
ギャンブルはゼロサムゲームだ。一部の人間だけが莫大な現金をすくい上げて、残りはまとめて資産を失う。つまり、勝者が莫大な富を保有し、それ以外は資産を根こそぎ剥がされるような強者総取りの世界となる。それでも、一攫千金を求めてトレードの世界に入ってくる人は多い。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
トランプ大統領が生み出しているボラティリティ
2025年4月2日、トランプ大統領は「アメリカは搾取されてきた」として、包括的かつ一方的な関税政策を世界に向けて発動した。全輸入品に一律10%の関税を課すとともに、中国製品に対しては最大145%という驚くほど高率関税をかけた。
この措置により世界の貿易ルートは大きく揺らぎ、海上輸送コストと通関手続きの負担が急増している。中国政府は対抗姿勢を鮮明に打ち出しているが、悪影響は必至だ。IMF、ゴールドマン・サックス、UBSなどの主要金融機関は成長見通しを相次いで引き下げている。
株式市場もネガティブに反応し、S&P500は年初来で2.6%下落、ナスダックは11%超の失速を記録した。アジア株式市場もそれぞれ大きく下落している。現在も、この関税の影響で市場全体に不透明感が漂い続けている。
為替市場ではリスク回避姿勢が顕著となり、ユーロと円はドルに対して急騰し、スイス・フランも10年ぶりの高値を更新した。DXY指数も下落する一方であり、ドル通貨基軸の瓦解さえも噂されるようになっている。
小売業界には4月末から関税負担の影響が波及し始め、自動車や家電製品で値上げが相次ぎ、米国消費者の購買意欲は低下し続けている。貿易摩擦の深刻化は物価上昇を伴う。そのため、経済アナリストたちは、経済停滞とインフレが同時に進行するスタグフレーションへの懸念を表明している。
外国為替市場では短期的なドル売りによって投機筋のロスカットが連鎖し、多くのトレーダーが資産を急激に失ったとみられる。
米中間の貿易交渉は依然として膠着状態にあり、報復措置の応酬が続いている。相場は反発の動きを見せず、下落トレンドを形成している。今後も、相場は激しいボラティリティで揺れ動くはずだ。
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「レバレッジ=借金」となぜ言わないのだろうか
日本ではFX(外国為替証拠金取引)のトレーダーが、高いボラティリティの中で翻弄されている。
FXは、少額で最大の効果を得るためにレバレッジをかけて取引するのが普通だ。レバレッジは人によって違うが、数倍から数十倍をかけることができる。そのため、ちょっとした見込み違いや相場のノイズによって、資金はいとも簡単に吹き飛ばされる。
レバレッジとは、「テコの原理」であると多くの書籍で説明されているが、なぜもっと直接的でわかりやすく説明すると、「レバレッジ」というのは「借金」である。
外国為替証拠金取引は、「カネを借りて為替の上げ下げに賭ける取引」なのだ。「100万円の保証金に25倍のレバレッジ」とは、「100万円を頭金にして2500万円を借りる」と言っているだけだ。
100万円をかけて為替が上でも下でもいいが、1円動いたら25倍のレバレッジをかけている人は25万円の変動がくるということになる。
勝てばあっという間に25万円が転がり込むが、負けるときは一瞬にして25万円が吹っ飛ぶ。2円動けば50万円が吹っ飛ぶ。3円動けば75万円吹っ飛ぶ。
100万円が保証金なので、100万円以上損するとそれは借金になるのだが、FXでは80%以上、保証金が消えると強制的に取引が清算される。これをロスカットと言う。25倍のレバレッジをかけていた人は、3円近くの見込み違いがあっただけで、資金の80%を失って退場になる。
ちなみに、日本のFX企業は個人の最大レバレッジは25倍が上限なのだが、海外FX業者は日本の金融庁の規制対象外のため、100倍とか200倍もザラにある。500倍という想像を絶するレバレッジさえもある。まさに丁か半のギャンブルでしかない。
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少しの変動でいきなり財産が吹き飛んでいく
トランプ大統領は今後も市場に大きなボラティリティを生み出していく。政権運営は強引だし、思いつきを口に出すし、気に入らない人間は激しく口撃するし、海外には同盟国だろうが何だろうが高圧的だからだ。
トランプ大統領の発言ひとつで相場の状況はガラリと変わるので、もはやチャート分析は意味を為さないものになっている。チャートのパターンよりも、トランプ大統領の発言で状況が変わるのだ。それも、極度に大きく変わって、巨大なボラティリティが発生する。
このような状況の中で、FXで調子に乗ってレバレッジをかけていると、見込み違いが起きたとき、少しの変動でいきなり資産が吹き飛んでいくことになる。
一瞬で大儲けできる仕組みというのは、一瞬で大損失をこうむる仕組みでもある。相場が逆流すると、トレーダーは何年もかけて作った原資をあっという間に失う。
レバレッジが低くても、判断を間違ったら、財産が文字通り目の前で消えていくのをチャートで見つめることになる。多くの人がそこに至る前に、恐怖で損失を確定するだろう。
損しているのであれば、さっさと逃げればいいのではないかと普通の人は思うかもしれない。
だが、そこで逃げれば損が確定してしまう。もしかしたら相場は反転するかもしれない。耐えれば元に戻るかもしれない。この「もしかしたら」という一縷の望みと決断の遅れが、資産をリスクにさらし、ロスカット(強制決済)を呼ぶ。
逆に思惑通りに相場が動いたとしても、ぼやぼやしていたら急に相場が反転して儲けが絵に描いた餅のように消えるかもしれないので、長く持てずにすぐに儲けを確定してしまう。だから、相場を張る人の多くは、利益が少なく損失が大きいというパターンにはまり込む。
結局のところ、FXというのは為替の上げ下げをネタにした「丁半バクチ」なのであり、たいして高尚なことをしているわけではない。
種銭を持ってきて借金をして丁半バクチをしている博打打ちが、現代風な装いになっているだけに過ぎず、こんなところに出入りしてトレードしている人が投資家なのかと言われたら疑問が残る。
この鉄火場で生き残り、巨額の金を手に入れる賭神(ゴッド・ギャンブラー)もいる。宝くじに当たる人がかならずいるのと同じで、成功者はかならず存在する。だが、バクチはバクチでしかないのも事実だ。
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わずかなカネを握りしめてトレードに狂う
ギャンブルはゼロサムゲームだ。一部の人間だけが莫大な現金をすくい上げて、残りはまとめて資産を失う。つまり、勝者が莫大な富を保有し、それ以外は資産を根こそぎ剥がされるような強者総取りの世界となる。
しかし、それでもトレードの世界に入ってくる人は多い。普通に働いて生活していても劇的なことは何も起きないが、トレードの世界では「賭け」によって一攫千金を手に入れることができる「かも」しれないからだ。
まだ何も持っていない「無敵の人」も、FXや、株式の信用取引や、レバレッジ金融商品に一縷の望みを賭ける。
資本主義が極大化して「カネこそすべて」みたいな考えが蔓延するほど、そのようなトレードが盛んになっていく。レバレッジで没落する資産家の話はよく聞くが、実際は何も持たない人間が、わずかなカネを握りしめてレバレッジの高いトレードに狂う姿の方が多い。
彼らは「億り人になる」とか言ってトレードに明け暮れるが、こうした投機で勝てる人は1%以下だ。結局、99%は勝負に負けて始める前よりもひどい状態になる。
レバレッジの効いたトレードは、最初は理性を持って参加しているつもりでも、結局は上げ下げに反応して判断が狂い、ギャンブル的な賭けに飲まれて大半が破綻する。何度も言うが、勝てない人がいないわけではない。しかし、99%は負ける。
社会が二極分化して格差が際立ってくると、かならずギャンブルが流行する。カネに飢えている人間であればあるほど、よりギャンブルが魅力的に見える。それで、一発逆転ができると夢見る。ある意味、手軽な現実逃避のひとつとも言える。
だが、投機は人生を救ってくれることはないから、ほとんどの人々が見果てぬ夢だけを見て資金を吹き飛ばして終わる。
トランプ政権の4年間は、ボラティリティが極大化する4年間になりそうだ。とすれば、トレードで大きく儲ける1%の勝者と、すべてを吹き飛ばす99%の敗者が明確に分かれる時代になっていくのだろう。
