
景気と金利の関係は一方的なものではない。互いに影響を与え合う。好景気によって金利が上がり、その結果として景気が冷え込む、こうした循環が繰り返される。金融政策は、景気やインフレ率に応じて調整される。ところが今、その金利がトランプ大統領の政治的圧力で調整が効かなくなってきている。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
経済や株式市場の流れをつかむ手がかり
株式市場は景気に大きく影響される。そして、景気は金利によって左右される。つまり、金利の動きを追いかければ、経済や株式市場の流れをつかむ手がかりになる。そのため、多くの投資家は金利の動向をつねに気にしている。
景気は「好況→景気後退→不況→景気回復」という循環を繰り返す。金利も「高金利→金利低下→低金利→金利上昇」という動きをする。この二つのサイクルは密接に結びつき、互いに影響を及ぼしながら進む。
景気が良い時期には、企業の活動が盛んになり、個人の消費意欲も高まる。企業は設備投資を増やして生産を拡大し、業績アップを目指す。この結果、社員の給与も上がり、さらに消費が活発になる。
それは素晴らしいことのように思える。だが、それが過熱していくと、企業の設備投資や個人消費が拡大していく一方となり、需要が供給を上回りやすくなり、物価が上昇しやすくなっていく。
物価が上がりすぎると、生活コストが増えたり、資産バブルや過剰投資が起きやすくなったりして、経済のバランスが崩れていく。そのため、政府は景気ができるだけ正常に長く続くように、徐々に金利を上げて経済を調整していくようになる。
金利が上昇すると何が起こるのか。物価上昇は抑制され、経済の過熱感は取れていく。しかし、あまりにも景気が良すぎると、ちょっとやそっと利上げしたところで止まらない。そのため、金利がするすると上がっていく局面も現れる。
そうなると、人々はふと金利の重さに気づく。
高金利は資金調達を難しくし、個人もローン金利が重いことに負担を感じるようになっていく。誰もがそれに気づくと、今度は経済活動が停滞する可能性が出てくる。金利の上昇は住宅購入や建設に影響を与え、企業の利益や消費者の購買意欲にも悪影響を及ぼしていく。
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景気と金利の関係は一方的なものではない
このように、景気と金利の関係は一方的なものではない。互いに影響を与え合う。好景気によって金利が上がり、その結果として景気が冷え込む、こうした循環が繰り返される。
金融政策は、景気やインフレ率に応じて調整される。特にインフレは国民生活に大きな影響を与えるため、その抑制は重要だ。持続的な物価上昇であるインフレは、国民生活を圧迫することになる。
インフレは大きな経済的な問題だ。特に年金生活者や低所得者層などの社会的弱者には深刻な影響がある。高いインフレ率が続くと、経済活動全体が鈍化し、人々の生活費も増加していく。社会的な閉塞感が漂い始め、政府に対する不満も醸成されていく。
インフレはやがてくる社会の混乱の引き金となり得るものなのだ。
これを抑えるのが中央銀行による「利上げ」なのだが、「利上げ」というのは要するに経済をわざと冷やすものなので、本来はないほうがいい。ないほうがいいのだが、やっておかないと、より社会が混乱する。
金利を上げると経済はやがて過熱感が取れて冷えていく。そして、それが行き過ぎると景気は沈静から悪化に向かう。そうすると、中央銀行は「引き締めすぎた」と考えて、金利を徐々に下げていくことになる。
好況だと金利が少しずつ上がっていく。
景気が過熱していくと金利はもっと上がっていく。
景気が落ち着くまで金利は高く据え置かれる。
やがて景気が悪化していくと金利は少しずつ下げられる。
景気が悪化していくと金利はもっと下がっていく。
景気が落ち着くまで金利は高く据え置かれる。
いつの時代にも、こうした循環が経済を動かしているのだ。現在は上記のどこに当たるのかを知っておくのは賢明だ。
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金利の動きは投資家にとって欠かせない指標
金利の動きは株式市場に出入りする投資家にとって欠かせない指標だ。経済活動を支える資金の貸し借りには金利が深くかかわっているからだ。
企業や家計が借入をする際、金利が低いと資金調達コストを抑えられるが、金利が高いと返済負担が増大する。この影響は株式や債券の投資収益にも直結する。金利が上がったら企業収益が悪化するので株式のリスクは高まりやすい。
それなら、株を売って安全な国債を買っておけば、リスクを抑えて金利収益が得られることになる。そのため、金利が上がると株が売られて債券が買われる。株式に戻ってくるのは利下げがおこなわれるあたりでいいわけだ。
逆に金利が低くて景気が良い状況なら、国債なんか買っていないで株式に投資しておいたほうがリターン(利益)が得られやすい。国債は金利が低くて魅力がないので、わざわざ検討するまでもない。
まず景気が好調な局面では金利がつねに緩やかに上昇するが、その局面では金利を見ながら、なおも株式に賭けておいてもいい。通常、需要が供給を上回り、物価が上がっていく過程で、金融当局は0.25%刻みの小幅利上げをおこなう。
たとえば米連邦準備制度理事会(FRB)は2021年から2022年にかけて政策金利を0.25%ずつ引き上げ、2022年末には4.25%まで達した。この期間中、S&P500はずっと上がり続けてきた。
しかし、さすがに4%を超えたあたりで株価も限界がきた。それで2022年からは株式市場が下落していったのだ。
ちなみに、深刻な不況局面では金利はゼロ近傍まで下げられる。2008年のリーマン・ショック後、日本や米国は0~0.25%の超低金利政策を採用し、市場への資金供給をいっせいに支援した。
プロのトレーダーは金利に合わせて投資スタイルを変えていく。長期投資家は金利が上がろうが下がろうが、ひとつの企業をずっと保有し続けるので関係ないように思うかもしれない。
だが、企業収益が増加していくのか減少していくのかは金利も密接にかかわってくるので、無関係というわけでもない。
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世界中の金融関係者が米国の金利を見つめている
ところで、こうした状況を見据えつつ、今の経済状況を見ると、どのようなことがわかるだろうか。トランプ大統領は現在、全世界を相手に激しい恫喝関税外交を繰り広げている。
この「関税」というのは事実上の増税に他ならず、間違いなくインフレを引き起こす。トランプ大統領は特に中国に対して145%の関税をかけているのだが、これによって米中の貿易は完全に遮断されたも同然となる。
アメリカではインフレが起こるだろう。インフレが起こるのであれば、中央銀行の仕事は「金利を上げる」ことである。しかし、金利を上げると景気が悪化して、株式市場もさらに下落していき、トランプ政権を追いつめる。
そのため、トランプ政権はFRB(連邦準備銀行)のパウエル議長を「負け犬、のろま、ミスター遅すぎ男」と口汚く罵って「利下げしろ」と強要したり、「辞めさせる」と恫喝したりしているのだが、インフレが起こりそうな状況で利下げしたら、インフレは収拾不能になる可能性が高くなる。
つまり、通貨ドルの価値も下落する。実際、DXYも年初来でマイナス10%近い下落率となっている。また、米国自体の信用も喪失するので国債も売られる状態になっている。
国債も売られ、株式も売られ、通貨も売られる状態なので、投資家は逃げ場がなくなる。そのため、上昇しているのがゴールドである。ある意味、今のアメリカは「最悪」に向かって突き進んでいる状態であるといってもいい。
利上げが必要なのに利下げを求められているわけで、FRB(連邦準備銀行)も正念場に追い込まれているといえる。利下げするにしても、利上げするにしても、米国経済は波乱に陥るだろう。
今、世界中の金融関係者が米国の金利を見つめているのは、そういうことである。
