AI時代の主役はTSMCだ。世界を動かす台湾セミコンダクターに対して強気の理由

AI時代の主役はTSMCだ。世界を動かす台湾セミコンダクターに対して強気の理由

「もうAIブームは終わった」とか「半導体セクターは投資に値しない」とか言い出している投資家もいるのだが、冗談もほどほどにしてくれと思う。トランプ政権の恫喝関税外交で半導体セクターも荒れているが、長期的にはこの分野は上を見ている。この分野で最高峰の企業は「TSMC」である。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

TSMCは唯一無二の立ち位置にある企業

「もうAIブームは終わった」とか「半導体セクターは投資に値しない」とか言い出している投資家もいるのだが、冗談もほどほどにしてくれと思う。AIを使っているとわかるが、この分野はまだ成長途上であり、投資も影響力を今とは比較にならないほど巨大になる。

この技術は文明そのものを変えてしまうパラダイムシフトであり、今後10年、20年とイノベーションが続いていく。私自身はそれを確信している。トランプ政権の恫喝関税外交で半導体セクターも荒れているが、長期的にはこの分野は上を見ている。

この半導体セクターで言えば、主役は「TSMC(台湾セミコンダクター)」ではないかと私は考えている。何しろTSMCは世界最大の専業半導体ファウンドリであり、ファウンドリ市場全体の約58%を占める支配的な存在なのだ。

現代の半導体産業は「設計」企業と「製造」企業に分業されている。TSMCは「製造」を担う唯一無二の企業として位置づけられている。顧客設計のチップ(半導体)を受託し量産することに特化し、この部分では世界最強だ。

Apple、NVIDIA、AMDといった世界を代表するテクノロジー企業の多くが、自社で製造設備を持たずTSMCに全面的に依存しているのはよく知られている事実だ。

TSMCは、スマートフォン向けAシリーズ、データセンター向けAIアクセラレータ、ゲーミング向けGPUなど、用途を問わず最先端チップの生産を一手に引き受ける体制を構築している。顧客の研究開発ロードマップに深くかかわることで、TSMCは長期契約と高い稼働率を確保しているのだ。

トランプ大統領は「台湾が我々のビジネスを盗んだ」と苛立ちを隠さないが、現代のハイテク文明はTSMCがなければ一歩も進まない。そういう意味で、TSMCは唯一無二と言っても過言ではない。

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技術的優位は中長期的な収益基盤を強固にする

半導体プロセス技術の進化は、ムーアの法則の限界に挑む挑戦の連続だ。TSMCはすでに2nmプロセスのリスク生産を完了し、2026年までに1.6nmプロセスの量産開始を見込んでいる。

直径が1.6ナノメートルという微細構造を創り出すことで、トランジスタ密度を大幅に高め、消費電力を抑えながら演算性能を飛躍的に向上させることが可能になる。

競合のIntelやSamsungは、かつてのリーダーシップを失い、プロセスノードの世代交代で遅れを取りつつある。

Intelはかつて10nm世代で設計と製造の両面で障壁に直面し、量産が大幅に遅延した経緯がある。Samsungも3nm以降、歩留まり改善に苦戦しており、TSMCのような安定稼働には至っていない。

半導体は一度量産ラインを立ち上げると、歩留まり率が製品単価と収益性を決定づけるため、技術的優位性がそのまま長期的な収益性に直結する。現在は、TSMCが圧倒的なまでに優位に立っている。

AIや自動運転、5Gスマホなど最新アプリケーションは、より高度な演算能力と省電力性能を両立するチップを求めている。TSMCは、その最先端チップを正確かつ大量に製造できる。

AIアクセラレータ向けには、大規模行列演算を担うトランジスタを高密度に配置できる1.6nm~1nmプロセスが必須だ。自動車産業も今後の半導体需要で大規模な伸びを見せるため、TSMCは車載向けチップにも最先端技術を提供していく。

こうした技術的優位は短期的な製品サイクルを超え、中長期的な収益基盤を強固にする。半導体製造装置や素材サプライヤーとの密接な協力体制も構築済みであり、サプライチェーン全体を最適化している。

これほど、すさまじく重要な企業なのに、現在、TSMCの株価は下落し続けている。

なぜなら、トランプ政権になって地政学的なリスクが浮上しているからである。これについてはこちらでも取り上げた。(ダークネス:トランプ発言「台湾は我々の半導体事業をすべて奪った」で動揺する半導体セクター

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グローバルに影響力を持つ戦略的要衝としての地位

TSMCは地政学的リスクに巻き込まれ、株価は下落し続けている。しかし、TSMCの財務指標は極めて堅調である。2018年から2023年までの5年間で売上高は年率平均約15%成長し、2023年年次報告では売上高が約1兆6000億台湾ドルを突破した。

純利益も同期間で年率平均約20%増を達成しており、フリーキャッシュフローは2023年に約1200億台湾ドルと過去最高水準に達している。

投下資本利益率(ROIC)は20%を超えて推移している。同業他社と比較しても極めて高い効率性と言える。

高いROICは、研究開発投資や設備投資を継続的におこなっても資本効率を維持できることを意味し、株主価値の増大に直結する指標だ。バランスシートにも余裕があり、自己資本比率は約60%と健全水準を確保している。

市場規模の拡大が追い風となるAIチップ市場は、現在約283億7000万ドルだが、2032年までに約2250億ドルへと約8倍成長すると予測されている。

TSMCはAIチップの主要顧客であるNVIDIA、Google、Amazonなどと長期契約を結び、容量ベースでの受注拡大を確実に進めている。この結果、半導体受託生産の売上比率は現在約70%を占め、今後も成長率は市場平均を上回ることが確定している。

こうした数値は、TSMCが「圧倒的なビジネスモデル」を有している証拠である。

今後もTSMCの優位性は続く。サプライチェーンの安定化を重視する主要国は、TSMCとの連携を深めている。欧州連合(EU)や日本政府も自国内での半導体生産を支援する中、TSMCの技術提供や合弁事業が相次いでいる。

TSMCは、単なる製造企業ではない。グローバルに影響力を持つ戦略的要衝としての地位を築いている。この「唯一無二の立ち位置」を理解できたら、トランプ政権下で下落していくこのTSMCは、むしろ狙い目であることが理解できるはずだ。

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今後10年で株価は2倍以上になってもおかしくない

現在のTSMCの株価収益率(PER)は18.79倍であり、成長著しいハイテク企業としては割安だ。

グローバルな利回り指標でも、TSMCは配当利回り約2%を維持しつつ、毎年の増配実績が続いている。株価がもっと下落していったら、ハイテク分野の最重要企業であるのに配当でも収益を得ることができるのだから面白い。

TSMCの成長率と利益安定性の両立は極めて稀有である。今後5年間の利益成長率は年率15%台前半が見込まれ、フリーキャッシュフローの増加も加わるため、株主還元策の拡充余地は大きい。

自社株買いや特別配当を通じた資本還元も視野に入っていることから、中長期投資のリターンは十分に高いと断定できる。

株価が現在のPER水準を維持しつつ、業績が予測どおりに成長すれば、今後10年で株価は2倍以上になってもおかしくない。市場全体が平均年率6~7%程度の成長に留まる一方で、TSMCは2桁成長を達成し、市場を大きく上回るパフォーマンスを示しているからだ。つまり、それだけの成長余地がTSMCにある。

現在の半導体セクターの暴落は、原因がトランプ政権にあることはわかっている。TSMCの株価が暴落しても、それはTSMC自身の問題ではない。それであれば、TSMC株をポートフォリオに組み入れたいと考える投資家がいても不思議ではない。

PER19倍割れという評価は過去の成長実績に対して過小評価されている。そうであれば、いずれはそれを是正する動きが株価上昇を牽引する。もちろん、その「是正」がいつ起こるのかは定かではないのだが、投資の基本は「安いときに買う」ということなのだから、安ければ買ってあとは時期を待てばいい。

株価が下落したら、すぐに「もうAIブームは終わった」とか「投資に値しない」とかしたり顔で言い出す投資家も多いが、長期保有による複利効果を最大化するには、誰もが見捨てて株価が安くなったときを狙う必要がある。

そういった観点で見ると、TSMCは興味深い地点にあると思う。

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