トランプ政権のアメリカは信用を失った。そんな国の通貨が欲しい投資家は減る

トランプ政権のアメリカは信用を失った。そんな国の通貨が欲しい投資家は減る
トランプ大統領

現在のトランプ政権の一貫性のなさ、不意打ちのような関税発表、同盟国に対する冷淡な対応、馬鹿げた言動が国際的な不信感を加速させている。その結果、金利が上がってもドルは買われなくなった。簡単に言おう。アメリカは信用を失った。そんな国の通貨が欲しい投資家は減る。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

通常の為替理論と逆行する動きが起きている

為替の動きで気になることがある。今、アメリカの長期金利が上昇する中で、US Dollar Index(米ドル指数)は下がり続けていることだ。これは通常の為替理論と逆行する動きでもある。

通常、長期金利が上昇すれば、ドルは買われやすくなるはずだ。投資家は金利の高い通貨を選好するため、「金利上昇=ドル高」という図式は長く為替市場の基本だった。だが、今回その構図が崩れた。何が起きているのか?

背景にはアメリカからの資金流出がある。

表面的には中国による米国債売却が取り沙汰されたが、実際にはヨーロッパの年金基金や中東のソブリン・ファンドが、ドル建て資産からユーロやスイス・フランへシフトしていることが上げられている。

ドル・スイス相場は2011年以来の水準にまでドル安が進行し、ドルの信認が損なわれていることを示している。

「強いドル政策」を掲げてきたアメリカ財務省の立場もすでに空洞化している。1995年のルービン財務長官以降、歴代政権は「強く安定したドル」を世界に対して保証する姿勢を取ってきた。

だが、それは対外資金の流入を促すための発言に過ぎず、実態としては財政赤字と経常赤字の「双子の赤字」を抱えるアメリカの脆弱性を隠すものだった。金利上昇下でもドルが売られるという異例の現象は、もうアメリカが世界の資金の「避難先」ではなくなりつつあることを示しているのだ。

なぜ、こんなことになったのかは明白だ。トランプ政権による通商政策と外交の不透明さである。

政策の一貫性のなさ、不意打ちのような関税発表、同盟国に対する冷淡な対応、馬鹿げた言動が国際的な不信感を加速させている。その結果として、金利が上がってもドルは買われなくなった。

簡単に言おう。アメリカは信用を失った。そんな国の通貨が欲しい投資家は減っていく。

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ドルが基軸通貨としての地位を失いつつある?

今、世界中の投資家は「ドルから逃げたい」という心理になっている。このような心理の中でアメリカからの資金流出が続けば、ドルは長期金利に関係なく下落する。もう「金利」の問題ではないからだ。「心理」の問題なのだ。

実際、ドル円相場を見ても、現在は130円台が現実味を帯びてきている。市場の法則が通用しない相場環境の中で、「もしかしたらドルは、基軸通貨としての地位を失いつつあるのではないか?」と述べる市場関係者も増えてきた。

それは極端な見方ではあるが、トランプ大統領がアメリカを完全破壊する可能性がゼロではないところに恐ろしさがある。

トランプ大統領が発表した相互関税は、為替市場と世界経済に混乱をもたらしている。また、それぞれの同盟国とも公然と敵対的姿勢を見せている。その混乱の中で世界がアメリカを見捨てたら、もうアメリカと協調する国なんかない。ドル基軸通貨なんか維持できないだろう。

元財務省上級顧問スティーブン・ミランが2023年に発表した論文では、アメリカが世界との貿易のバランスを整えるためには、「まずインフレを抑え、次に関税をかけ、それからドルの価値を段階的に引き下げ、他国との貿易を有利にする」という順番で政策を進めるべきだと説明していた。

実際には、この順番が守られなかった。

トランプ大統領はまだインフレを抑えていない中で、いきなり高い関税を発表した。その結果、当たり前だがインフレ懸念が強まった。それを見て世界の投資家は「米国債」を売り、金利が上がった。

そこにトランプ大統領が誰構わず敵対するので、国債も買われなくなり、ドルからも逃避が起きてしまったのだった。すべては、「インフレ圧力が落ち着いてから関税をかけるべき」というタイミングを無視したことからはじまった。

トランプ大統領はあまりにも稚拙だったといえる。

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日本の「円安体質」は変えられるか?

「ドルからの逃避」は、ドル円相場からも見ることができる。実際、為替相場は円高ドル安に動いている。トランプ大統領が自滅的な動きを加速すればするほど「ドルからの逃避」が起こるので、ドル円相場もそのようになっている。

だが、勘違いしてはいけないこともある。

このまま円高ドル安がずっと続くかといえば、そうではないことだ。ドルが売られているからと言って、円の本質的な価値が上がるわけではない。つまり、「日本が強くなったから円の価値が上がった」のではないのだ。

日本は30年以上も無能な政治家が無能な政治を続け、少子高齢化が進み、イノベーションも失われ、もはや経済成長の原動力を持たない国になってしまった。若者は将来に希望を持てず、結婚も出産もあきらめ、労働市場には高齢者と非正規雇用者ばかりが残された。

教育は劣化し、国際競争力を持つ研究者や技術者は海外へと流出し、国内には新しい産業の芽すら見られなくなった。行政は旧態依然のままデジタル化にも適応できず、政治は利権にしがみつき、世襲と派閥だけが意味を持つ空間になり果てた。

社会保障制度は限界に近づき、働く世代が高齢者を支えきれず、年金制度はすでに「崩壊していないだけの制度」となった。企業は守りに入り、リスクを取らない、取れない国になった。

その結果、実質金利が長期にわたってマイナスに定着している。人手不足になったのでインフレ率が高止まりしている。インフレなら利上げしたらいいのだが、30年近くも続いたゼロ金利政策の影響で、日本経済は高金利に耐えられない体質となっている。このジレンマに日銀も政府も状況に対応できない。

円の本質的な価値は、こうした衰退していく日本を反映するなら、下がるしかない。つまり、長期的には「円安=円弱」になっていくのが円のリアルな姿である。

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ボラティリティ(価格変動)は極端になる

トランプ大統領は「関税によってアメリカを偉大な国にする」とか言っているのだが、同盟国も敵対国も関係なく敵対するのであれば、世界はいずれアメリカへの投資も、市場も、通貨も、国債も、徐々に見捨てていくのはわかりきった話である。

いろんな面で、アメリカ離れが起こる。

誰もアメリカの通貨なんか欲しがらなくなる。突発的な関税政策や外交姿勢が続けば、ドルからの資金流出はとまらなくなってしまうだろう。ドル円は2025年4月時点で142円前後を推移しているが、この水準が維持される保証はない。

では、今後はとめどないドル安が続くのかと言えば、それもわからない。株式も、国債も、ドルも捨てられつつあるとトランプ政権が気づけば、どこかで大きな政策転換が起こる可能性もゼロではないからだ。

トランプ大統領が見境なく、突発的に、政策を変更するのは、今にはじまったことではない。仮にトランプ大統領が大規模な政策転換を行えば、ドルは反発する可能性がある。もちろん、意固地になって関税拡大・外交孤立を続けるのであれば、ドル円は130円を割り込む展開も視野に入る。

為替市場は「安全資産の逃避先」を求めて常に動いている。かつてのドル、かつての円はその逃避先だった。しかし今、その両方が信認を失いかけている。代替となる通貨としてユーロやスイスフランへの資金シフトが見られるが、それらも万能ではない。

為替市場が不安定になれば、ボラティリティ(価格変動)は極端になる。ドルも円も「安定の象徴」ではなくなりつつあり、為替相場の未来は混沌とした局面を迎えている。

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