
投資の世界において、高配当ETFは多くの投資家にとって魅力的な選択肢だ。インカムゲイン(配当益)を重視する投資家にとって、定期的な配当収入は生活資金や再投資の原資となり得る。また、長期投資を志向する者にとっては、安定したキャッシュフローと資産成長の両立が期待できる。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
同じ「高配当ETF」でも違いがある?
投資の世界において、高配当ETFは多くの投資家にとって魅力的な選択肢である。その理由は明確だ。まず、インカムゲインを重視する投資家にとって、定期的な配当収入は生活資金や再投資の原資となり得る。
また、長期投資を志向する者にとっては、安定したキャッシュフローと資産成長の両立が期待できる点が大きい。
特に米国市場に上場するETFは、低コストで多様な銘柄に分散投資できるため、個人投資家でも手軽に高配当戦略を採用できる。こうした高配当ETFはいくつかあるのだが、代表的なものとしてすぐに頭に浮かぶのは以下の2つだろう。
【SPYD】:SPDRポートフォリオS&P500高配当株式ETF
【VYM】:バンガード・米国高配当株式ETF
この2つは、同じ「高配当ETF」でも、けっこうな違いがあるので興味深い。
【SPYD】(SPDRポートフォリオS&P500高配当株式ETF)は、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズが運用するETFである。S&P500に含まれる銘柄のうち、配当利回りが特に高い80銘柄を均等に組み入れるコンセプトを持つ。
一方、【VYM】(バンガード・米国高配当株式ETF)は、バンガード社が運用し、FTSEハイディビデンド・イールド・インデックスに連動するETFである。こちらは約400銘柄以上を時価総額加重で組み入れる。
これだけで両者の違いが際立つ。
【SPYD】は少数の高配当銘柄に集中し、【VYM】は幅広い銘柄で分散を図る。運用会社も異なり、【SPYD】はステート・ストリート、【VYM】は低コスト運用で知られるバンガードと、背景にも差がある。
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配当利回りは【SPYD】のほうが圧倒的に高い
ところで、高配当ETFを買うのであれば「利回りが良いほうを選べばいいのではないか」と思う人も多いかもしれない。
しかし、そう単純な話ではない。高配当銘柄やETFは、単に利回りの高さだけで選ぶものではなかった。これについては、フルインベスト・メルマガ編でも書いたとおりだ。(フルインベスト:50代以上は、成長株でもなく高配当株でもなく「これ」で配当永久機関を作れ)
【SPYD】と【VYM】ではどうだろうか。
まず、配当利回りと増配率を直近データで比較すると、現時点で、【SPYD】の配当利回りは約4.20%、【VYM】は約2.68%となっている。これだけを比較すると、【SPYD】が明らかに高い。これは【SPYD】がS&P500の高配当上位80銘柄に絞り、均等配分で投資する設計だからだ。
一方、【VYM】は400銘柄以上を対象とし、平均以上の配当利回りを基準に選ぶので、総合的に利回りそのものは【SPYD】に劣る。
ところが、増配率で見ると、【VYM】が優位となる。過去10年の平均増配率は【VYM】が約8.5%、【SPYD】が約4.0%と、【VYM】は配当成長が顕著である。これは【VYM】が時価総額の大きい安定企業を多く含むため、持続的な増配が可能な銘柄に支えられている結果だ。
銘柄構成とセクター比率も両者は思想が違うのが見て取れる。
【SPYD】は80銘柄を均等配分する。たとえば、2024年10月時点の上位セクターは金融が約21.9%、公共事業が約15.9%、不動産が約14.4%となっている。この均等配分により、特定の銘柄やセクターへの偏りが少ない反面、景気敏感セクターの割合が高い。
これに対して【VYM】は時価総額加重型で、金融が約20.5%、ヘルスケアが約15.2%、生活必需品が約13.8%と続く。銘柄数は400以上と多く、上位10銘柄で全体の約20%を占めるが、メガテックのような成長株はほぼ含まれない。【VYM】の構成は安定志向が強く、ディフェンシブ銘柄の比率が高い点で【SPYD】と異なる。
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今すぐ高配当が欲しいのか、増配を求めるのか
2016年から2024年までのトータルリターン(配当再投資込み)では、【VYM】が年率約9.2%、【SPYD】が約7.8%である。【VYM】の方がリターンが高い。これは【VYM】が銘柄数を多く分散させ、株価成長と配当のバランスを取っているためだ。
一方、ボラティリティ(価格変動の大きさ)は【SPYD】が約18.5%、【VYM】が約14.2%と、【SPYD】の方が変動が大きい。特に2020年のコロナショックでは、【SPYD】の下落率が約35%に対し、【VYM】は約28%と、【VYM】の方が底堅かった。この差は、【SPYD】の景気敏感セクター依存が影響しているのは間違いない。
【SPYD】は高配当銘柄に集中するため、景気後退時に減配リスクが高い。実際に、コロナショック時には構成銘柄の一部が減配し、配当利回りの安定性が揺らいだ。また、年2回の銘柄入れ替えは機動的だが、短期的な変動要因となる。
【VYM】も無配リスクはあるが、銘柄数が多いため影響は限定的だ。ただし、【VYM】の欠点は利回りの低さであり、即時性の高い配当収入を求める投資家には物足りない。両者とも金利上昇局面では株価が圧迫されるが、【SPYD】の不動産や金融への依存度がリスクを増幅する。
このような性格の違いを見ると、配当重視の投資家には【SPYD】が向いており、長期安定成長を狙う投資家には、【VYM】が適しているのがわかってくるはずだ。
【SPYD】の利回り4.5%は【VYM】の3.0%を大きく上回り、短中期で高いインカムゲインを得たい場合に有利である。たとえば、100万円を投資した場合、【SPYD】は年間4万5000円、【VYM】は3万円の配当となる。この1万5000円の差は、配当を生活費や再投資に充てる投資家にとって大きい。
ただし、【SPYD】は増配率が低く、景気後退時の減配リスクが高いため、安定性を重視するなら注意が必要となる。
長期安定成長を狙う投資家には、【VYM】が適している。
過去のリターン9.2%対7.8%、ボラティリティ14.2%対18.5%と、【VYM】は安定性と成長性のバランスが優れる。増配率8.5%も長期的な配当成長を保証し、10年後には配当額が【SPYD】を逆転する可能性が高い。
たとえば、年間3万円の配当が8.5%で増配を続けると、10年後には約6万7000円に達する。一方、【SPYD】の4.5万円が4.0%で増配しても約6万8000円と、差は縮まるが【VYM】の安定性が勝る。
長期で資産を増やしたいなら、【VYM】の分散効果と成長力が魅力的だ。
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どちらが自分に合うのかはじっくり選べる
【SPYD】の強みは高い配当利回り4.5%と低コスト(経費率0.07%)だ。少額から投資でき、即時性の高いインカムゲインを得られる。しかし、景気敏感セクターへの依存と低い増配率が弱点であり、長期的な安定性に欠ける。
【VYM】の強みは銘柄数の多さによる分散効果、増配率8.5%による配当成長、そして低いボラティリティ14.2%である。経費率0.06%も魅力的である。弱点は利回り3.0%の低さだが、トータルリターンでは【SPYD】を上回る。
・株価変動が高くても、すぐに高配当が欲しい投資家は【SPYD】
・価格変動が低く、かなり長期で保有できる投資家であれば【VYM】
こういうことになるのではないか。基本的に、【SPYD】も【VYM】もどちらも非常に優れたETFである。ただ、自分の性格や状況によってメリット・デメリットが出てくるので、どちらが自分に合うのかはじっくり選べると思う。
個人的な話をすると、私自身は【VYM】を好んでいる。性格的に長期で気に入った銘柄を保有するのが好きだし、【VYM】が増配を繰り返して配当率を上げてくれるのであれば、それは私にとってはメリットである。
【VYM】は景気変動に強いのだが、それでも相場が悪化して大きく下落する局面もあるだろう。その時期には、むしろ買い増しして将来の配当率を上げたい。
【VYM】は400銘柄以上の分散と増配率の高さで、10年後、20年後の資産が確実に増えるイメージが持てる。目先の利益だけでなく、将来の安定性と増配による配当率の高まりは非常に魅力的だと思う。
バンガードらしく、経費率も0.06%という低コストである。【VYM】は単なる高配当ETFではない。資産を増やしつつ、将来の不確実性に備えるための武器となりえるものだ。【VYM】は長期投資家の信頼に応える存在であると思う。
