今後、「衰退する中国」と「勃興するインド」という明確なコントラストになる

今後、「衰退する中国」と「勃興するインド」という明確なコントラストになる

米国の投資銀行ジェフリーズのグローバル株式戦略責任者を務める著名ストラテジストにクリス・ウッドがいる。最近、ウッドは「米国株が過去数年にわたる上昇トレンドの末期に達している」と述べて耳目を集めている。だからと言って中国の時代もない。次はインドだとウッドは推す。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

米国株は上昇トレンドの末期に達した?

米国の投資銀行ジェフリーズのグローバル株式戦略責任者を務める著名ストラテジストにクリス・ウッドがいる。最近、ウッドは、「米国株が過去数年にわたる上昇トレンドの末期に達している」と述べて耳目を集めている。

この根拠として、S&P500に予想PER(株価収益率)が≒19.2倍と、過去20年間の平均である15倍前後を大きく上回っている点を挙げている。過去にPERが20倍を超えていた局面では、その後数年で平均リターンがマイナスに転じた事例がいくつもある。

実際、2000年代のハイテクバブル期や2007年の住宅バブル期を振り返ると、PER高騰後の急反落局面に巻き込まれた投資家が多かった。

次に、企業業績の伸び悩みである。2025年第1四半期のS&P500企業の合計営業利益は前年同期比+3%程度にとどまり、過去数年の二桁成長から大きく鈍化している。

売上高は堅調に推移しているものの、人件費や原材料費の上昇が利益を圧迫し、利益率は過去5年平均の11%から9%台へと低下した。だが、ファンダメンタルズが相対的に弱含んでいるにもかかわらず、株価だけが高止まりしている。

パッシブ運用の急拡大が下落リスクを助長している。インデックス連動型ファンドとETFの残高は全米で約10兆ドル超に拡大し、売買が一方向へ偏りやすい構造を形成している。

株価下落時には大量の売り注文が連鎖的に出やすく、流動性が一時的に逼迫して急落を招きやすい。実際、4月初旬の関税発表後には数日で2.5兆ドル相当の時価総額が失われ、ナイアガラの滝のような下落局面が確認された。

バリュエーションは高く、利益は鈍化し、パッシブ運用の偏重が危機を招く。それを増長しているのが、トランプ政権の政策の不透明さである。株価が下落している上に、米ドルや米国債も同時に売られる異例の現象も観測されている。

ウッドでなくても先行きに不穏なものを感じても不思議ではない。

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トランプ大統領の言動は不規則で不安定で矛盾まみれ

世界は今、トランプ大統領によって保護主義の再興と世界秩序の崩壊にさらされていると言って過言ではない。米中を中心とした貿易摩擦は、市場参加者のリスク許容度を低下させ、関税政策の発動や報復合戦が相場を乱高下させている。

トランプ大統領の言動は不規則で不安定で矛盾まみれだ。今後も不確実性を助長させ続けるだろう。今日、決まったことでも、明日はどうなるのかわからない。日替わりで何かが変わる。

関税率についても、ChatGPTで各国の関税を適当に決めたという疑念があるし、各国の関税政策についても、いろいろ誤解している点が多い。日本に関しても、トランプ大統領はいろいろ誤解を持っている。

「日本はアメリカに46%の関税をかけている」というのも誤解だし、「日本は米国産のコメに700%の関税をかけている」というのも誤解だ。「日本は米国車にボーリング球でテストしている」というのも誤解だし「日本は為替操作している」というのも誤解だ。

しかし、トランプ大統領はそれを誤解だと思わずに真実だと思っているのだ。

さらにトランプ大統領は、自分の意向に沿わないFRB(連邦準備銀行)のパウエル議長についても「FRBが悪い、利下げしないパウエルが悪い、パウエルは判断が遅すぎ。ミスター遅すぎ男、パウエルをクビにしたい、とにかくFRBが悪い、パウエルが悪い」と、ひたすら口汚く罵ったりしている。

それで株式市場が暴落すると「パウエル議長を解任するつもりはない」と言い出しているのだが、いつまた言動が変わるのかわからない。あまりにも感情的で、あまりにも不規則なのだが、閣僚たちはみんなトランプ大統領におもねている。

こういう状況の中で、世界中の投資家は米国の国債を見捨て、ドルを見捨て、米国株を見捨てている。トランプ政権が続く限り、そうした傾向が続くだろうというのがクリス・ウッドの解釈なのだ。

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インドは外国人投資家が投資しやすい環境に

クリス・ウッド氏は、米国株のリスクを回避する有効策として、インド・中国・欧州の各市場への資金シフトを推奨している。

中でもインド市場は、GDP成長率が直近で+6.5%前後と、中国の+5%台を上回り、消費主導の拡大局面にある点が高く評価されている。人口約14億人のうち50%以上が35歳未満という若年層の厚いボリュームゾーンが、長期的な内需拡大を支えているのだ。

インド株の代表的指数であるNifty50のフォワードPERは現在≒18倍と、過去10年平均となる20倍を下回っている。相対的に割安感が鮮明だ。こうしたことから、2025年第1四半期の始動5営業日で+5.9%の上昇を示し、世界的な株価下落局面をものともせずに資金を呼び込んでいる。

これは、国内機関投資家の増加や、月次SIP(積立投資)の新規流入が過去最高水準を更新していることと連動している。

また成長ドライバーも多彩である。デジタル経済では、オンライン決済の取扱高が前年同期比+25%伸長し、スマートフォン普及率は70%を超える。政府主導のインフラ投資も活発で、2025年度には道路・鉄道整備予算がGDP比で2.5%に達する見込みだ。

不動産セクターにも底入れ感が出始めており、大都市圏の住宅販売件数が+10%増加。これらが複合的にインドの成長ポテンシャルを底支えしている。

さらに、インド市場は規制サイドの動きも安定している。株式市場への外国直接投資(FDI)規制緩和や、上場プロセスの簡素化が進み、外国人投資家にとって投資しやすい環境が整備された。

税制面でも、キャピタルゲイン税の負担軽減や配当課税の二重課税除外など、投資家フレンドリーな施策がおこなわれている。こうした政策サポートの積み重ねが、インド株の比重を高める根拠となっている。

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 「衰退する中国」と「勃興するインド」

中国経済は、2025年第1四半期の国内総生産(GDP)成長率が前年同期比+5%を割り込み、財政収入も前年同期比-1.1%の減少を記録した。

これは、不動産セクターの長期調整と、プラットフォーム企業への規制強化が重なった結果である。住宅価格は主要都市で年率-3%前後と下落が続き、建設投資も減速。過剰債務の解消を優先するあまり、公共投資も抑制されている。

さらに中国はアメリカに激しく嫌悪されて、関係を断ち切られようとしている。

一方、インドは異なる景色を見せている。2025年の成長率見通しは+6.8%前後と高い水準を維持し、人口ボーナスを享受している。人口中央値は約29歳と若く、労働力人口は増加傾向にある。

これにより、消費需要が拡大し、GDPに占める個人消費の割合は60%超と先進国水準に迫っている。

産業面では、IT・ソフトウェアサービスの輸出が年率+15%超で伸び、製造業も政府の「Make in India」施策で生産拠点が増加。さらに、国内インフラ整備の加速が物流・建設関連企業の収益を押し上げている。

金融分野では、不良債権比率がピーク時の11%から7%台まで低下し、銀行の健全性が改善。これが資金供給の拡大と企業投資の拡大を支えようとしている。

デジタル化もインドでは目覚ましい。オンライン決済件数は前年同期比+30%増加し、スマートシティ構想やデジタルID「アドハー」による行政効率化が進む。これにより、中小企業や農村部にも金融アクセスが拡大し、経済成長に幅広い層がかかわる構造を醸成しつつある。

以上のように、中国の構造的な調整と規制強化が成長鈍化を招く一方、インドは人口動態・政策支援・デジタル化が相まって飛躍的に国が成長しようとする途上にある。どちらに投資するのかと言われれば断然インドという話だ。

今後、「衰退する中国」と「勃興するインド」という明確なコントラストが、投資家の期待を一層インド市場へと引き寄せていくだろう。投資銀行ジェフリーズのクリス・ウッドの見解は私が以前から持っている見解と一致している。

14億人の人口を抱えたインドの成長は、これからだ。

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