配当投資家として見逃せない企業ベライゾン・コミュニケーションズ【VZ】を分析

配当投資家として見逃せない企業ベライゾン・コミュニケーションズ【VZ】を分析

ベライゾン・コミュニケーションズ【VZ】は財務的に安定的な企業だ。それでも株式は売り込まれた。その要因はいくつもあったのだが、わかりやすく言うと、通信業界全体が成熟市場に突入している上に、高額な5G設備投資が必要だった上、ライバルにシェアを奪われたからだ。今後はどうか?(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

【VZ】は米国株の中でもトップクラスの利回り

ベライゾン・コミュニケーションズ【VZ】という企業を知っているだろうか? この企業は、アメリカを代表する通信大手であり、じつは配当投資家(Dividend Investor)のあいだでは長年にわたって注目を集めてきた企業でもある。

現在、VZがふたたび脚光を浴びているのは、高水準の配当利回りと割安な株価水準が共存しているという極めて珍しいタイミングにあるからだ。

まず、配当利回りについて見ておく必要がある。VZの予想配当利回りは現在およそ6.6%から7.0%の水準にあり、米国株の中でもトップクラスの利回りである。これはS&P500指数の平均利回り(約1.5%)を大きく上回っている。

しかも、この利回りは一時的なものではなく、長年にわたって安定して支払われ続けてきた実績に裏打ちされている点が重要だ。

通信事業は、もともと景気に左右されにくい「ディフェンシブセクター」に属し、顧客の解約率も低い。【VZ】の場合、安定したインフラ型ビジネスモデルにより、営業キャッシュフローは年間300億ドル前後に達している。これは配当を支払うには十分すぎる水準である。

今、この企業を取り上げたかったのは、株価が安いからだ。

【VZ】の株価は2022年から2023年にかけて大きく下落し、一時は40ドルを割り込む場面もあった。現在は、株価がやや反発しており44ドル前後の水準にある。株価は依然として割安圏にあると言って差し支えない。

このように、配当利回りが高く、キャッシュフローが安定し、株価が割安水準にある今の【VZ】は、配当を狙う投資家にとって魅力的な局面にある。高金利が続く現環境では、資金が短期債に流れやすい傾向もあるが、それでも【VZ】のようにインフレ耐性と安定配当を兼ね備えた個別株は、長期保有に値する対象となりうる。

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【VZ】が減配の可能性は極めて低い理由とは?

ベライゾン【VZ】が配当投資家に評価される最大の理由は、安定した配当政策にある。同社は2024年時点で、18年連続増配を継続している。これは配当重視の長期投資家にとっては強力な信頼材料でもある。

過去10年間の年間配当額を振り返ると、2015年の2.20ドルから、2024年の2.66ドルまで、毎年わずかながらも着実に増配を実施してきた。10年間の平均増配率はおおよそ2.1%であり、劇的な増配はないものの安定性を優先する姿勢が一貫している。

今後も継続して配当が出せるかどうかは、配当性向を見る。

【VZ】の2024年の予想配当性向は約64.8%であり、利益の約3分の2を配当に回している計算となる。これは高すぎず、低すぎない絶妙なバランスだ。70%を超えると、利益が減少した場合に配当維持が困難になるリスクもある。

VZはそうした水準には至っていない。利益が一定以上確保されている限り、減配の可能性は極めて低い。

【VZ】は通信業なのだが、通信インフラは一度整備されれば長期にわたり安定した収益を生むことができ、契約ベースのビジネスモデルにより毎月の収入が予測しやすい。たとえ景気後退局面においても、顧客が通信サービスを解約することは少ない。ここが通信業の素晴らしいところだ。

これが継続的な収益源となるのだ。そして、これこそが同社の配当安定性を下支えする基盤でもある。

ただ、すべてが盤石というわけではない。通信業界全体として、5Gやインフラ投資に伴う資本支出の増加、競争激化による価格圧力などのリスク要因もある。しかし、それらを考慮してもなお、【VZ】は過去に減配を行わず、むしろ増配を継続してきた。

【VZ】は、経営陣が株主還元を最優先に据えていることを明確に示している。

配当を重視する投資家にとって、もっとも避けたいのは「思わぬ減配」である。その点において、ベライゾンは18年間一度もそれをおこなっていない。今後も思わぬ減配に見舞われる可能性は低いことを意味している。

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【VZ】は財務的にも一定の強さを持っている

配当の源泉となるのは、企業の収益力と財務の健全性である。【VZ】はその両面において一定の強さを持っている。

【VZ】の現時点でのROE(自己資本利益率)は18.3%に達しており、これは米国企業の中でもかなり高い水準である。ROEが高いということは、株主が出資した資本を効率よく利益に変えていることを意味する。

つまり、同じ1ドルを投じても、それがより多くの利益を生む。これは配当可能利益を厚くする前提条件として極めて重要である。

営業利益率も22.8%と高く、同社の事業が高い収益性を誇ることを示している。通信業界は競争が激しい。それでも【VZ】がこのような利益率を維持できているのは、ブランド力、インフラ優位性、長期契約構造の強みが活かされている結果である。

純利益率も12.9%と優れており、売上高に対してしっかりと利益を残していることがわかる。これにより、税引き後でも配当支払いに充てる余裕がある。

ただ、負債比率はやや高めである。Debt/Equity(自己資本比率)は1.70、長期負債比率は1.42と、一般的な企業に比べてレバレッジが高いことは否定できない。

しかし、これは通信業の性質上、しかたがないことだ。通信業はインフラへの長期投資が必要だからだ。ただ【VZ】はキャッシュフローが安定していることから、過度に問題視する必要はないと私は見ている。

それでも、【VZ】の株価は売り込まれている。チャートを見ると、2021年にピーク(約60ドル前後)をつけたあと、2023年後半までに40ドル割れ寸前まで下落しているのがわかる。

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株価水準、業績回復、配当の安心感という3要素

【VZ】が下落した要因はいくつもあったのだが、わかりやすく言うと、通信業界全体が成熟市場に突入している上に、高額な5G設備投資が必要だった上、悪いことにT-Mobileにシェアを奪われて、利益率が圧迫されてしまったからである。

しかし、5Gの設備投資はすでにピークを過ぎており、今後は回収フェーズに入っていく。 一部シェアは奪われたが、ベライゾンの顧客基盤は依然として全米トップクラスであるのも間違いない。

とすれば、配当投資家にとっては「割安なうちに増配銘柄を買う」という機会が今、目の前にあることになる。

P/E(株価収益率)は10.6、P/FCF(株価フリーキャッシュフロー倍率)は9.3と、割安感が強い。米国市場全体の平均P/Eが18〜20倍であることを考慮すると、VZの株価は相対的に低く、将来的な株価回復余地を示唆している。

つまり、【VZ】は「高収益・割安・安定」という、配当株として理想的な特徴を備えている。財務的な懸念も一部あるものの、それを補って余りある収益力があるため、配当投資家にとっての安心材料になっている。

ここまでの分析を踏まえると、ベライゾンは配当投資家にとって非常に有力な候補であることは明らかだ。

配当目的の投資においては、「安く買って長く持つ」ことが基本戦略となる。その観点からすると、今は一括投資ではなく、「分割買い」や「段階的エントリー」を検討するには適した水準にある。

たとえば、50ドルを上限としつつ、数回に分けて買い進めることで、平均取得単価を抑えることが可能になる。

また、同業のAT&T【T】と比較しても、【VZ】は利益率や財務体質、配当の継続性の点で上回っている。配当投資家にとっては選好しやすい銘柄である。

個人的には、【VZ】は今まさに「配当株として買う理由が揃っている」状態にあり、株価水準、業績回復、配当の安心感という3要素が同時に成立していると思う。短期売買には向かない。キャピタルゲイン投資家にも向かない。しかし、インカムゲイン目的での長期保有であれば、【VZ】は面白い投資先になると思う。

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