「90%以上が市場平均を上回れない」が、それでも人は株で勝負をしたがる

「90%以上が市場平均を上回れない」が、それでも人は株で勝負をしたがる

投資家の90%以上が市場平均を上回れない。市場のタイミングを的確に予測することなんか誰にもできない。株価が上がるタイミングで買い、下がる前に売るのが理想だが、そんな完璧な予測はプロでも不可能に近い。長期投資にしても、それを貫徹できる人は少ない。貫徹できないのも理由がある。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

なぜ多くの投資家は市場平均を上回れないのか?

投資をしている人なら誰でも「どうすれば市場平均を上回れるのか」と一度は考えることがあるはずだ。

驚くべきことに、投資家の90%以上が市場平均を上回れない。

そういうデータが現実として存在する。では、なぜこんなにも多くの人が市場に勝てないのだろうか。その理由を掘り下げると、人間の心理や行動、そして市場の仕組みそのものに原因があることがわかってくる。感情が投資の邪魔をする。

たとえば、株価が急落すると「これ以上損したくない」と慌てて売ってしまう。これは、典型的な損失回避バイアスだ。人間は利益を得ることよりも損失を避けることを優先する。それで、株価が下がったときに売却し、上昇し始めたときに慌てて買い戻す人が多い。

しかし、この感情的な売買はタイミングを外す原因となり、結果的に市場平均を下回る成績につながる。冷静に考えれば、株価が下がったときに我慢して持ち続け、上昇を待つ方がリターンは高くなる。だが、多くの投資家は感情に流されてその選択ができない。

そもそも、市場のタイミングを的確に予測することなんか誰にもできない。

株価が上がるタイミングで買い、下がる前に売るのが理想だが、そんな完璧な予測はプロでも不可能に近い。経済ニュースや企業の業績を見て「今が買い時だ」と判断しても、市場は予測不能な動きをする。

2025年からのトランプ政権で、トランプ大統領が関税の発言をするたびに市場が動揺しているのを見てもわかるが、プロのアナリストもことごとく予想を外している。

感情的な判断にタイミングの難しさが重なるのだから、市場平均を上回るというのは、そう簡単な話ではないのだ。

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アクティブファンドも94%が20年で負けてしまう

「投資家の90%以上が市場平均を上回れない」という主張は、ただの感覚ではない。実際のデータがこの事実を裏づけている。特に、SPIVAレポートやDALBARレポートといった信頼性の高い調査結果を見ると、その厳しい現実が浮かび上がる。

SPIVAレポートは「S&P Dow Jones Indices」が発表するものだが、アクティブファンドと市場平均(たとえばS&P500)の成績を比較している。2023年のデータによると、米国大型株アクティブファンドのうち、1年間でS&P500を下回った割合は約51%だ。

期間を長くすると、その数字は跳ね上がる。

3年では78%、5年では86%、10年では85%、そして20年では94%がS&P500に負けている。つまり、短期間では半数近くが勝てる可能性があるものの、10年以上の長期で見ると、9割以上が市場平均に届かないのだ。

このデータは、アクティブファンドの運用者がどれだけ優秀でも、市場全体の成長に勝つのが難しいことを示している。

個人投資家の成績はどうか。「DALBARレポート」は、個人投資家の実際のリターンを調査したものだ。

たとえば、ある期間にS&P500の年平均リターンが10%だったとする。このとき、個人投資家の平均リターンはわずか3〜4%にとどまることがわかっている。その差は6〜7%もあり、長期で見れば資産の増え方に大きな影響を与える。

なぜこんな差が生まれるのか。原因は、個人投資家が感情的な売買を繰り返すからだ。株価が下がると怖くなって売り、上がると欲が出て買う。このタイミングのズレが、市場平均から大きく後れを取る結果につながる。

プロのファンドマネージャーでさえ勝てないのに、個人投資家がさらに苦戦するのは当然とも言える。

長期的に市場平均を上回るのは、並大抵なことではないのだ。

アクティブファンドも94%が20年で負け、個人投資家は感情でさらに不利になり、ヘッジファンドでさえインデックスに勝てない。「90%以上が市場平均を上回れない」という事実は、データによって明確に示されているのだ。

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インデックス投資の「合理的すぎる」強さ

市場平均を上回れない投資家が90%以上もいるなら、どうすればいいのか。

答えは非常にシンプルなものに行き着く。ただ単に「市場全体を買うインデックス投資を選ぶ」だけでいい。S&P500連動ETFでは【VOO】【SPY】、米国株式市場全体に連動するETFでは【VTI】などがある。

これらのインデックスファンドは、市場平均をそのまま反映する。

特定の銘柄を選んだりタイミングを計ったりする必要がない。それに、低コストだ。アクティブファンドが年1〜2%の手数料を取るのに対し、インデックスファンドは0.1%程度ですむ。

これらのETFは分散の鬼でもある。S&P500連動ETFでは500社に投資しているわけで、万一どこかが倒産したとしても全体への影響は小さい。それに、透明性が高い。どの企業にどれだけ投資しているかが明確で、運用者が裏で何かを操作する余地がない。このシンプルさが、長期的なリターンを支える。

さらに、時間を味方につける複利効果も見逃せない。

たとえば、年平均7%のリターンで100万円を20年運用すると、約387万円になる。30年なら約761万円だ。インデックス投資は市場平均をそのまま反映するので、こうした安定した成長が期待できる。

成功している投資家がインデックスを選ぶ理由もここにある。

ウォーレン・バフェットも自身の遺言で妻にインデックスファンドを勧めている。彼ほどの投資の天才がアクティブ運用ではなくインデックスを選ぶのは、市場平均を上回ることがどれだけ難しいかを理解しているからだ。

これらのETFの生みの親はジョン・ボーグルだが、ボーグル自身も個人投資家には市場全体を買うことを強く推奨していた。彼らは、勝つことよりも負けないことの重要性を見抜いている。

インデックス投資は派手さはない。しかし、長期になればなるほど、ほとんどのアクティブファンドに勝つ。市場平均に勝てないなら、市場そのものを買うのが最善の選択肢だという話だ。

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勝ちにいかず「負けない投資」を選ぶという選択肢

投資で大勝ちを目指すのは魅力的だ。10倍株だとか、100倍株だとか、そういうのを投資家は本当に憧れる。しかし、90%以上の投資家が幸運にはありつけないし、ほとんどが市場平均に勝てない。

そういう現実を前にすると、「勝つ」よりも「負けない」ことを重視する戦略が賢明だとわかる。長期的な資産形成では、負けない投資が結果的に強いのだ。損失を最小限に抑えることが資産の成長につながる。

大勝ちしようとすると大負けすることも多いが、たとえば、100万円が50%減って50万円になると、そこから元の100万円に戻すには100%の上昇が必要だ。つまり、大きく負けると挽回が極端に難しくなる。

買い時も考える必要がない。ドルコスト平均法で、毎月一定額を投資し続ければ、株価が高いときは少なく買い、安いときは多く買うため、平均購入単価が安定する。

毎月1万円をこうしたETFに投資すると、20年で240万円の元本が複利効果で400万円以上に育つ可能性がある。この方法なら、市場の上下に振り回されず、コツコツ資産を積み上げられる。

長期投資も同じだ。短期的な値動きに一喜一憂せず、10年、20年と持ち続けることで、市場の成長をそのまま享受できる。

投資の本質は資産を増やすことであり、ギャンブルではない。インデックス投資で負けない戦略を選べば、時間をかけて確実に資産を築ける。ところが、それを貫徹できる人もあまりいない。

ほとんどの人は、このインデックスファンドを機械的にドルコスト平均法で買って、長期で持つという手法を「退屈」だと思い、芝生の成長を見ているようでイライラし、一攫千金の話に惹かれ、途中でやめてしまう。

そして、やらなくてもいい株式取引をたくさんやって、結局は市場平均を上回れなくなっていく。

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