
私自身は、べつに米国シンパでも何でもないが、今後の十数年でアメリカに取って代わる超大国が出てくるとは思っていないし、現在の資本主義が崩壊するとも思っていないし、最強の株式市場が米国以外に移るとも思っていない。それならば、確率的にアメリカに賭けたほうが勝率が高いと考えている。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
【VT】がいいのか【VTI】がいいのか?
全世界に投資するか、全米に投資するか……。
【VT】と【VTI】は、バンガード社が提供するETFとして知られているが、その投資対象や特徴には明確な違いが存在する。
まず、【VT】はバンガード・トータル・ワールド・ストックETFであり、世界中の株式市場を対象にしている。これに対し、【VTI】はバンガード・トータル・ストック・マーケットETFであり、米国株式市場に限定して投資をおこなう。
具体的に言えば、【VT】は約9,000銘柄をカバーし、先進国から新興国まで幅広い地域の企業を含んでいる。一方、【VTI】は約3,500銘柄で構成され、米国に上場する大中小型株を網羅する。
経費率を見ると、【VTI】は0.03%、【VT】は0.07%である。【VT】の経費率が高い理由は、国際的な市場をカバーするための運用コストが加わるためだ。
たとえば、為替変動への対応や、各国の市場データを統合する手間が【VT】のコストを押し上げている。対して、【VTI】は米国市場に特化しているため、管理がシンプルで低コストを実現している。
リスクの観点でも両者は異なる。【VTI】は米国市場のみを対象とするため、米国の経済状況や政策に依存する中程度のリスクを持つ。一方、【VT】は世界市場をカバーするため、新興国の政治的不安定さや為替リスクが加わり、リスクはやや高くなる。
たとえば、2022年のロシア・ウクライナ紛争では、新興国を含む【VT】の価格変動が【VTI】よりも大きかった。このように、【VT】は分散性が高い反面、変動要因も多い。
データで見ると、2023年末時点の時価総額は【VTI】が約1.4兆ドル、【VT】が約400億ドルであり、【VTI】の方が規模が大きい。
これは投資家の需要が米国市場に集中している証拠でもある。【VT】と【VTI】は、同じバンガード社の商品であっても、投資範囲、コスト、リスクにおいて明確な違いがある。これを理解することが、どちらを選ぶかの判断材料となる。
フルインベストの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』
アメリカの行く末が危ぶまれているのだが……
【VT】に連動する投資信託は「オルカン」、【VTI】に連動する投資信託は「全米株式」と略して言われていたりする。世間ではオルカン、すなわち【VT】を推す声が多いが、私自身は【VT】の保有を考えたことは一度もない。全米株式、すなわち【VTI】を強く好んでいる。
その理由は明白だ。
アメリカ株式市場の優位性である。
米国は世界最大の経済大国であり、2023年の名目GDPは約27兆ドルで、中国の約18兆ドルを大きく上回る。この経済規模は、株式市場の厚みと流動性を支える基盤だ。
NYSEやNASDAQには、世界をリードする企業が集まり、時価総額上位を見ても、アップル(約3兆ドル)、マイクロソフト(約2.8兆ドル)、アマゾン(約1.8兆ドル)といった巨人が名を連ねる。これらの企業は、技術革新やグローバルな事業展開で他国を圧倒している。
米国市場の強さは、イノベーションの中心地である点にも表れる。シリコンバレーを拠点とするテック企業は、AI、クラウドコンピューティング、電気自動車といった成長分野を牽引する。
長期的な成長実績も見逃せない。S&P500指数は過去10年(2013~2023年)で年平均約10%のリターンを記録し、特に2020年のコロナショック後の回復力も際立っていた。一方、MSCIワールド指数(【VT】のベンチマークに近い)は同期間で約8%と、米国市場に劣る。
米国の金融政策や企業統治の透明性も、投資家にとって信頼感を与える要因だ。たとえば、FRBの迅速な利下げや財政支援は、市場の安定を支えてきた。
もちろん、米国市場へ限ってしまうとデメリットも発生する。2022年の利上げ局面では、【VTI】の下げはキツく、S&P500が約20%下落し、ハイテク株中心のNASDAQは30%以上値を下げた。
とはいえ、こうした下落局面でも回復力を見せ、2023年にはS&P500が24%上昇したわけで、長期投資家にとっては一時的な調整であったのは言うまでもない。
現在、トランプ政権がやりたい放題やっていて、アメリカの行く末が危ぶまれている。私もそれを危惧している。それでも現代資本主義の総本山は米国だし、米国株式市場には最強の企業が連なっているのだから、未来に関しては心配はしていない。

『邪悪な世界のもがき方 格差と搾取の世界を株式投資で生き残る(鈴木傾城)』
米国経済全体の成長を享受できるのが【VTI】
【VTI】は大型株から小型株まで全米株式をほぼ100%カバーしている。個人が個別株でそれを実現しようと思ったら不可能に近いが、それが【VTI】を買うことで実現できるのだ。
これは全米を丸ごと買いたい投資かには大きなメリットでもある。具体的には約3,500銘柄を保有し、時価総額加重平均で構成される。アップルのような巨大企業が約6%を占める一方、小型株も約10%程度組み込まれている。
これにより、個人投資家が単一セクターの変動リスクを軽減しつつ、米国経済全体の成長を享受できるようになるのだ。
セクター別の分散も効いている。2023年時点の構成比では、テクノロジーが約28%、金融が約13%、ヘルスケアが約12%と、多様な産業を網羅する。テクノロジーではマイクロソフトやエヌビディア、金融ではJPモルガンやバンク・オブ・アメリカ、ヘルスケアではジョンソン・エンド・ジョンソンが含まれる。
経費率は0.03%と極めて低く、100万円投資した場合の年間コストはわずか300円だ。この低コストは、長期的なリターンを最大化する要因となる。対比として、アクティブ運用のファンドでは経費率が1%を超えるものも多く、長期で保有するとコスト差が複利効果で拡大する。
バンガードの創設者ジョン・ボーグルが提唱した「コストがリターンを決める」という哲学が、【VTI】に体現されている。
【VTI】はもちろん分配金(配当)も出す。現在の配当率は1.32%となっている。四半期ごとに支払われる配当を自動で再投資することで、複利効果も高められる。過去10年のトータルリターン(配当込み)は年平均11%である。
もちろん、良いことばかりではなく、米国経済が失速して新興国や米国外の市場が活性化したら、パフォーマンスは劣後することになる。たとえば、2020年の中国経済の回復が【VT】に反映されたのに対し、【VTI】は無関係だった。この特化性が、【VTI】の戦略の強みでもあり限界でもあると考える人もいる。
だが、米国株式市場は世界最強の市場であることを考えると、その時期にこそドルコスト平均法で買い続けるチャンスなのだ。その時期に【VTI】を増やすことによって、いずれ米国株式市場が立ち直ったときに大きな利益が得られるのだ。
『亡国トラップ-多文化共生- 多文化共生というワナが日本を滅ぼす(鈴木傾城)』
これからも長らく【VTI】を長期保有していく
私自身は、べつに米国シンパでも何でもない、だが、客観的に見ても、今後の十数年でアメリカに取って代わる超大国が出てくるとは思っていないし、現在の資本主義が崩壊するとも思っていないし、最強の株式市場が米国以外に移るとも思っていない。
つまり、確率的にアメリカに賭けたほうが勝率が高い。それならば、米国株式市場一本に絞っていたほうがシンプルである。
べつに世界市場をカバーする【VT】が悪いわけではない。【VT】にもメリットがある。約9,000銘柄で構成される【VT】は、新興国の成長を取り込める点で優れる。中国やインドの経済拡大が顕著な中、【VT】はこうした地域の恩恵を受けられる。
また、米国市場が停滞した際に、他国の好調さがリスクを緩和する。2020年のコロナ回復期には、新興国の反発が【VT】の価値を押し上げた。分散性の高さは、グローバルな視点を持つ投資家にとって明確な強みだ。
とは言えども、やはり私は【VTI】を選びたい。VTのグローバルな分散性は魅力的だが、米国市場の優位性が私にとって決定的だ。
アップル、マイクロソフト、グーグル、アマゾンのような巨大ハイテク企業から、マクドナルド、スターバックス、コカコーラ、ペプシのような優れたブランドを持った企業から、エクソンモービル、シェブロンのような石油企業から、ファイザー、イーライリリーのような製薬企業まで、世界最強企業が集まっているのが米国株式市場であり、それをすべて網羅したのが【VTI】なのだ。
数ある多くの投資機関やヘッジファンドですらも、長期でこの【VTI】に勝ち続けることは難しい。私もこれからも長らく【VTI】を長期保有していく予定だが、これは永遠に私のコアETFであり続けるはずだ。
