
政治的混乱が深まると、市場参加者は恐怖に駆られて利益確定を優先しがちだ。株価が下落すれば狼狽売りが増え、さらに下落圧力を強める。「とにかく売り飛ばして逃げる」のが彼らの優先事項となる。だが、配当を中心に戦略を組んだ投資家はそういう行動にならない。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
高配当銘柄や高配当ETFを握って「高みの見物」
2024年の末あたりからトランプ政権2.0が混乱を引き起こす可能性があることや、S&P500がかなりの上昇を見せていたことから、私は2025年は現金比率を高めて市場の関与を減らす方向に切り替えた。
これについては、メルマガでも何度も触れた。(メルマガ:米国株式市場がどんどん上昇していく。それなのに、なぜ私は足抜けしたいのか? )
トランプ政権は今後も依然として政治的波乱を撒き散らすはずだ。恫喝関税外交や、強引な大統領令や、同盟国切り捨てや、議会無視や、FRB議長に対する批判など、やることなすことすべて市場を混乱させるものだ。
こうした政治的リスクは株式の下落を呼び、ドルまで広範囲に売り飛ばされ、国債も合わせて売られて「アメリカ売り」の様相を見せるようになってきている。今後の景気への懸念は過去最高まで跳ね上がって、景気後退《リセッション》どころか恐慌まで噂されるほどになっている。
そんな中で、アメリカを見捨てて他の国の株式市場に向かう投資家もいれば、ゴールドに投資する投資家もいれば、市場から完全撤退する投資家もいる。すでに去年までの「マグニフィセント・セブン銘柄に投資していればいい」という状況ではなくなっている。
私自身は投資のコアになっているのは全米株式ETFである【VTI】なのだが、【VTI】はマグニフィセント・セブン銘柄の比率が高すぎるのと、トランプ政権による相場の攪乱が今後も続くと思うので、今は積極的ではない。
そこで、ちょうど良い機会なので、私が大混乱が続くであろうトランプ政権時代の4年間は、これまでの路線を軌道変更して、高配当銘柄・高配当ETFを増やしておく戦略を採ることに決めた。
トランプ政権は長期で混乱を引き起こすので、早い話が高配当銘柄や高配当ETFを握って「高みの見物」をする。
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短期的に乱高下しても着実な収入が得られる
配当を中心とする株式を保有すれば、目的は「配当をもらうこと」なので、株価が乱高下しようが関係ない。四半期ごとにキャッシュが口座に振り込まれ、たとえ株価が短期的に乱高下しても着実な収入が得られる。
政治的混乱が深まると、市場参加者は恐怖に駆られて利益確定を優先しがちだ。株価が下落すれば狼狽売りが増え、さらに下落圧力を強める。「とにかく売り飛ばして逃げる」のが彼らの優先事項となる。
だが、配当を中心に戦略を組んだ投資家はそういう行動にならない。
堅牢な財務基盤を持った企業は、政治や社会がどれだけ大混乱しても、きちんと稼いで配当を支払う。混乱が続くときは、そういう銘柄を安く買うこともできるし、配当率を高めることもできる。逃げる必要がまるっきりないのだ。
それどころか、激しい政治リスクが表面化したときほど、株価が下げて配当率が増えるので、冷静に買い増しができるインカムゲイン投資家にはおいしい局面だ。
これは、リーマンショックのときにウォーレン・バフェットが使った戦略であるのは、あまり知られていない。
サブプライムローン問題で金融システムそのものが崩壊しそうになったとき、バフェットは救済を求めてきたバンク・オブ・アメリカ【BAK】に莫大な資金を提供したのだが、その見返りとして10%の配当を要求した。
リーマンショックで金融機関は存続の危機にあって、株価の暴落よりも存続できるのかどうかに焦点が当たるほど凄惨たる状況だった。
財務的にバンカメは消えてなくなることがないと踏んだバフェットはバンカメに投資して、あとは10%の配当をもらいながらリーマンショックからの株価の回復を、慌てず騒がず「高みの見物」で乗り切った。
株式市場が動乱してどうなるのかわからない状態であれば、高い配当をもらいながら落ち着くのを待てばよかったのだ。
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シェブロン【CVX】の配当率は4.8%近い
最近、CNBCは『ウォール街のトップアナリストは、配当を支払うエネルギー株を好んでいる』と報道しているのだが、この配当重視の動きは、まさに「配当で高みの見物戦略」を指している。
そう言えば、ウォーレン・バフェットも、ここのところずっとオキシデンタル石油【OXY】を増やしている。さらに言えば、あまり知られていないのだが、バフェットは他のエネルギー企業としてシェブロン【CVX】も保有している。
シェブロン【CVX】の配当率は4.8%近い。これを保有しておいて、世の中が好転するのを待つというのは、悪い話ではない。シェブロンは25年以上連続で増配している米国企業のひとつなので、景気低迷が長引いて長期保有になっても逆に有利になる。
業績面をみると、株価収益率(P/E)は14.22倍、予想P/Eは12.53倍と、同業他社と比較して割安感がある。
PEGレシオは1.55倍で、利益成長率を勘案しても過度な評価はされていない。営業キャッシュフローに対する株価(P/FCF)は15.42倍と、キャッシュ創出力に見合った水準を示している。
財務の健全性も高い。負債資本倍率(Debt/Equity)は0.19倍、長期負債比率は0.16倍にとどまり、過剰なレバレッジはかかわっていない。流動比率は1.06倍、クイック比率は0.83倍と、短期的な資金繰りにも問題ない。
収益性指標では、総資産利益率(ROA)6.81%、自己資本利益率(ROE)11.28%、営業利益率9.71%、純利益率9.13%を記録している。粗利益率14.75%からもわかるように、上流から下流までの統合型ビジネスモデルが安定したマージンを生んでいる。
成長性をみると、過去5年間のEPS成長率は44.50%、売上高成長率は13.14%を達成した。直近四半期では前期比でEPSが50.71%増加した一方、売上高は0.80%減少した。この乖離はコスト削減と高付加価値事業の好調が寄与している。
配当性向は67.08%と、利益の大半を株主還元に回す積極的姿勢を示している。シェブロンは長期保有に値する企業であるのが見て取れる。相場に長期で不透明感があるときこそ、頼もしい銘柄になりそうだ。
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高配当をもらいつつ「やり過ごす」ための銘柄
市場が混乱し、景気が悪化したら、もちろんエネルギー消費が減るので石油会社の株価も下落に巻き込まれるだろう。だが、他のセクターも一緒に下落しているわけで、それならば高配当をもらいつつ「やり過ごす」ほうが理に適っている。
景気が低迷しているときに買っておけば、逆に言えば次にくるのは景気の好転しかない。シェブロン【CVX】のように財務が堅牢な企業を保有しておけば、配当の減額のリスクも少ない。
配当の連続増配実績と67.08%の配当性向から判断すると、株主重視の経営姿勢は今後も継続される確率が高い。安定したキャッシュフローを背景に、配当原資を維持しつつ資本支出を適度に抑制し、余剰資金を増配や自社株買いにも振り向けられる。
シェブロンは上流部門では効率的な探鉱技術・開発技術を持ち、下流部門では化学・潤滑油事業で高マージンを確保する統合型ビジネスモデルを維持している。これによって売上高や利益の振れ幅を緩和し、不確実性の高い市場環境でも収益源を多様化できている。そのため、景気が戻れば株価の上昇も見込める。
トランプ政権は、今後も稚拙なまでに強引な政治を続けるので、良くも悪くも株式市場を動揺させ続けるだろう。
現在、FRB(連邦準備銀行)のパウエル議長を激しく口撃して「辞めさせたい」と言い始めているのだが、実際にトランプ大統領の権限でパウエル議長が辞任させられると、株式市場はさらに動揺して暴落することも有り得る。
それ以外にも、トランプ政権では想定外の出来事が何でも起こりえる。トランプ政権2.0は始まったばかりであり、これから4年間もそうした混乱が続くのだ。
それならば、シェブロンのような高配当の財務堅牢な株を買っておき、配当という「確実な収入」をもらって、冷ややかにトランプ政権や相場を見ておくのが合理的ではないか。シェブロンは、そういう観点から面白い立場にある銘柄ではないかと思っている。
