
「ダウの犬(Dogs of the Dow)」投資法というものがある。これは、米国の株式市場でもっとも歴史のあるダウ工業株30種平均(ダウ平均)の中から、高配当利回りの銘柄に投資するシンプルな戦略を取るものなのだが、なかなか味わい深いので取り上げたい。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
「ダウの犬(Dogs of the Dow)」投資法とは?
「ダウの犬(Dogs of the Dow)」投資法というものがある。「ダウの負け犬投資」とも言う人がいる。
これは、米国の株式市場でもっとも歴史のあるダウ工業株30種平均(ダウ平均)の中から、高配当利回りの銘柄に投資するシンプルな戦略を取るものなのだが、なかなか味わい深いので取り上げたい。
ダウ平均とは、米国の代表的な企業30社で構成され、全世界の投資家が注目する指数のひとつである。
ダウの犬投資法は、毎年年末時点でダウ平均構成銘柄の中から「配当利回りがもっとも高い10銘柄」を選び、それを1年間保有することで安定した配当と株価の上昇を狙う戦略だ。
この戦略が注目される理由は、そのシンプルさと手間のかからなさにある。
年に一度、高配当利回り銘柄を選ぶだけで運用が完結するため、個別銘柄の詳細な分析や頻繁な売買を必要としない。さらに、高配当銘柄は一般的に成熟した企業が多く、景気変動の影響を受けにくい。安心して買えるのだ。
ダウの犬投資法の基本的な理論は、「高配当利回り銘柄は市場から過小評価されている可能性が高く、翌年に株価が回復しやすい」という考え方に基づいている。
高配当の背景には株価が下落しているケースも多い。「ダウの負け犬」と呼ばれる由縁はここにある。もし、株価の下落が市場の過剰反応である場合、翌年には株価が上昇する可能性もある。
この株価上昇と配当のダブルリターンを狙うのが、ダウの犬投資法の根幹である。
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ダウの犬投資法にはメリットとデメリットがある
ダウの犬投資法には、明確なメリットとデメリットが存在する。ダウの犬投資法の最大の利点は、何と言っても安定した配当収入が期待できる点だ。選ばれる10銘柄は、高配当利回りを提供しているため、株価が停滞しても一定の収入が得られる。
基本的に1年ごとに銘柄を入れ替えるだけであり、非常に運用がシンプルだ。年に1回のリバランスだけで済むため、短期的な株価変動にも振り回されにくい。
配当を重視することで、長期的に安定したリターンを見込むことができる。翌年も同じ銘柄に投資となった場合は、配当再投資により複利効果も期待できる。
何よりも素晴らしいのは、複雑な市場分析や個別銘柄の細かい業績チェックを必要とせず、ただ機械的に銘柄をヒックアップできるので投資に迷いがなくなる点だろう。何を買うべきか、いつ買うべきか、という永遠の命題が消える。
ただし、デメリットとしては、市場上昇局面ではパフォーマンスが劣ることかもしれない。市場全体が急上昇する局面では、安定性重視の高配当銘柄は株価の伸びが限定的になる。特にテクノロジー株などの成長株が主導する上昇相場では、ダウの犬銘柄のリターンが相対的に見劣りする。
特定セクターへの偏りもある。そもそもダウ平均は構成銘柄が30社と限られているため、高配当利回り銘柄に偏りが生じることもある。たとえば、エネルギー、通信、製薬といったセクターに集中する傾向があり、分散が効いていない。
一番問題かもしれないと思うのは、高配当銘柄の中には、業績悪化や構造的な問題を抱えている企業も含まれる可能性があるのだが、ダウの犬投資では、そうした銘柄まで自動的に組み込まれる恐れもゼロではないことだ。
構造的に問題がある銘柄が組み込まれると、株価下落が配当の利益を相殺するケースもあり、安定性が損なわれる場合もあるだろう。それならば、そうした銘柄を外せばいいということになるのだが、そうするとダウの犬理論を厳密に実行したことにはならず、運用に苦慮することになる。
こうしたジレンマはダウの犬投資の欠点でもある。ただ、ダウ工業株30種自体が企業の持続的な成長や投資家の評判や関心を元に選ばれているので、極度に致命的な問題を抱えた企業である可能性は低い。
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正直に言おう。私の好きな銘柄ばかりだ
2025年版の「ダウの犬」は、以下の10銘柄が選ばれている。正直に言おう。私の好きな銘柄ばかりだ。
■ベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)。配当利回り:6.8%。米国最大級の通信企業で、安定したキャッシュフローを持つ。5Gインフラへの投資も進めており、通信業界の成長に寄与している。
■シェブロン(CVX)。配当利回り:4.5%。エネルギー業界の大手で、原油・ガスの採掘から精製までを手掛ける。エネルギー価格の変動に左右されるが、安定した配当政策を維持している。
■アムジェン(AMGN)。配当利回り:3.7%。バイオ医薬品のリーディングカンパニーであり、がん治療薬や免疫疾患治療薬を提供している。研究開発投資も積極的で、成長性が期待される。
■ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)。配当利回り:3.5%。医薬品、医療機器、消費者向け製品で世界的なブランド力を持つ。安定した収益基盤と配当維持の実績が特徴だ。
■メルク(MRK)。配当利回り:3.3%。がん免疫療法薬「キイトルーダ」で知られる製薬大手。新薬開発にも積極的であり、安定した収益を確保している。
■コカ・コーラ(KO)。配当利回り:3.1%。世界的な飲料ブランドであり、グローバル市場で安定した売上を誇る。配当増配を続けており、長期投資家に人気の銘柄だ。
■IBM(IBM)。配当利回り:3.0%。クラウドやAI分野への転換を進めるテクノロジー企業。変革期にあるが、高配当政策を維持している。
■シスコシステムズ(CSCO)。配当利回り:2.7%。ネットワーク機器の大手で、クラウドコンピューティングやセキュリティ分野でもシェアを拡大中。
■マクドナルド(MCD)。配当利回り:2.4%。世界最大のファストフードチェーンで、フランチャイズモデルの収益性が高い。安定した配当成長が続いている。
■プロクター・アンド・ギャンブル(PG)。配当利回り:2.3%。消費財のグローバル企業で、日用品や衛生用品の安定した需要が配当の継続性を支えている。
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S&P500指数と比べてどうなのか?
ダウの犬投資法の基本ルールは、毎年12月31日時点でダウ平均構成銘柄の中から配当利回りの高い10銘柄を選定し、翌年1年間保有することだ。年末に再度銘柄を見直し、リバランスをおこなうことで、ポートフォリオの最適化を図る。
それで、勝てるのか。S&P500指数と比べてどうなのかということなのだが、以下の通りとなっている。
2015年、勝ち。
2016年、勝ち。
2017年、負け。
2018年、勝ち。
2019年、負け。
2020年、負け。
2021年、負け。
2022年、勝ち。
2023年、負け。
2024年、負け。

この10年で見ると4勝6敗で、悪くはないがS&P500のほうが優位であるというのがわかる。この10年はハイテクや人工知能が隆盛なこともあって、こうした成長株が少ないダウの犬はS&P500に劣後しやすい状況にあったといえるかもしれない。
とは言え、ハイテク分野は今後も強いかもしれないわけで、今後も劣後する可能性もなくはない。
これを見ると、たしかに「ダウの犬投資法」は面白いのだが、それよりも、もっとシンプルな方法である「S&P500連想ETFを買って保有し続ける」のほうに軍配が上がるのかもしれない。
私ならダウの犬投資法よりも、S&P500連想ETFのバイ&ホールドを選ぶ。ただ、高配当を得つつ、S&P500指数にも張り合えるひとつの方法としては覚えておいても損はない味わい深い投資法なのかもしれない。私は採用はしないが、嫌いではない。
