「テスラは10倍になる!」と強気に述べつつ裏で株数を減らすキャシー・ウッド

「テスラは10倍になる!」と強気に述べつつ裏で株数を減らすキャシー・ウッド

キャシー・ウッドは、テスラ株が5年以内に現在の約10倍にあたる2,600ドルへ到達すると断言している。ただ、そう言いつつ、キャシー・ウッドはアーク・インベストメントの主力商品である「ARKイノベーションETF」で、2024年末時点では16%だったテスラ株を現在は10%台にまで減らしている。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

キャシー・ウッドはこのようなことを言っている

キャシー・ウッドは、テスラ株が5年以内に現在の約10倍にあたる2,600ドルへ到達すると断言している。大胆不敵な予測だ。

この予測は、彼女がCEOを務めるアーク・インベストメント・マネジメントLLCの見解として、メディアでも大きく取り上げられている。2023年の時点では1株2,000ドルとの予想であったが、その後の見立てではロボタクシー市場が株価の爆発的な上昇を牽引するとして、さらに強気の2,600ドルを提示した。

彼女のこの予測の根拠となっているのは、テスラが自動運転タクシー、いわゆる「ロボタクシー」市場で圧倒的なプレゼンスを確立するという仮定にある。

Bloomberg TVのインタビューでは、テスラの将来的な価値のうち90%がこのロボタクシー事業に起因するとまで述べている。つまり、既存の電気自動車の製造や販売以上に、この自動運転事業がテスラの中核になると彼女は見ている。

さらにウッドは、テスラが取り組むヒューマノイドロボットに言及し、それはまだ価格予測には織り込まれていない技術だと述べた。つまり、将来の見通しにはまだ「上振れ余地」があるとする立場だ。

彼女は、テスラが競合である中国のBYD社に売上高で抜かれたことについても、「価格や電力効率といった指標において、テスラは依然として競争力がある」とテスラ優位を語る。

BYDはすでに年間売上高が1,000億ドルを超えており、台数ベースではテスラを凌ぐ勢いを見せているにもかかわらず、ウッドはテスラの優位性を疑わない。

ただ、そう言いつつ、キャシー・ウッドはアーク・インベストメントの主力商品である「ARKイノベーションETF」で、2024年末時点では16%だったテスラ株を現在は10%台にまで減らしているのは気になる行動だ。

そんなに自信があるなら、減らすよりむしろ増やして「ARKイノベーションETF」の50%はテスラにすべきだろう。

テスラ株は年初来で約30%近く下落しているのだが、このままではマズいので、とにかくここで大きなことを言って、何とかテスラの株価を上昇させたいという腹黒い動機もあったのかもしれない。

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そう言っていても、そうならない可能性がある

ロボタクシー、自律運転、ヒューマノイドロボットなど、次世代の先端技術への期待を総動員することで、彼女はテスラの成長ストーリーを構築している。夢のあるシナリオであり、もし現実化すればテスラはたしかに今後数年で世界のテクノロジー産業をけん引する存在となる。

だが、いくつもの技術的・法制度的な障害がテスラの前に立ちはだかっているわけで、キャシー・ウッドの予測が現実になる保証はまったくない。

株価が5年で10倍になるという主張は、あくまで仮定に基づく将来予測でしかない。確約ではない。未来は思った通りに来ない。過去にも多くのファンドマネジャーが、おびただしい予測を外してきた。

まず第一に、自律運転技術そのものの実用化には、技術的な壁がいまだに多い。テスラのオートパイロットは度重なる事故や誤作動の報告があり、完全な自動運転とは程遠い。たとえ技術的に可能になったとしても、各国の規制当局が自動運転を公道で認めるかどうかもわからない。これは技術だけで解決できる話ではない。

第二に、ロボタクシー市場の成立自体が未知数である。ウーバーやリフトなど、既存のライドシェア企業でさえ黒字化に苦戦しており、自動運転によってコストが削減できるという理屈が本当に機能するのかは明らかでない。仮にロボタクシーが現実のものとなっても、それがどの程度の利益をテスラにもたらすのかは予測不可能だ。

最近は、CEOであるイーロン・マスクの言動やパフォーマンスが、投資家心理に悪影響を与えていることも無視できない。

彼の政治的発言や、企業統治に関する一部の懸念が市場に不透明感をもたらしている。中国市場やヨーロッパ市場での販売が大幅に減少しているのだが、その背景には、あきらかにマスクの言動が消費者や行政に悪影響を与えている。

競合他社の動きも脅威だ。BYDを筆頭に、中国のEVメーカーは急速に技術と市場シェアを拡大しており、価格競争でもテスラを圧倒している。それにもかかわらず、テスラが「依然として競争力がある」と言い切るのは、根拠に乏しい。

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そういう不確実性に賭ける必要があるのか?

キャシー・ウッドの主張は、夢に満ちた未来像であるが、それが実現するかどうかは極めて不確実である。テスラ株を2,600ドルと見積もるのは、現状のファンダメンタルズとはかけ離れており、冷静な視点で見れば実現可能性は極めて低い。

そう考えると、キャシー・ウッドの主張を鵜呑みにしてテスラ株を買いに走るのは、けっこうなリスクがあるのかもしれない。そもそも、それを言っているキャシー・ウッド本人が裏では保有株数を減らしているのだから、言動が不一致だ。

もちろん、絶対にキャシー・ウッドの「予測」が外れると言っているわけではない。イーロン・マスクは途方もない行動力と発想と集中力を持った経営者であり、もしかしたらテスラを私たちの予測しない高みに持っていく可能性もゼロではない。

イーロン・マスクを信じて、そういう夢に賭ける投資家はキャシー・ウッドに同調し、「10倍」をつかむかもしれない。壊れた時計でも、一日に二回だけは正しい時間を示すのだから、数ある予測でも12回い1回くらいは当たることもある。当たらないと言われている宝くじでも、当たっている人がいる。

だから、絶対にキャシー・ウッドの予測が外れるのかと言われると、それも「100%外れる」とは言えないのが現実だ。当たれば歴史に残るだろう。だが、そこには安定性も確実性も何もない。場合によっては、真逆の結果になるかもしれないのだ。

そういう不確実性に賭ける必要があるのだろうか?

長期投資家であれば、テスラに大きく賭けるよりも、S&P500連動ETFなどをドルコスト平均法で買っておいて、しっかりと分散を効かせつつ安定性と確実性を確保しておいたほうが合理的であるのではないだろうか。

S&P500に連動するETFを保有するという戦略は、投資の王道であり、極めて合理的な手法である。このインデックスは、アメリカの上場企業の中でも時価総額の高い500社で構成されており、テスラもその一部として組み入れられている。テスラが10倍になるのであれば、それはそれで利益が得られるのだから、悪い話ではない。

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テスラの成否に一喜一憂する必要のない投資手段

キャシー・ウッドは素晴らしい分析力を備えたヘッジファンド・マネージャーであるとは思うが、だからと言って彼女の予測がすべて当たるとはまったく思っていないし、テスラが本当に5年後には10倍になってるとも信じていない。

そうなるかもしれないが、そうならないかもしれない。

だから、ただ単にS&P500連動ETFを購入しておくことで対処しておけばいい。仮にテスラが2,600ドルに到達すれば、指数全体の成長に貢献してETFの価格も上昇する。逆に、仮にテスラが転けても他の企業の成長によってその損失は相殺される。

この仕組みは、個別企業のリスクを最小限に抑える分散投資の典型例である。

S&P500は過去30年以上にわたり、年平均で約10%のリターンを記録している。景気後退や金融危機の局面もあったが、長期的には一貫して右肩上がりの成長を続けている。この指数に連動するETFを保有していれば、極端なボラティリティに巻き込まれることなく、着実な資産形成が可能である。

テスラが失速して他のEVメーカーが彗星のように現れてテスラを凌駕しても、S&P500は定期的に構成銘柄を見直しており、成長が鈍化した企業は除外され、新たに成長力のある企業が加わるので何の心配もない。

この「構造的な最適化」により、S&P500連動ETFは常にアメリカ経済の中核企業群を反映していく。つまり、投資家はETFを保有するだけで、市場全体の動向に適応し続けることができる。

S&P500連動ETFはテスラの成否に一喜一憂する必要のない投資手段である。ETFを通じて、テスラの成長も、低迷も、適切に反映される。その結果、キャシー・ウッドの予測が当たろうが外れようが、彼女が表で吹いて裏で売ろうが、高みの見物で眺めることができるようになる。

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