安値で放置されて高配当でもフォード・モーターを買うのは躊躇してしまう理由

安値で放置されて高配当でもフォード・モーターを買うのは躊躇してしまう理由

フォード・モーターはバリュー株としての割安感だけでなく、高配当株としての魅力も兼ね備えている。2025年3月時点での配当利回りは6%超であり、S&P500平均の約1.5%〜2.0%を大幅に上回っている状態だ。ところが、安値で放置されて高配当でも同社を買うのは躊躇してしまう理由がある。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

バリュー株としてのフォード・モーター【F】

フォード・モーター【F】は、長年にわたり米国自動車業界のリーダー的存在であり、この企業の名前を知らない人はいないだろう。興味深いことに、現在のフォードはバリュー株としての側面を強く持っている。

2025年3月時点の株価収益率(P/E)は6.65倍、株価純資産倍率(P/B)は0.86倍と、市場平均と比較して非常に割安である。はっきり言って「見捨てられている」ような価格であると言ってもいい。

S&P500の平均P/Eは20〜25倍、P/Bは3〜4倍程度が標準的な水準であることを考慮すると、Fordのバリュエーションは明らかに低い。完全にテスラの陰に回って見向きもされなくなっている。

株価売上高倍率(P/S)も0.21倍と極めて低水準であり、同業他社と比較しても売上に対する株価は大幅に割安である。

一般的にP/Sが1.0倍を下回ると、市場は企業の将来成長性に対して消極的な見方をしていることを示す。Fordは依然として世界有数の自動車メーカーであり、特に北米市場では安定した売上を維持しているにもかかわらず、そうなのだ。

フリーキャッシュフロー(FCF)に対する株価倍率(P/FCF)も5.72倍と、キャッシュフロー面でも割安感が際立っている。

キャッシュフローが安定している企業は、景気変動に対する耐性が強く、バリュー株としての魅力をさらに高める。加えて、キャッシュフロー倍率が低いことは、投資資金の回収が短期間で可能であることを示唆している。

ただし、市場は同社のEV戦略の遅れを懸念しており、株価が長期間割安に放置されている原因の大きな要因となっている。その結果、フォードは完全なるバリュー株として私たちの前にある。

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フォードは配当も高い。現在、配当率は6%超

フォード・モーターはバリュー株としての割安感だけでなく、高配当株としての魅力も兼ね備えている。

2025年3月時点での配当利回りは6%超であり、S&P500平均の約1.5%〜2.0%を大幅に上回っている状態だ。これは同社が安定的なキャッシュフローを背景に、株主還元を重視している姿勢を示している。

配当性向(Payout Ratio)は53.35%であり理想的か水準だ。一般的に、配当性向が50%〜60%程度であれば、配当の維持や増配が期待できる水準だ。フォードは過去にも一貫して安定した配当を維持しており、株主への利益還元意識が高い。

高配当株の魅力は、株価の変動リスクを軽減する点にある。特にバリュー株でありながら高配当を維持している場合、株価の下落時にも配当収入によって一定のリターンが確保される。これは長期投資家にとって重要な要素である。

ただし、問題がある。フォードは今年のEPSが前年比27.88%減少すると見込まれていることから、今後の配当継続に対する不安材料がある。また、フォードの配当政策には業績連動型の要素が含まれており、EPSの大幅な減少時には減配のリスクも伴う。

過去にはリーマン・ショック時に配当を停止した経緯があり、業績悪化時の配当維持はかならずしも保証されているわけではない。特に自動車業界は景気の変動に左右されやすく、需要減退時には配当維持が困難になる場合もある。

さらに、フォードの配当は通常四半期ごとに見直されており、業績悪化が続いた場合には配当の引き下げが検討される可能性もある。現在の配当利回りは非常に魅力的であるが、将来的な安定性を過信するのは危険である。

まして、これからトランプ政権の「自動車関税」もくる。フォードは米国内生産の比率が高いということで勝ち組に入ると考えられているのだが、果たして本当にそうなのかは蓋を開けてみないとわからない。

というのも、自動車産業のサプライチェーンは極めてグローバル化しており、フォードでさえも多くの部品をメキシコやカナダなどの海外工場から調達しているのだ。部品の値段が上がれば、当然ながら製造コストも上がる。

このコストを消費者に転嫁したら車が売れなくなる。かと言って内部で吸収したら利益が減る。

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負債比率が高すぎて配当も確約できないのだ

フォードの最大の懸念材料は、負債比率の高さである。2025年3月時点での総負債比率(Debt/Equity)は3.59倍、長期負債比率(LT Debt/Equity)は2.35倍と非常に高水準である。

一般的に自動車業界の適正な負債比率は1.5〜2.0倍程度とされているが、Fordの負債水準はこの基準を大きく超えている。

この高い負債比率は、金利上昇局面において財務負担を増大させる。特に現在の米国経済環境ではFRB(米連邦準備制度)が利上げを続けているため、借入コストの増加が企業利益を圧迫する要因となっている。

フォードは過去数年間で積極的な設備投資とEV開発資金を借入でまかってきたが、これが負債比率の増加につながっている。

言うまでもないが、負債比率が高い企業は、業績悪化時に配当削減や停止のリスクが高まる。フォードの場合、負債比率が高いのに配当性向も53.35%と高めのため、EPSの減少が続いた場合には配当原資が圧迫され、減配の可能性が出てくる。

フォードは過去にもフォードは財務状況の悪化により、2006年には一時的に配当を停止した実績がある。負債比率が高い企業は、業績悪化時の柔軟性が低く、配当の連続性が途切れやすい。

特に自動車業界は景気循環の影響を大きく受けるため、不況時にはキャッシュフローが急激に悪化するリスクがある。

直近の業績ではEPSが前年比27.88%減少する見込みであり、この減益トレンドが続けば、配当維持は困難になる。特にEV戦略への過渡期にある同社にとって、財務の安定性は喫緊の課題である。

負債の返済が進まない限り、配当継続には不透明感が残る。つまり、フォードは不況に強い企業ではなく、投資家も配当をもらいながら不況をしのごうとフォードを保有したら大変なことになってしまうということである。

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 これは典型的なバリュートラップ銘柄だ

バリュー株は一般的に割安であることから、高配当と組み合わせることで魅力が増す。だが、フォードのように負債比率が高いバリュー株には注意が必要だ。負債比率が3.59倍と高水準にある場合、業績悪化時に配当維持が困難になるケースが多い。

そういうこともあって、私自身はあまりフォードには魅力を感じない。負債比率の高い企業は、金利上昇局面では利払い負担が増加し、キャッシュフローの悪化を招く。フォードの場合、営業利益率が2.75%と低いため、金利負担が増えた場合の影響は無視できない。

それだけではない。負債比率が高い企業は、資本コストの上昇により新規投資の余地が限られる。EV市場への移行が求められる中で、財務的な余力が乏しい企業は、競争力を維持するための投資が制約される。

この状況下で配当維持を優先すると、成長戦略が後退し、将来的な収益性がさらに悪化するリスクがある。

たしかにフォードは現在は高配当株で6%超の魅力的な配当利回りを維持しているが、業績悪化時には、一気に総崩れしてしまう可能性を私は懸念している。業績が悪化した際、フォードは自社が生き延びるために、株主還元よりも財務安定化を優先せざるを得ない。

バリュー株投資では、高配当という魅力に目を奪われがちだが、財務健全性の確認を怠ると、大きなリスクに直面することになる。

負債比率の高さは配当維持の最大のリスク要因であり、長期的な視点で投資を検討する際には慎重な判断が求められる。高配当株であっても、財務面の脆弱性がある銘柄には注意が必要である。

フォードの場合、まさに「高配当でバリュー株だから」という理由で飛びつきたくなってしまうのだが、そうすると典型的なバリュートラップに陥る可能性がある。フォードには気をつけたほうがいい。

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