
長期投資・配当株投資はシンプルに思える。だが、投資信託の平均保有期間がだいたい3年くらいであるのを見てもわかるように、シンプルだからといって誰もができるわけではない。継続心を持つというのはなかなかできることではないのだ。誰もがすぐに結果が欲しい。カネが欲しい。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
長期投資は「何もしない」ことが最大の武器
長期投資や配当株投資は、市場の短期的な上下動に振り回されず、株式を数年から数十年にわたり保有しつづける戦略である。頻繁に売買するトレーディングとは対照的に、「何もしない」ことが最大の武器となる。
具体的には、安定的に利益を還元する企業を選び、値動きに一喜一憂せず放置することで、売買手数料やタイミングリスクを排除できる。たとえば、電力会社や生活必需品メーカーは、景気変動の影響を受けにくく、配当原資となる利益を比較的予測しやすい。
また、長期的に配当を受け取ることで、株価の上下による含み損や含み益に左右されず、定期的なインカムが得られる。
配当利回りが3%前後の銘柄を選べば、市場平均の上下にかかわらず、毎年安定した収入源が確保できるのだ。加えて、株価が一時的に下落した局面でも配当が支払われるため、心理的な安心感が得られやすい。
この安心感こそが、投資を継続するうえで不可欠な要素となる。
さらに、配当株を長期保有すると、増配することもあれば、配当再投資による複利効果も働き、資産は雪だるま式に増加する。仮に年間配当利回り3%、配当再投資だけで運用した場合、10年後には元本に対して約1.34倍の累積収益となる。
市場の上昇局面で売却益を得る戦略と比較しても、配当インカムを確実に積み重ねるほうがリスクを抑えつつ安定的に資産を増やせる。
すなわち、長期投資・配当株投資は「何もしない」こと自体を戦略とする。売買判断の煩わしさと市場タイミングの誤りを排除し、持ち続けることで得られる安定感と複利メリットを最大化できるのだ。
フルインベストの電子書籍版!『邪悪な世界の落とし穴: 無防備に生きていると社会が仕掛けたワナに落ちる=鈴木傾城』
必要なのは予測ではなくて、対応なのだ
長期投資でもっとも重視すべきは「長く継続すること」である。とくに配当株投資では、受け取った配当金をそのまま再投資することで、複利効果が加速的に働き、資産が着実に増大する。
たとえば、年間配当成長率を年5%と仮定し、受け取った配当をすべて再投資しつづけると、10年後には当初元本の約1.63倍もの累積配当を享受できる。きちんとした企業を選択していると増配もあるので、実際には配当はもっと増える。
さらに長期投資では、株価が一時的に下落した局面こそが再投資の好機にもなる。
株式市場の暴落はほとんどの投資家にとっては苦痛だが、配当株投資をしている長期投資家はそうではない。市場全体が一時的に10%~20%下落した場合、多くの株式を取得でき、回復局面でのリターンをより大きくできる。
とは言っても、市場を予測する必要はまったくない。ドルコスト平均法(定期的な再投資)をおこなっておけば、相場に張りつかずとも下落したら必然的に大目に買えるからだ。
人為的にやりたい場合は、相場が上がっているときに薄く売って現金を保有しておいて、暴落がきたタイミングで資金を多めに投じればいい。相場の予測はまったく必要なくて、単に暴落がきたらきちんと対応すればいい。必要なのは予測ではなくて、対応なのだ。
通常、配当株は株価変動が比較的小さい傾向がある。そのため、高配当株を保有しておけば、市場全体の急激な下落でもポートフォリオの下落幅を抑えられるという効用もあったりする。
加えて、長期的に配当を受け取ることで、インカムゲインとキャピタルゲインのバランスがとれたポートフォリオを形成できる。
安定成長銘柄だけでなく、連続増配実績を持つ銘柄を組み合わせることで、市場の荒波にも耐えうる強固な投資戦略となるのだ。
『邪悪な世界のもがき方 格差と搾取の世界を株式投資で生き残る(鈴木傾城)』
長期保有はシンプルだが誰もできない理由
長期投資・配当株投資はシンプルに思える。だが、投資信託の平均保有期間がだいたい3年くらいであるのを見てもわかるように、シンプルだからといって誰もができるわけではない。継続心を持つというのはなかなかできることではないのだ。
継続心を欠く投資家には思わぬ落とし穴がある。もっとも典型的なのは、市場が下落すると恐怖から売却し、結果として含み損を確定してしまうケースだ。一度手を離すと、回復局面でのリターン機会を永久に失う。
この心理的バイアスは投資初心者ほど強く、せっかくの長期戦略が台無しになる。
「もらえる配当額が少ないから意味がない」と短絡的に判断し、配当を軽視する投資家も多い。5%の配当銘柄では1000万円だと年間50万円の配当が入るが、10万円だと5000円でしかない。5000円は人生を変えるような価格ではない。
そのため、少額のうちは配当をもらっても、さほど重要には思えない。だが、10万円が100万円になり、100万円が1000万円になっていくと、5000円が50万円になっていくわけで、配当の威力がわかってくる。
初期段階の小さな配当額に一喜一憂して売買をくり返すと、複利効果を最大化できないのだが、投資額が小さいうちは、往々にしてそういうことをしてしまう。
さらに、よくある失敗として「高配当銘柄=安全」と誤解し、財務状況の悪い企業に飛びつくケースだ。高配当を維持するために無理な借入や資産売却をおこなう企業は、業績悪化時に減配リスクが高い。
以前、フォードを取り上げたことがあった。フォードは現在6%近い配当利回りを提供しているのだが、それでも飛びつくのはリスクがある。(ダークネス:安値で放置されて高配当でもフォード・モーターを買うのは躊躇してしまう理由)
株価下落だけでなく、配当カットのリスクまで背負い込むことになり、かえってリターンを損なう可能性もあるのだ。
こうした失敗を避けるには、銘柄選定基準を明確にしたうえで「何もしない」姿勢を貫く必要がある。継続できない人は、市場の雑音や短期的リターンに惑わされ、長期的な視点を失いやすく、長期投資に失敗する。
『亡国トラップ-多文化共生- 多文化共生というワナが日本を滅ぼす(鈴木傾城)』
「何もしない」というのは難しいことなのだ
性格的に長期投資・配当株投資に向いている人と向いていない人がいると思う。もともと「忍耐力」が強い人とそうでない人がいると思うのだが、長期にひとつの株を継続して保有するのは、忍耐力が強い人のほうが有利に決まっている。
何かしないでいられない人は、いくら理屈で「長期で保有すべきだ」と言われても、じっとしていられない。どうしても、保有株をいじくり回して売買してしまう。これはもう性格というしかない。
もうひとつ、「感情のコントロール能力」ができるかどうかも長期投資できるかどうかに深くかかわってくる。現在は情報過多の時代だ。数秒ごとに、SNSやニュースで新しい見出しが入ってくる。
中には、心をざわつかせるような内容もある。「大暴落がくる」とか「専門家がこの株は下がると言っている」とか「売上は大幅下方修正の見込み」とか「利上げする」とか「地政学リスクが高まった」とか何とか、これでもか、これでもか、と悪材料が噴き出てくる。
私はコカコーラやペプシコを、それこそリーマンショックのあった2008年頃から保有しているのだが、その間、これらの株式は悪材料や不穏な噂の連続だった。今でも、事あるごとに先行きを不安視させるような材料が出てきている。
こうした見出しに踊らされていると、長期保有なんか1年も無理だろう。確信があった株式について自己判断を貫ける人は、よけいな売買を避けられる。怒りや恐怖、欲望といった感情が投資判断を曇らせないことこそ、長期保有の成功条件だ。
言うのは簡単だ。しかし、実際に実行してみれば、長期投資家いかに難しいのかがわかってくる。「長く続ける」「積み上げる」というのは、簡単にできるようで、なかなかできないことなのだ。
すぐに結果を出したい。今日買って1時間後には結果が欲しい。10年後が何とかではなくて、今すぐにカネが欲しい。だから、誰もが短期的なトレードに走って、長期投資を完成させることができない。
「何もしない」というのは難しいことなのだ。
