
私が見たところ、知的レベルが高い人のほうが長期投資に失敗する確率が高いように思う。知的レベルが高ければ高いほど、情報の取得能力も、分析能力も、行動力もある。これらの3つはすべて「投資の自動化」よりも「投資のタイミング」を刺激するものとなる。それが問題なのだ。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
リスクを抑制するのがドルコスト平均法
ドルコスト平均法とは、定期的に定額を積立するように投資する手法である。長期投資と、このドルコスト平均法は相性が良い。
なぜなら、購入を分散することによって高値づかみを防げるからだ。あと、株式市場が下落したら、株数を多く買えるので買い値を下げていくことができる。
ドルコスト平均法を使って毎月1万円を同じ投資信託に投入し続ける場合、市場価格が高い月は少ない口数、安い月は多い口数を自動的に購入することになる。これによって価格変動の波を平準化できる。
一度にすべてを一括投資すると、たまたまそこが高値だった場合、精神的にも大きなダメージを食らう。そうしたリスクを抑制するのがドルコスト平均法だ。
誰でも高値で全額を使いたくない。しかし、株価はランダムでありどこが高値なのかはわからない。だから、定期的に定額を積立するように投資していけば、買い値を分散できて高値づかみを避けていくのだ。
この手法で投資すると、価格が急落したときに買い増しした資産がその後の回復局面で高いリターンをもたらし、結果として運用利回りを押し上げることになる。暴落局面でも買い続けることでリターンが累積しやすくなる。
もちろん、長期で積み立てるのであれば、確実性の高い金融商品を選ぶのが一番いい。そこで選ばれているのが個別株ではなくS&P500連動型ETFや、全米株式に連動するETFである。具体的にいうと【VOO】や【VTI】がそれになる。
【VOO】や【VTI】は、その商品自体が分散が効いている。そこにドルコスト平均法という分散も入れる。つまり、商品も買い値もすべて分散するのだから二重の意味で分散が効く。
これほど「やられない投資」はない。
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投資は「儲ける」の前に「生き残る」ことが重要
よく、市場を予測して投資タイミングを計っている人がいるのだが、そういう人はかならず早々に失敗する。なぜなら、どこが高値でどこが底値なのか、誰にも予測できないからだ。
最近では、トランプ大統領の言動ひとつで相場が上にも下にも揺れ動いているのだが、相場の動きというのは明らかにランダムなものだ。
ドルコスト平均法には予測は必要がない。そこがタイミングを計る投資と違って素晴らしいところだ。相場の上下を予測せず、価格が高い時も安い時も同じ金額を投じることで、買い値を限りなく平均値にしていく。
市場タイミングを計る必要がないため、「いつ買ったらいいのか」という迷いがない。定期的に「買うと決めた時」がきたら買うだけだ。機械的にそれをおこなう。それによって感情的は判断は、いっさい排除される。
「そんなことをしたら相場が高値を追っているときも買うことになるのだから損だ」という人もいるかもしれない。相場が下落しているときも「もっと下落する可能性があるのだから、そういうときは買わないほうがいいのではないか?」という人もいる。
そうではない。相場が高値を追っていても、それは上昇相場のはじまりでもっと高値圏にいくかもしれない。下落すると思っていたら、意外に持ちこたえて後は上にいくかもしれない。
株価の動きはどうなるのかわからないのだ。だから、ドルコスト平均法で機械的に買い続け手法が威力を発揮する。意志決定のプロセスを排しているので、よけいなバイアスがかからない。感情に振り回されない仕組みになっている。
投資期間を長く設定するほど価格変動の分散効果は高まっていき、大きな損失を避けることができる。投資の現場では、無茶なことをして一文無しになってしまう人や、大損してしまう人が山ほどいる。
投資は「儲ける」の前に「生き残る」ことが重要なのだが、ドルコスト平均法はしたたかに生き残るための重要な戦略なのだ。
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ドルコスト平均法は「万能」ではない?
もちろん、ドルコスト平均法は「万能」ではない。「生き残る」ために捨てなければならないこともある。これを継続すると、けっして高値づかみにならないのだが、逆に言えば底値を買うこともできない。つまり、「底値で買う」という考えかたは捨てなければならないのだ。
底値を予測せず、上昇局面でも買い続けるために、底値で買った人に比べるとリターンが劣後する。明らかに相場が安いときでも「定額」しか資金を投入しないので、ここで大きく買った人に比べても、やはりリターンが劣後する。
しかし、よくよく考えたら、これもしょせんは予測した結果の話であって、本当に上昇相場だったのか、低迷相場だったのかは、その時点では「わからないこと」であることに気づかなければならない。
結末はひとつかもしれないが、予測の時点では無限の可能性があった。もしかしたら、間違った予測で大損していた可能性もあったのだ。
ドルコスト平均法のもうひとつの問題点は、この手法は「長期にわたる継続した投資」が前提であり、「短期的には利益を保証しない」ことだ。
S&P500連動ETFなどは「10年以上保有すれば元本割れ率は10%以下に低下する」かもしれない。だが、1年程度の短期運用では、しばしば元本割れが発生する。
たとえばリーマンショックの前にドルコスト平均法でS&P500連動ETFを買っていたら、元本割れから脱するのに2年近くかかったはずだ。
運が悪ければ、そういうこともある。だから、投資開始時に「最低10年は続ける」期限を最初から考えて投資し続けないと成果がでない。長期投資をするという前提と覚悟があって、はじめてドルコスト平均法は機能する。
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知的レベルが高い人のほうが失敗する?
ドルコスト平均法は「いつ買うか」ではなく「いかに定期的に買い続けるか」が鍵である。定期的というのは、どれくらいのスケジュールを設定したらいいのだろうか。毎週買うという人もいれば、二週間に一回買うという人もいれば、1か月に一回買うという人もいる。
そのあたりは自分で設定したらいいと思うが、あまり細かくおこなうと手数料が累積し、運用利回りを圧迫することもあるので、私自身は月1回が自然なバランスではないかと考えている。
あとは、どれくらい長く継続することができるのか、という点がもっとも重要である。ここからは、知的レベルの問題ではなく忍耐力の問題となる。
S&P500連動ETFでの投資であれば、私なら最低でも10年、理想で20年以上が必要であると思っている。とにかく、ドルコスト平均法は市場の長期的な成長を前提とした手法であり、それくらい時間をかけないと意味がないのだ。
一時的な下落局面では含み損が膨らむ時期もあるが、長い投資期間を確保することで価格変動の平準化効果が最大化し、平均取得単価が真価を発揮する。半年や一年程度では、相場サイクルの波に翻弄されるだけで、リスク分散の恩恵を享受できない。
ほとんどの人が長期投資できないのは、知的レベルが低いからではなく、忍耐力が低いからだ。私が見たところ、知的レベルが高い人のほうが長期投資に失敗する確率が高いように思う。
知的レベルが高ければ高いほど、情報の取得能力も、分析能力も、行動力もあるわけで、これらの3つはすべて「投資の自動化」よりも「投資のタイミング」を刺激するものとなるからだ。
投資して、毎月ドルコスト平均法で買う設定をしたら、あとは口座を持っていることすらも忘れてしまうくらい相場を見ない人のほうが逆に大きな資産を残すことになるのだと私は思っている。(ダークネス:長期投資をするなら、プロでもない限り毎日株価を見ないほうがいいかもしれない)
ドルコスト平均法は簡単そうに見える。しかし、実際は3年も持たない人のほうが多い。退屈だからだ。大半の人はすぐに成果が見えないとじれったくなって、相場の上がった下がったで刺激を求めて去っていく。
