
過去20年でソフトウェア企業は「高成長×低競争」に支えられて、米国株市場を席巻した。しかし、すでにこの分野は急激にコモディティ化している。投資家は新しく「爆発的な需要拡大」と「高い参入障壁」の両方を合わせ持っている分野を探す必要が出てきた。それはどこなのか?(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
過去20年におけるソフトウェア繁栄の構図
過去20年でソフトウェア企業は米国株市場を席巻した。2002年当時、S&P500に占めるソフトウェアセクターの比率は5%にすぎず、MicrosoftやOracle、Adobeなどが中心だった。
だが、インターネット・バブルが崩壊したあとも、企業はウェブサイト構築やEC、業務効率化ツールを求めつづけた。これらの需要を満たすには高額なライセンス料を支払い、専門エンジニアを確保し、数千万円規模のサーバーを自社データセンターに設置するしかなかった。
クラウドコンピューティングは未成熟であり、AWSが商用サービスを開始したのは2006年、Azureが登場したのは2010年である。この間、プログラミング人材の市場価格は上昇し、年収1000万円を超えるエンジニアも珍しくなかった。
参入障壁が高かった結果、競合は限られ、ソフトウェアセクターは「高成長×低競争」の理想的環境を手にした。実際、2002年から2020年にかけてソフトウェアセクターはS&P500を239%アウトパフォームしていたのだ。
この繁栄を支えたのは、主に三つの要因である。
第一に、ビジネスプロセスのデジタル化が世界的に進んだこと。第二に、クラウド移行前のオンプレミスモデルが高収益を支え、一度契約を取ると継続収益が得られやすかったこと。第三に、インターネット・バブルの教訓からソフトウェア企業への投資が慎重になり、堅実なビジネスモデルを持つ企業だけが生き残ったことである。
ユーザーはカスタマイズ性を重視し、大手ベンダーに多額のカスタマイズ費用を支払うことをためらわなかった。当時はオープンソースの台頭も限定的であり、エンタープライズ向けソフトウェア市場は事実上、寡占状態にあったのだ。
とはいえ、この繁栄は永続的ではない。昨今、AIが急激に広がるにつれて、「高成長×低競争」の構図は崩壊しはじめている。ソフトウェアの市場価値は下支えされつつも、過去20年間のような圧倒的な超過リターンは二度と期待できそうにない。
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ソフトウェアはコモディティに近づいた
AIが爆発的に広がる前から、世界中ですでに必要とされる主要なソフトウェアツールが普及し、成長ペースは鈍化していた。ERPやCRM、グループウェアなどの市場は飽和し、ベンダーは既存顧客からのアップセルや追加モジュール販売に注力する段階に移行した。
さらにプログラマー人口がこの20年で4倍に増加し、2010年ごろには1千万人程度だったエンジニア数が2020年代には4千万人に達している。ノーコード/ローコードプラットフォームやAIコード生成ツール(GitHub Copilotは2021年リリース)の登場も、プログラミングの敷居を大きく下げた。
これらの変化は結果的に参入障壁を低下させ、競争を激化させた。
中小ベンダーがマイクロサービスやAPI連携機能を武器に市場シェアを奪い、価格競争に突入するようになった。
2021年以降、ソフトウェアセクターはS&P500に対して15%アンダーパフォームしている。長期的な平均成長率は年率20%前後から10%台半ばに低下し、サブスクリプションモデルの収益成長も減速している。
また、クラウド化が進展したことでデータセンター運用コストは下がったものの、AWS、Azure、Google Cloudといった巨大プラットフォームが寡占を強め、価格交渉力を顧客側に委譲しにくくなっている。
ユーザーは「サーバー管理」から解放されたが、代わりにプラットフォームに囲い込まれ、その長期契約によって新規参入企業は苦戦を強いられるようになった。
かくして、ソフトウェア企業はかつてのような「技術優位=収益拡大」の構図を失い、ソフトウェアはコモディティに近づいた。今後も競争はいっそう激しくなり、各社はマーケティングコストの増大や開発コストの抑制に追われることになる。
もう、ソフトウェア企業に投資しても、過去のように大きな成長を取ることは難しいのではないかと個人的に思うようになっている。
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「爆発的な需要拡大」と「高い参入障壁」
すでにソフトウェア・アプリケーションのコードの70%はAIが作り出すようになっている。今、AIによるパラダイムシフトが起きており、これからの時代はAIの時代に入っていく。
このAI時代に勝てるとすれば、AIセクターにおいて「爆発的な需要拡大」と「高い参入障壁」の両方を合わせ持っている箇所を探す必要がある。
ここに該当するのは、言うまでもなく半導体セクターだ。
AIやデータセンター用途の専用チップ需要は過去2年間で急増し、市場規模は年率30%を超えて成長している。汎用CPUやメモリだけでなく、推論専用のAIアクセラレータや高帯域幅メモリが必要となり、従来の設計能力では対応しきれない状況だ。
半導体製造には最先端のナノプロセス技術と100~200億ドル規模のファブ投資が不可欠だ。これほどの巨額資本と高度な研究開発力を要する産業はほかに存在しない。
製造設備は米国、台湾、韓国、日本の一部企業に限られ、エッチング装置や露光装置の供給も極めて限定的だ。競合が限られることで既存企業は価格を引き上げつつ利益率を維持できる。実際、半導体セクター全体の利益率は2023年初頭の25%から2024年には40%へと上昇している。
市場シェア拡大の余地もすさまじく巨大だ。
2022年にS&P500内で6%だった半導体セクターの時価総額比率は現在12%に達したが、ソフトウェアの27%にはまだ遠く及ばない。仮に今後、半導体がソフトウェアと同水準の27%までシェアを拡大すれば、業界構造は根本から一変する。
鉄鋼や自動車が20世紀初頭に市場を席巻したように、次世代AIチップメーカーが21世紀の王者になる。
それならば、成長株に投資したいなら、このセクターは外せないはずだ。収益の伸びしろと価格決定権が両立する分野は半導体以外に見当たらず、今後10年で半導体セクターが市場全体を牽引する可能性はきわめて高い。
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AI時代の爆発的成長を取り込む企業
半導体セクターの中でも、NVIDIA【NVDA】とTSMC【TSM】の2つは、長期投資先として際立つ優位性を有していると思う。
NVIDIAはGPU市場で圧倒的シェアを誇り、AI演算用途での需要を先行的に取り込んできた。そして、CUDAプラットフォームによるエコシステムは大きな囲い込みとなり、データセンター各社は容易に他社製品へ移行できなくなっている。
一方、TSMCは世界のファウンドリ市場で50%超を占め、3ナノ、2ナノといった最先端プロセスで競合を大きく引き離している。
100億ドル規模の研究開発投資と高稼働率によって安定的なキャッシュフローを確保し、株主還元余力も豊富だ。2024年の設備投資額は280億ドルに及び、これが新規参入のハードルをいっそう高めている。
両社はともに高い利益率と強固な技術的優位を維持し、これからのAI時代の爆発的成長を取り込む態勢が整っている。
ところが、最近はトランプ大統領による強引で稚拙な恫喝関税外交によって株価は大きく調整しているのだ。現在は、この2社とも、まぎれもなく割安な水準にある。
今後、関税による混乱はどういう形にしろ落としどころが見つかって収束していく。それがいつになるのかは未知数だが、落ち着いた段階でふたたび半導体セクターは大きく伸びていくことになる。
NVIDIAとTSMCは長期的な市場支配力とキャッシュ創出力を兼ね備え、関税という一時的逆風を乗り越えた先に大きなリターンをもたらす投資先である。今後10年、半導体の時代を牽引し続けるはずだ。
成長株に投資するタイプの投資家であれば、がっちりと保有していいのではないだろうか?
