証券口座乗っ取り。不正取引件数1454件、被害金額954億円、自己責任で補償なし

証券口座乗っ取り。不正取引件数1454件、被害金額954億円、自己責任で補償なし

証券口座の乗っ取りが広がっている。乗っ取られたあとに国内株式が勝手に売却され、その資金で中国・香港の少額株式が大量に買われるケースが多い。IDもパスワードも取引パスワードも、すべて犯罪グループに知られ、好き放題に売買されていた。しかし、証券会社は自己責任を主張し補償を渋る。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

不正被害を完全に投資家側に転嫁する証券会社

証券口座乗っ取りによる不正取引が、2025年3月下旬以降、急激に増加している。乗っ取り被害が確認されている証券会社は1社ではない。楽天証券も、SBI証券も、野村證券も、SMBC日興證券も、マネックス証券も、松井証券も、大和証券も、大手は軒並みすべてやられている。

金融庁によると、これら7社における2月~4月中旬の不正取引件数は計1,454件、被害金額(売却・買付合計)は約954億円に上ると報告されている。

典型的な事例として、証券口座が乗っ取られたあとに国内株式が勝手に売却され、その資金で中国・香港の少額株式が大量に買われるケースが多い。IDもパスワードも取引パスワードも、すべて犯罪グループに知られ、好き放題に売買されていた。

にもかかわらず、ほとんどの証券会社は補償には積極的ではない。

証券会社は「当社に登録されたログインID及びパスワードとお客様が入力された情報との一致をもって本人確認をおこなう」と約款で述べている。そして、この本人確認によってなされた取引での損害または費用については「その責を負いません」と明記されている。

あるいは、「当社は会員ID・パスワード・取引暗証番号等の照合を確認した場合、取引注文等は正当なる利用者によってなされたものとみなす」「会員ID・パスワード・取引暗証番号の管理はお客様の責任においておこなうものとします」とある。

要するに、パスワード等が一致すれば正規の取引とみなし、その後の不正売買についてはいっさいの責任を否定する立場を示している。「お客様ご自身が入力したか否かにかかわらず、照合を確認しておこなった取引については責を負わない」というのが証券会社の基本的スタンスだ。

要するに、不正被害を完全に投資家側に転嫁している。

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プロが個人投資家の資金を巻き上げてきている

数千人が被害に遭い、被害総額も1000億円にのぼる「事件」なのだが、被害に遭ってもすべて自己責任とされる。投資家がどれだけ厳重にID・パスワード管理をおこなっていても、一度突破されれば全損となる。

不正アクセスにより口座残高がほぼゼロに近くなる事例も複数確認される。それでも、基本的には自己責任である。

それにしても、犯人グループはどのような手口で侵入しているのか。当初、「フィッシングメールにやられたのではないか?」と言われていた。

たしかにフィッシングメールで引っかかった人もいるのだが、どうやらそれだけでなかった。マルウェア、偽アプリによる情報窃取、さらには過去の流出ID情報を突合してのブルートフォース攻撃など多岐にわたる手口が使われている可能性がある。

つまり、犯罪グループは、使える手口をすべて駆使して個人投資家の資金を巻き上げてきているのだ。今、日本人の個人投資家は超危険なハッキンググループに狙い撃ちにされ、根こそぎやられていると言っても過言ではない。

プロの犯罪者グループに好き放題にカネを盗まれて、その場を提供している証券会社が「やられた本人の自己責任」と言って「監視する」とか「注視する」とかで数千件の被害を座視しているのだから、被害者もたまったものではないだろう。

証券市場全体への不信感が急速に拡大している。多くの被害者が「警察に相談しても証券会社が免責を主張して補償に応じない」と嘆き、金融庁あての苦情件数も4月だけで前年同月比300%増となっているのだ。

証券会社の「自己責任」免責姿勢は、もはや投資家保護の観点から許容できないレベルに達しているように見える。被害に遭っていない投資家も、気が気ではないだろう。

SNS上では「口座から勝手に株を売られた」「再入金してもまたやられるのでは」「これでは安心して口座を維持できない」という投稿がいっせいに拡散し、被害に遭ったと訴えるアカウント数であふれている。

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「二段階認証をしてもやられた」という声

楽天証券は4月中旬、「不正検知システムの監視を強化した」とのリリースを出したのみで、具体的な補償基準や再発防止策の詳細を示していない。松井証券も「お客様の声を踏まえ、システム改修を検討中」とだけアナウンスしたにとどまる。

顧客向けの電話窓口は数時間待ちが常態化し、問い合わせのほとんどが保留や折り返し対応となっている。金融庁は4月25日、関係金融機関に再発防止策を報告するよう指示したが、実質的な業務停止命令や罰則規定の適用はまだおこなわれていない。

こうした遅れは「被害発覚のたびに外部調査を理由に先延ばしする」「顧客補償を確定的に約束しない」という証券会社の姿勢に起因している。

結果として投資家は「証券会社も規制当局も守ってくれない」という絶望感を抱いている。自ら資金を引き揚げる動きが加速している。不正売買による被害総額954億円超という事実が示すように、いまや証券会社の対応の遅れは市場システムそのものを揺るがしかねない重大問題なのだ。

証券会社が不正取引抑止に真剣に取り組まない理由は、技術力がないからなのか、それとも短期的コストの増加を嫌う経営判断が優先されているからなのかは、議論の分かれるところだ。

いずれにしても、これを解決できないのであれば、市場信頼の失墜が顧客流出を招き、手数料収入の減少はより深刻な打撃となるだろう。証券会社は「とにかく多要素認証(二段階認証)を必須に」と言っているのだが、「二段階認証をしてもやられた」という被害者の声もある。

二段階認証とは、ログインID・パスワード一致後に、スマートフォンアプリやメールで送信されるワンタイムパスコードの入力を求める仕組みだが、これも突破されるということは、システム的にも抜け道がある可能性も大きい。

きちんと対策をして、かなり気をつけていても、被害に遭うのであれば、もう個人投資家はどうしようもない。自分の口座がやられないように祈るしかない。

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今、起こっている事態は想像以上に深刻な状態

個人投資家の中には、あまりインターネットやセキュリティの知識のない人も大勢いる。これは、当然のことだ。誰もがネットリテラシーがあるわけでもないし、誰もが高度にデバイスを使いこなせるわけではない。こうした人たちはどうしたらいいのか。

もし、何か起きたら自分には対応は無理だと思うなら、べつに無理して口座にカネを入れておく必要はないはずだ。

今は、証券会社が個人投資家を守ることができず、再発防止ができないか時間がかかり、警察も動かず、金融庁も無能で、政治家も危機意識ゼロのままという実に危うい状況である。

この惨憺たる有様を見て、保有する株をすべて売り払って現金化し、その現金を証券口座から引き出して銀行に戻す個人投資家もいると聞いたのだ。

それほどインターネットの世界に詳しくなく、自分の知識では防御が難しいと考えるのであれば、それは極端でも何でもなく、非常に有益な防御のひとつだと思う。誰も守ってくれないのであれば、自分で自分の資産を守るしかない。

いつになるのか知らないが、いずれ証券会社も何らかの有効な対策をしてくれると信じている。証券口座が安全になったら、そのときに戻ってくれば、たしかに危機管理にはなっている。

今はネットリテラシーがある個人投資家ですらも被害に遭っている。それこそ、私自身もいつ被害に遭うのかわからない。

今、起こっている事態は想像以上に深刻な状態であり、日本でパニックが起きていないのが不思議なくらいだ。今後も証券会社が太刀打ちできないのであれば、パニックは起こるのかもしれない。

トランプ政権による株式市場の変調や、犯罪者グループの資金巻き上げや、証券会社・金融庁・政治家の無能が重なっている。このまま状況が変わらないのであれば、2024年の新NISAからはじまった投資ブームなんか泡と消えていくだろう。

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