短期国債を買うとしたら、国債ETF【BIL】(配当4%超)を考えるのもいいかもしれない

短期国債を買うとしたら、国債ETF【BIL】(配当4%超)を考えるのもいいかもしれない

2024年から2025年にかけて、短期国債の利回りは約4.359%に達し、魅力的な投資先となっていた。そこでバフェットを手持ちの現金をせっせと短期国債に変えて、高い配当を手に入れつつ、株式市場が魅力的な価格なる機会、すなわち株式市場が暴落して「すべてが安すぎる」機会になるのを待っているのだった。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

4%超の配当をもらいながら「高みの見物」

2023年8月、CNBCのインタビューで、ウォーレン・バフェットは「バークシャーは先週の月曜日に100億ドルの米国債を購入した。今週の月曜日にも100億ドルを購入した。来週もまた米国債を買うだろう」と述べていた。

バフェットがこの頃からすでに株式を避けて短期国債に資金を移しているのは興味深い動きだった。当時から株式については「すべてが高すぎる」と述べ、魅力的な投資機会が現れるまで動かない戦略に変えていた。

バフェットは評価額が高い局面では、つねに売り手である。Appleを売り、銀行株を売り、持ち株をどんどん現金化して、株式市場にはほとんど戻らなかった。今もまだ戻っていない。

折しも、2024年から2025年にかけて、短期国債の利回りは約4.359%に達し、魅力的な投資先となっていた。

そこでバフェットを手持ちの現金をせっせと短期国債に変えて、高い配当を手に入れつつ、株式市場が魅力的な価格なる機会、すなわち株式市場が暴落して「すべてが安すぎる」機会になるのを待っているのだった。

つまり、バフェットは短期国債でで安全かつ安定的に利回り4%超の配当をもらいながら「高みの見物」をしていることになる。

私自身は2024年の末くらいから「そろそろ株式市場の高値追いも限界なのでは?」と思うようになって現金化をするようになった。だが、2年前から現金化を進めていたバフェットと違って短期国債を買うことにはならなかった。

2025年にはそろそろ利下げがくるのではないかという思惑もあったからだ。利下げになるのであれば、利率が下がるのだから短期国債を買う理由がない。

ただ、本当に利下げになるのかわからない。逆に動くのであれば、場合によっては短期国債を考えても良い局面になるのではないか。

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分配金を受け取りつつ流動性を確保する

なぜ利下げではなく利上げの可能性もあるのか? それは、トランプ大統領が想定を超えるほどの無謀な関税政策を強引に推し進めており、世界中でインフレが発生することも有り得るからだ。

激しいインフレがくると、FRB(連邦準備銀行)は利下げどころか利上げしなければならない局面になる。それは状況次第なのだが、インフレの悪化から利上げが見えてくるようであれば、バフェットのように短期国債を抱えてもいいのかもしれない。

もし、短期国債を買うとしたら、国債ETF【BIL】(iShares Short Treasury Bond ETF)を買う予定だ。【BIL】はブラックロック社が運用するiSharesシリーズの1つで、投資対象は償還期間が1年以内の米国財務省短期国債のみである。

このETFの保有銘柄はすべて国債で構成され、テクニカルなリスクではなく、政策金利に連動した運用成果を目指している。一般に米国債は信用リスクがもっとも低い資産とされ、その中でも償還期限が短いほど価格変動リスクは小さくなる。

運用方法は比較的シンプルで、ETFが保有する国債を指定期間ごとにロールオーバーし、満期を迎えた国債を新たに発行された短期国債に入れ替える。

これにより、ETF全体の平均残存期間はつねに6ヵ月前後に維持される。価格は1ドル前後で安定して推移し、元本割れリスクを極小化している。加えて、ETF保有者には毎月分配金が支払われ、分配利回りは政策金利の動向に応じて変動する。

現在【BIL】は、4.76%の高配当(分配金)となっている。そのため、「とりあえずお金を置いておく場所」としては最適だ。流動性が高いため大口取引においてもスプレッドが狭い。

【BIL】はベンチマークとしてICE U.S. Treasury Short Bond Indexを採用している。指数の構成銘柄は毎営業日更新される。これにより、つねに最新の短期金利水準を反映する。

投資家はこの【BIL】を買っておけば個別国債を購入する手間を省くことができる。分配金を受け取りつつ流動性を確保できるメリットがある。

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投資機会が到来するまで「乾いた火薬」を

【BIL】は、株式に資金を投じるには適していない時期では、いろいろ使い勝手が良いETFだ。ただし、注意点もある。【BIL】の分配利回りは政策金利水準に依存するため、金利が低下局面に転じると利回りも下がるのだ。

そのため、【BIL】に投資するのであれば、金利見通しや市場動向を適切に把握しておかなければならない。

現在、トランプ大統領はFRBのパウエル議長を激しく口撃して「利下げしろ」と迫っているが、パウエル議長は経済状況を見てそれを判断するだろう。状況が見えなくなりつつあるというのは、【BIL】を買うのはタイミングが難しい時期かもしれない。

だが、バフェットが国債を買っていた2023年はインフレをどうするのかが最大の焦点だった。もし【BIL】を買うなら、この時期が一番買いやすかったと言える。

バフェットは長年にわたり、投資機会が到来するまで短期国債や現金同等物に資金を置いておく「乾いた火薬」(Dry Powder)戦略を採用してきた。

「乾いた火薬」というのは、金融の世界では「すぐに投資や資金投入が可能な現金や流動資産」のことを指す。暴落が発生した瞬間に迅速に資金を投入できるように、普段から流動性の高い資産を確保しておく。その「乾いた火薬戦略」が【BIL】だ。

具体的には、バークシャー・ハサウェイが保有する約3000億ドルの資金の一部は短期国債に投じられて、株価が急落した際にはすぐに使えるように準備している。

2020年のコロナショック時、バフェットは金融株を中心に複数銘柄を追加購入したが、その際の資金源もまさに短期国債ポジションだったのだ。

「投資機会がくるまでじっと待つ」という姿勢は、相場における過度なトレードを防ぎ、冷静な判断をくだすために不可欠だ。株式市場の急騰局面で追随買いを繰り返すと、高値づかみリスクが高まり、リターンが減少する。

だが、短期国債ETFに資金を置けば、高配当を享受しながら、相場の過熱感を回避し続けることができる。

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【BIL】は長期投資すべき場所ではない

【BIL】は毎月分配金を受け取れる。だから、ますます使い勝手が良い「一時保管場所」だ。ただの現金だけを持っていても1セントすらも稼げないが、【BIL】なら高い分配金を享受しつつ待機できるため、投資効率が向上する。これにより、投資家は適切なチャンスを捉えるまでポジションを崩さずにすむ。

だが、分配金が高いからと言って、【BIL】は長期投資すべき場所ではない。

短期国債は株式と違って株価が上昇していくということはないので、あくまでも一時的な保管庫にしておかないと長い目で見ると株式資産に劣後する。株式市場が急落して、割安な銘柄だらけになった状況では、【BIL】を売却してその資金を株式に振り向けないと株式市場の成長が取れない。

さらに、政策金利が低下局面に転じ、短期国債利回りが下がり始めた場合にも【BIL】の売却を検討する必要がある。たとえばFRBが利下げを複数回おこない、短期金利が3%以下に低下した場合は【BIL】を捨てたほうがいい。

こうした金利サイクルの転換点では、より高い利回りを求めるために中長期債ETFや株式へシフトするほうが合理的になる。【BIL】は短期国債特有の低ボラティリティが魅力ではあるが、あくまで「待機資金」でしかない。

それをわかっていて使うのであれば、短期国債ETF【BIL】は本当に使いやすいETFであると言える。

ただ、私自身は「一時的待機場所」としての【BIL】に資金を入れるよりも、つねに高配当株や高配当ETFを探して、そこに資金を投じておきたいタイプなので、よほどのことがない限りは【BIL】を買うことはないと思う。

しかし、こうした短期国債ETFの存在を知っていれば、いつか使うべき日がきたらすぐに使えるので便利だ。

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