破壊的イノベーションに投資しても、かならず儲かるわけでも勝てるわけでもない

破壊的イノベーションに投資しても、かならず儲かるわけでも勝てるわけでもない

破壊的イノベーションと騒がれても、それが本当に世の中を変えられるのかどうかは、後になってみないとわからない面もある。大きく騒がれて、その後に消えてしまった企業も山ほどある。また時代が暗転したときも悲惨なことになる。破壊的イノベーションに投資しても、かならず儲かるわけではない。(鈴木傾城)


プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)

作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com

それがかならず利益に結びつくかは未知数だ

破壊的イノベーションに投資するというのは興奮するテーマだ。破壊的イノベーションは、市場や産業構造を根底から変える可能性を秘めている。そうすると、破壊的イノベーションで市場を攻めている企業は次の時代の寵児になるのではないかと投資家は誰でも考える。

既存製品やサービスが一瞬で陳腐化し、新たな価値が短期間で普及するのだ。その瞬間をうまくつかまえれば、投資家には巨大な利益機会が訪れる。

コンピュータの時代がきてMicrosoftが巨大企業になったように、スマートフォンの時代でAppleが巨大企業になったように、クラウドの登場でAmazonが巨大企業になったように、SNSの時代でMetaが巨大企業になったように、次の破壊的イノベーションは、まだ無名の小さな企業を巨大企業に押し上げるかもしれない。

こうした劇的な変革は競争環境をいっせいに一変させ、急先鋒に立つ企業の株価を急騰させる。だが、それがかならず利益に結びつくかは未知数だ。場合によっては「食わせ者」企業である可能性すらもある。

それで思い出すのが「ニコラ・コーポレーション」である。2014年に創業した企業だったが、電動・燃料電池トラックという未開拓市場を狙い、スタートアップとして注目を集めた。

2020年6月にはSPACとの合併で上場を果たし、創業者による派手なデモ動画や大手企業との提携⾔及を背景に、時価総額は一時はフォードを上回る規模にまで膨れ上がっていった。

しかし、急速な成長の陰では製品化の遅延や技術実績の不足が目立った。とりわけ2020年9月には空売りファンドによる「詐欺疑惑」レポートが公表され、これが致命的な打撃となった。

創業者も2021年に証券詐欺で起訴・有罪判決を受け、企業の信用は急落し、上場維持すら困難になって消えていった。

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約束を果たせずにフェードアウトする企業も多い

そういえば、「セラノス」という企業も破壊的イノベーションの旗手としてマスコミに騒がれていた時代もあった。この企業はわずか数滴の血液で数百種類の検査が可能と謳われた血液検査スタートアップだった。

創業者エリザベス・ホームズ氏のカリスマ的な演出と巨額の資金調達により、時価総額は90億ドルを超えた。彼女は「女性版スティーブ・ジョブズ」として脚光を浴びてスターのような扱いをされていたものだった。

ところが、その技術は実証されず、内部告発と調査報道によって検査結果の信頼性が大きく揺らいだ。最終的に2022年に事業清算を余儀なくされ、投資家や患者に多大な損害を残した。

破壊的イノベーションと騒がれても、それが本当に世の中を変えられるのかどうかは、後になってみないとわからない面もある。

初期段階では派手なデモや大手企業との提携発表が注目を集めるが、実際の普及速度や収益化の実績が伴わないケースが少なくない。技術的なハードルや規制、市場の受容性といった要因が重なり、当初の約束を果たせずにフェードアウトする企業も多い。

たとえば、新素材やAI活用のプラットフォームが期待されたものの、採算性や信頼性の問題で事業継続が困難になった例は枚挙にいとまがない。破壊的と騒がれた時点で成功は約束されず、過大評価は後の失望を招き、株価はめちゃくちゃに売られる。

もし、破壊的イノベーションに投資すれば爆発的に資産が増えるのであれば、こうした分野に大きく投資しているキャシー・ウッドは世界最強の投資家として世の中に君臨していただろう。

現実はそうなっていない。キャシー・ウッドの旗艦ファンドであるアーク・イノベーションETF【ARKK】なんかは何年も停滞したまま推移している。結局、「退屈な企業」を大量に取り込んだS&P500連動ETFと比較しても完全に劣後してしまっている。

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S&P500連動ETFへの投資は、いつでも合理的

破壊的イノベーションへの投資が意味がないと言っているわけではない。キャシー・ウッドのファンドにしても、また状況が変わってブームが戻ってきたら、S&P500を超えるパフォーマンスを叩き出すかもしれない。

しかし、ブームが戻って来ない可能性もあるわけで、そのあたりは何も確約されていない。そう考えると、別に無理して破壊的イノベーションの企業を探し出してリスクを負って投資しなくても、普通にS&P500連動ETFでも買っておけば楽だ。

S&P500連動ETFへの投資は、いつの時代でも合理的な選択だ。

市場全体の成長を幅広く取り込むことで個別銘柄のリスクを分散できる。特定の成長株が衰退した場合でも、他の優良企業の上昇が損失を相殺する。その年の状況によって「攻めたほうがパフォーマンスが良い年」もあれば「守ったほうがパフォーマンスが良い年」もある。

社会情勢が悪化して人々が守りに入るような時代になったら、破壊的イノベーションに投資するような精神的な余裕がある人が消えて、それとは対極にある資産防衛株が買われるような局面もある。

たとえば、生活必需品セクターなんかはその典型的な例だ。食品・日用品メーカーや医薬品メーカーは、消費者の生活必需品を供給するため、景気後退局面でも売上が大きく落ち込まない。公共性が高いユーティリティや通信インフラも資産防衛株の代表格でもある。

そういう銘柄は「退屈な銘柄」である。持っていて興奮することもない。だが、世の中が暗くなり、不況に怯え、社会的な低迷が長引く時期でも、これらの業界はしっかりと利益を出し、高配当を出し、資産を守ってくれるのだ。

破壊的イノベーションを標榜する企業は、ほとんどが配当ゼロである。社会が低迷したら、株価も長期で低迷するが、そのあいだは耐えるしかない。耐えて報われればいいのだが、報われない可能性もある。

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どういう時代でもしたたかに生き残るのがコレ

S&P500連動ETFがなぜ破壊的イノベーション企業や、それのみで構成されたETFに勝てるのかという理由がここにある。

S&P500連動ETFは、生活必需品やヘルスケア、ユーティリティ、テクノロジーなど多様な業種をすべて網羅している。そのため、社会情勢が悪化して投資家が守りに入る局面でも、資産防衛株によって下支えされ、さらに状況が変わったときには成長株の上昇ポテンシャルをいち早く享受できるのだ。

このバランスがS&P500連動ETFの優位性を際立たせているともいえる。

ちなみに、このS&P500連動ETFはいくつかあるのだが、主な銘柄としてはて【VOO】(Vanguard S&P500 ETF)、【SPY】(SPDR S&P500 ETF Trust)、【IVV】(iShares Core S&P500 ETF)が挙げられる。

【VOO】は2010年に設定され、運用資産残高は数兆円規模、信託報酬は0.03%程度と低廉である。【SPY】は1993年設定の歴史あるETFで取引量がもっとも多く、流動性に優れている。【IVV】は2000年設定で信託報酬は0.04%程度、運用効率が高い。

これらは高い連動精度をもち、500社にいっせいに分散投資できるため、個別銘柄の急落リスクを抑えつつ市場平均利回りを追求できる。これをドルコスト平均法である定期的に定額を積立するように投資する方法と組み合わせることで、長期的に勝てる投資が完成する。

私自身は、アメリカのトップ500を網羅したS&P500連動ETFではなく、米国株式市場のほぼすべてを網羅した全米株式ETF【VTI】をポートフォリオのコアにしているのだが、考えかたはS&P500連動ETFと同じだ。

社会がどのように転がろうが、好況だろうが不況だろうが、どういう時代でもしたたかに生き残るのがS&P500連動ETFである。破壊的イノベーションへの投資は、社会が暗転したときには生き残りに苦労する。そのあたりを憂慮して私はてを出さないでいる。

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