
レバナス(レバレッジ型NASDAQ100)や【SOXL】などのブル型ETF(レバレッジ型上場投資信託)は、元本の2倍や3倍のリターンを目指す高リスク・高リターンの商品である。これらの商品は、指数の1日の変動率を数倍に増幅させることで短期的に大きな利益を得られる仕組みになっている。しかし……(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
調子に大言壮語していた人間も大損失
一時期盛りあがっていたレバナスだが、いまや誰もレバナスの話をする人がいなくなってしまった。市場が熱狂に包まれていた頃、SNSにはレバナスの含み益を誇示する投稿があふれ、「億り人」の夢を語る声が後を絶たなかった。
だが、相場は下落していき、レバナスの熱狂も急激に冷め、損失に耐えかねた投資家たちは、何も語らぬまま姿を消していった。レバナスの話題は遠い過去のものとなり、今や誰も触れようとしない。
投資の世界では、よく見られる光景だ。調子に大言壮語していた人間も大損失を食らうと何も言わずに黙っていなくなる。
レバナス(レバレッジ型NASDAQ100)や【SOXL】などのブル型ETF(レバレッジ型上場投資信託)は、元本の2倍や3倍のリターンを目指す高リスク・高リターンの商品である。これらの商品は、指数の1日の変動率を数倍に増幅させることで短期的に大きな利益を得られる仕組みになっている。
具体的には、NASDAQ100やS&P500などの主要な株価指数に対してレバレッジをかけ、日々の値動きの何倍もの変動を反映させる。
レバナスの場合、NASDAQ100指数の1日の上昇率が2%であれば、レバナスは約4%上昇する。そうなのだ。それで「運が良ければ」の話だが、誰よりも早く金持ちになれるかもしれないのだ。
SNSやYouTubeなどの投資系インフルエンサーも、「億り人になれる」「資産を爆発的に増やせる」と宣伝していた。投資初心者にとっては、少ない資金で短期間に大きなリターンを得られる夢のような商品に見えただろう。
一方で、同様に指数が2%下落した場合には、レバナスは4%下落する。この増幅効果によって、短期間で資産を大きく増やすチャンスが生まれるが、同時に損失も加速度的に拡大する危険性を伴う。
これらの商品はボラティリティ(価格変動性)が非常に高く、長期で持ち続けると想定外の損失をこうむることになる。今、まさにそれが起きているのだ。
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レバレッジ商品を長期で持つのは自殺行為
レバナスやブル型ETFは「リバランス」という憂うべき特徴もある。毎日、基準価額を元にポートフォリオが調整されるため、指数が上下に振れ続けるだけで徐々に資産が減少する「ボラティリティ・ドラッグ」と呼ばれる現象が発生するのだ。
仮に指数が元の水準に戻ったとしても、レバレッジ型ファンドの価額は大きく下落していることもある。こうした特性を十分に理解せずに手を出すと、大きな損失を招くことになる。
レバレッジ金融商品を長期で持つというのは、要するに自殺行為に近いのだ。
相場はどこかでかならず変転する。レバナスやブル型ETFの最大の落とし穴は、急激な市場変動時に短期間で資産が大幅に減少する点にある。特に2022年の米国株市場の下落時には、レバナス投資家が大損失を被った事例が数多く見られた。
たとえば、NASDAQ100が20%下落したら、レバナスは40%以上の下落となる。手っ取り早く金持ちになりたいという「超短期志向」の投資家が、そんなダメージに精神的に耐えられるわけがない。
2021年後半まではNASDAQ100の強気相場が続き、レバナス投資家のあいだでは「放置していれば資産が増える」との楽観的な見方が広がっていたのを思い出す。
しかし、2022年のFRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ、インフレ高進、地政学リスクの高まりによって株価は下落し、これによってレバナスに賭けていた投資家は大損害をこうむっていた。
レバナスの仕組みを理解していなかった初心者層は、急激な資産減少にパニック状態となり、狼狽売りを余儀なくされた。
このレバナスと同時期に持てはやされていたのが半導体セクターに的を絞って構成されたブル3倍型ETF【SOXL】だったが、これも2024年にふたたび活発化して「全額これに投資して一気に億り人だ」とか言っている人が大勢出てきた。
だが、2024年の後半から激しい勢いで失速し、高値から77%近くも下げた。、多くの投資家が想定以上の損失を抱え、耐えきれずに市場から退場してしまった。
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高リスク商品で短期間に資産が激減するショック
レバナスやブル型ETFで大損を経験した投資家は、だいたい黙って消えていく。それはそうだ。強い心理的なダメージがあったはずなのだ。
投資で大きな損失を出すと、多くの投資家は自己嫌悪に陥り、「自分は投資に向いていない」「もう二度と投資をしない」と考えるようになる。特に、レバナスのような高リスク商品で短期間に資産が激減すると、そのショックは計り知れない。
SNSでは、レバナスやブル型ETFで成功した投資家の華々しい成果が頻繁に取り上げられる一方で、大損した投資家は目立たない。
損失を出した投資家は、恥ずかしさや後悔から自らの失敗を公表しないことが多い。匿名のSNSではアカウントを消したら「なかったこと」にできる。実際、2021年にはレバナスブームの最盛期でSNSに投稿していたアカウントの多くが、2022年の暴落後に姿を消した。
人間は利益を得るよろこびよりも、損失の痛みを強く感じる傾向がある。
特に、大きな損失を出した場合、そのダメージから立ち直るのは困難だ。また、損失を認めたくないため、SNS上でも自らの失敗を隠し、表舞台から姿を消すことで精神的な安定を図ろうとする。
SNS上では「レバナスは長期で持てば勝てる」「暴落時に買い増せば問題ない」といった楽観的な声が多く、実際の大損リスクについての警告はあまり共有されない。そのため、多くの初心者がリスクを軽視し、実際に大損した際には誰にも相談できず、市場からひっそりと退場していく。
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レバレッジで75〜80%が1年以内に資産の大部分を失う
レバナスやブル型ETFなどのレバレッジ金融商品は、「運が良ければ」資産形成の強力なツールとなりえる。だが、こうした金融商品に飛びつく投資家たちは欲の皮が突っ張ってまわりが見えていないことが多いので、だいたいはリスク管理を誤って致命的な損失を食らう。
もちろん、レバナスやブル型ETFで全員が損するわけではない。中にはうまく立ちまわって大きな利益を手に入れた人もいる。SNSや投資メディアでは、そういう人間たちの自慢とマウントのオンパレードである。
しかし、誰かがうまくやったからと言って、自分がうまくやれるわけでもない。
レバレッジ金融商品は少額資金で大きな利益を得ることも可能だが、逆に損失も同様に拡大するため、短期的な成功者はいても長期的に利益を出し続けるのは極めて困難なのだ。それこそ、プロでもレバレッジで破綻していく。
「Leverage and Risk in Hedge Funds」(米国財務研究局)の分析によれば、ヘッジファンドのレバレッジ使用はリターンを一時的に向上させるものの、市場の急激な変動時には損失が急拡大し、破綻のリスクを飛躍的に高めることが確認されている。
実際、2008年のリーマン・ショック時には過度なレバレッジを使用したヘッジファンドの約45%が大規模な損失を被り、多くが市場から退場した。
「Investor Attention and the Use of Leverage」(Wiley Online Library)の研究では、個人投資家がレバレッジ商品を使用した場合、75〜80%が1年以内に資産の大部分を失うことが明らかにされている。
レバレッジ金融商品は投資家に短期的な利益の幻想を与える一方で、長期的には損失と破綻のリスクを著しく増大させて資金を吹っ飛ばす。そうやって大損失を食らった人は、何も語らずに人知れず消えていくので私たちからは見えないのだが、その数は膨大であることはわかっている。
