
JEPQの配当利回りは12%超えだ。この配当の高さに目を奪われるのは当然だが、投資においては「何のために買うのか」を見失ってはならない。それぞれのETFは、それぞれに合った明確な設計思想を持っていて、同じ「高配当ETF」という分類の中にあっても、実際にはまったく別の役割を担っている。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
JEPQとSCHDは高配当ETFだが種類がまったく違う
JEPQ(JPモルガン・ナスダック米国株式プレミアム・インカムETF)と、SCHD(シュワブ・米国配当株式ETF)は、どちらもアメリカ市場に上場している人気のETFであり、配当収入を目的とする投資家から支持を集めている。
だが、その中身はまったく異なる性質を持っている。両者の比較において最初に理解すべきは、それぞれが想定する投資目的の違いである。
JEPQは、ナスダック100に含まれる株式を保有しつつ、同時にカバードコール戦略を用いてオプションプレミアムを得ることを狙っている。
高ボラティリティの市場においてオプションの売却益が大きくなるため、JEPQは安定して高利回りを実現しやすい仕組みになっている。その結果、年間12%〜13%という、極めて高い分配金利回りを出している。しかも分配は毎月であり、年金代替や不労所得を目的とする投資家にとっては理想的なETFといえる。
一方、SCHDは米国の高配当・安定成長企業に広く分散投資するETFである。(ダークネス:楽天SCHDは、FIREを目指す若年層や安定した収入源を求める年配層の強力な武器だ)
こちらは企業の財務健全性や配当持続性、過去の増配実績などを厳格に審査したうえで構成銘柄を選定している。そのため利回りは3.5〜4.5%と中程度ではあるが、毎年の増配を通じて将来的な配当総額を積み上げていく性質を持つ。
利回り自体は低く見えるが、10年、20年と長期で保有することで配当収入が大きく増加する設計である。
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JEPQは利回りが高くても「元本の成長」は乏しい
JEPQは「今この瞬間に配当を得たい人」、SCHDは「将来のために資産と配当を育てたい人」のためのETFである。たとえるなら、JEPQは果物の木に実った果実を今すぐもぎ取って食べるイメージであり、SCHDは果物の木を大きく育ててから毎年たくさんの果実を収穫する設計だ。
JEPQの配当利回りの高さに目を奪われるのは当然だが、投資においては「何のために買うのか」を見失ってはならない。それぞれのETFは、それぞれに合った明確な設計思想を持っていて、同じ「高配当ETF」という分類の中にあっても、実際にはまったく別の役割を担っている。
高配当を実現するためにJEPQが採用しているカバードコール戦略には、明確な代償がある。それは「株価の上昇益を放棄する」という構造的な制約である。
カバードコール戦略では、保有している株式に対してコールオプションを売却し、買い手に一定価格で株を買い取る権利を与える。
市場が大きく上昇した場合、そのオプションが行使されてしまえば、それ以上の株価上昇益は手に入らない。つまり、元本の成長はオプションによって意図的に抑えられる仕組みになっている。
この戦略は、横ばいまたは下落相場では強みを発揮する。たとえば2022年や2023年のような金利上昇局面では、テクノロジー株を中心とするナスダック指数の変動が大きかったが、JEPQはプレミアム収入を得ることで安定的な配当を維持した。
だが、ナスダック指数が大きく上昇するような相場では、JEPQはその恩恵を充分に享受できない。
一方、SCHDは元本の成長に制限がない。構成銘柄にはCoca-Cola、PepsiCo、Texas Instruments、Home Depotといった成熟したが堅調な企業が多く含まれており、株価も長期的には右肩上がりで成長してきた。
配当は着実に増配され、その結果として保有コストベースに対する「実効利回り」も年を追うごとに高まっていく。たとえば、過去10年間の増配率は年平均11%程度に達して、再投資すれば複利効果は極めて大きい。
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JEPQは配当が伸び続ける保証はない
12%の配当と3.5%の配当を見たら、誰でも12%の配当のほうがいいと思う。しかし、そこにデメリットも潜んでいるのはよく覚えておく必要がありそうだ。
JEPQは「株価の上下に関係なく配当を得ること」を目的として設計されている。そのため、元本の成長力を犠牲にしている。NASDAQが大きく成長したときはその成長を取れないのだ。
これに対してSCHDは「時間を味方につけて資産と配当を拡大していく設計」であり、同じ投資金額であっても数十年後のリターンには大きな差が生まれることになる。
さらに安定性の観点から見ると、JEPQの配当はボラティリティとオプション市場の状況に依存するため、けっして一定ではない。たとえば、市場の変動が著しく低下した場合、プレミアム収入は大きく減少し、分配金も減額される可能性がある。
JEPQは毎月しっかりと配当を出してくれるが、その原資は株価の値上がり益を犠牲にして得た「オプションのプレミアム収入」であるため、将来に向けて配当が伸び続ける保証はない。
つまりJEPQは、「今すぐ配当がほしい人」には向いているが、長く保有したときに安定して増え続けるタイプの配当ではない。市場が落ち着いたり、ボラティリティが低下したりすると、その収入源も減ってしまう。
「JEPQは即効性はあるが持続性はない」と言ってもいいのかもしれない。
その一方で、SCHDの配当は各企業の純利益と配当方針に基づいており、急激な変動は少ない。構成企業の多くは数十年にわたって一度も減配していない米国屈指のディフェンシブ企業であり、経済危機でも安定した配当を続けてきた。
つまりJEPQは、配当の「即効性」はあるが「持続性」は相対的に劣る。SCHDはその逆で、配当はゆっくりとだが「持続的に増えていく」。投資家がどのような時間軸で収益を求めるかによって、この差は決定的な意味を持つ。
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両者は「役割が違う」ので使い分けるのが合理的
JEPQとSCHDのどちらを選ぶべきかという二項対立は、そもそも成立しない。なぜなら、両者はまったく異なる目的と戦略で設計されているからだ。それぞれにしか果たせない役割がある。
たとえば、60歳を過ぎてすでにリタイア生活に入っている投資家が、毎月の生活費をまかなうために安定した配当を求める場合、JEPQは極めて合理的な選択肢になる。月々の高配当によってキャッシュフローが確保され、年金や生活費の補完として機能する。
一方で、30代や40代でこれから資産を築きたい層が、JEPQのような高配当ETFに全資産を投入するのは非効率である。
なぜなら、利回りが高くても再投資の効率が悪く、長期的に資産を拡大させる力が乏しいからだ。こうした層にとっては、SCHDのように増配と株価成長の両方を享受できるETFを長期で積み立てたほうが、はるかにリターンが大きくなる。
実際には、両者を組み合わせてポートフォリオを構成するのがもっとも現実的かもしれない。
たとえば、総資産の70%をSCHDのような成長性のあるETFに投じ、残り30%をJEPQのような高配当ETFに充ててキャッシュフローを得るといった戦略だ。このような使い分けによって、資産の成長と配当のバランスを同時に実現することができる。
つまり、JEPQとSCHDは比較されるべきものではなく、補完的な関係にある。どちらを選ぶべきかではなく、「どのように組み合わせるか」が面白いのだ。
もし、あなたが配当投資家なら、ライフステージ、資産規模、投資目標によってその比率は変わるが、両者を理解したうえで使い分ければ、どのような投資家にとってもリスクとリターンを最適化する強力な武器になるはずだ。
