帯にあるかどうか?」であり、過熱気味の銘柄には手を出さない。

バリュー投資では、たとえ現在は不人気な分野であっても、基礎的需要が衰えない業種であれば、世間の関心が薄い段階で株を取得することで高いリターンを狙える場合が多いことに着目している。

この点はグロース投資と異なり、短期的な成長力よりも、株価が低迷している局面を捉えることを優先する考え方につながっている。

ただ、バリュー投資は短期で結果が出るわけではない。バリュー投資では時間軸を長期に設定する姿勢が欠かせない。

割安な銘柄はすぐに市場の注目を集めるとは限らず、株価が停滞する期間もありえる。しかし、十分な調査と分析をおこなったうえで本質的価値に確信を持てれば、市場がいずれ株価を修正すると断定し、じっくり待つ戦略をとる。

むしろ短期的な株価の乱高下を逆手に取り、安いと判断できる局面で買い増しをおこなうことが多い。相場の下落を利用して結果的に資産を膨らませるのがバリュー投資の神髄でもある。

王道だが、このアプローチが広がらないのは、人々がせっかちで即日に大儲けしたいからでもある。「長期で保有する」というのが普通の人には耐えられないのだ。だから、バリュー投資を実践できる人がなかなかいない。

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そんなとき、バリュー投資家が目を覚ます

相場が下落している局面では、多くの投資家が恐怖や悲観にとらわれやすい。

株価の下落によって損失が拡大すると、感情的な売りが増え、合理的な判断を損ないやすい。だが、バリュー投資家はこうした混乱こそが絶好の買い場になると捉える。実際に価格が企業の本質的価値を大幅に下回るケースが生じやすいからだ。

ハワード・マークスの言葉を借りれば、「良い株式を買う以上に株式をうまく買う」ことで長期的な利得を狙える。

下落相場では優良企業の株価も下がるため、本来なら割高と判断されるような銘柄であっても大幅に値下がりし、魅力的な水準に達することがある。特に景気後退局面では、投資家の過度な悲観によって割安感が増す銘柄が多発しやすい。

バリュー投資家は、売りが先行して市場の評価が過度に低くなった企業を徹底的に調査し、本質的価値と比較して著しく割安だと結論づけた場合に買い向かう。リスクをとれる余裕資金を持つ投資家は、この段階で積極的に割安銘柄を買い集めることで、景気回復局面における株価上昇を享受しやすい。

もちろん、株価が大きく下落しているからといって、すべてが魅力的な投資対象になるわけではない。中には経営破綻の懸念が高まる企業や、業界そのものの競争力が著しく失われている場合もある。買い対象の質を見誤れば大きな損失をこうむる。

だから、徹底した調査と分析をした上で、これと思った銘柄を拾っていく。

バリュー投資家は下落相場を歓迎し、安全マージンを確保しつつ投資を進めていく。普段は高値の優良株が割安になり、本質的価値とのギャップが拡大する瞬間を見逃さずに捕らえる。

悲観ムードを逆手に取って儲ける。それがうまいのが、ハワード・マークスである。トランプ政権下では、これからも予期せぬことが次々と起こって相場を翻弄し、相場を上にも下にも乱高下させるだろう。ときには暴落を呼ぶこともあるはずだ。

そんなとき、バリュー投資家が目を覚ます。

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