
プルデンシャル・ファイナンシャル【PRU】は高配当株のひとつでもある。株主重視を重視しており、2008年以降17年連続で年間配当を増加させ、長期的な配当成長を約束している。それを考えると、少し経営が苦しくなった程度では容易に配当を下げたり切り捨てたりはしない可能性が高い。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
プルデンシャル・ファイナンシャル【PRU】
プルデンシャル・ファイナンシャル【PRU】は、日本人にはあまり馴染みがない企業かもしれない。米国ニュージャージー州に本社を置く名門中の名門の金融サービス企業で、日本でもプルデンシャル生命保険株式会社として生命保険商品を販売している。
だが、国内大手生命保険会社のほうがテレビや駅広告などで露出が多いので、プルデンシャルの知名度はそれほどでもないと思う。ただ、この企業は高配当株として配当利回りの高さや増配実績が評価されており、長期投資家の注目度は高い。
現在の配当利回りは約5.0%前後。たしかに注目に値する。
株価は約107.40ドルほどで推移しているのだが、直近の年間配当は1株あたり約5.30~5.40ドルとなっている。これだけ配当利回りが高いのは、株価の伸び悩みも理由だったりするのだが、だからこそインカムを重視する投資家にとって魅力的である。
プルデンシャルは、ただ配当利回りが高いだけではない。増配もおこなっていて、過去5年間の増配は平均約4〜5%となっている。
2025年第1四半期決算時には1株1.35ドルの四半期配当が支払われており、これは同四半期の調整後簿価純資産に対して5.6%の利回りに相当すると報告されている。配当水準は極めて高く、株主還元の姿勢が強いことがうかがえる。
ただ、高配当なわりには剰余金が少なく、運用リスクなどもあったりして、景気が悪化したときは高配当を維持できなくなる可能性もゼロではない。保有流動資産や増資・借入などで補っても限度がある。
この点はリスク要因であり、景気後退時や金融市況変動時には配当維持が難しくなる恐れがある。
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プルデンシャルは株主重視を重視している
プルデンシャルの財務面の基盤は比較的強固だ。主力の米国事業は格付け機関から投資適格は「A」クラスと評価されており、証券ポートフォリオも耐久性を重視した運用がなされている。
配当支払だけでなく、2025年通期も総額最大10億ドルまでの自社株買い枠を設定して株主還元を支援する方針を発表している。
短期的には、潤沢な資金で配当を維持してくれる確約はあるのだが、長期的な観点ではやや心もとない感じがする。業績環境が悪化した場合には、配当を引き下げるかもしれない。
ただ、プルデンシャルは株主重視を重視しており、2008年以降17年連続で年間配当を増加させ、長期的な配当成長を約束している。それを考えると、少し経営が苦しくなった程度では容易に配当を下げたり切り捨てたりはしない可能性が高い。
2013年、2020年、2022年は当期純利益がマイナスだったのだが、それでもプルデンシャルは配当を維持していた。経営陣も2025年第1四半期の決算説明で「17年連続増配」を強調し、配当と自社株買いによる株主還元を重視しつつ業容成長を図る姿勢を打ち出している。
増配率は直近10年で年平均約4%程度と比較的穏やかだが安定している。過去5年間で約3.8%の増配が確認されている。
今後もこの増配を続けていくのであれば、企業的にも利益成長していく必要があるのだが、最終利益が前年比で増加し、営業利益もわずかに上昇しているので、事業に継続性があるのは見て取れる。
主力の投資運用部門(PGIM)は資産運用残高が増加し、運用手数料収入が増大している。2025年第1四半期決算では税引後営業利益が前年同期比増益となり、総資産は前年から上積みされ、帳簿価値も前年比で約11%増加した。
経営陣は「高い財務体質を活かしつつ長期成長を目指す」としており、年150周年を迎える2025年も堅調な売上拡大と株主還元の両立を図る方針だ。
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景気が悪化するのであれば高配当維持がキツい
同業の保険会社と比較すると、プルデンシャルの特徴が浮かび上がる。たとえば大手MetLifeは過去5年の増配率約4.1%、現在の配当利回り3%台、配当性向28%程度とされている。アフラック【AFL】やメットライフ【MET】の利回りは2~3%台と低い。
これらと比べると、プルデンシャルの17年連続増配は業界上位の記録であり、5年平均約5.2%の増配率も保険株としては高めだ。それを見ても、保険業界で高配当銘柄を拾いたいのであれば、プルデンシャルは候補の筆頭になる。
現在の株価はPBR約1.3倍、予想PER約7.8倍と割安感が強く、市場評価上は低迷気味にあるのだが、その一因は収益変動リスクや景気感への懸念が反映されているからだ。
もし、景気が好景気に向けて発進していくのであれば、株価の上昇余地が大きい可能性もある。しかし、景気が悪化するのであれば、保険・金融セクターはまともにダメージを食らう。
株価はもっと沈んで低迷し、増配も配当も厳しくなっていくので、そのあたりのリスクをどう取るのかが重要になってくる。
このプルデンシャルだけの問題ではないのだが、トランプ政権2.0下での関税政策は、米国経済全体に下押し圧力をもたらしており、保険・金融セクターも例外ではなく影響を受けている。
もし、トランプ大統領の気まぐれで高飛車で朝令暮改な政策によって経済成長が鈍化するようであれば、保険・金融セクターにとっても逆風となる。
経済成長の減速は、企業や個人の資産形成・保険需要の減少につながりやすいし、プルデンシャル自身の金融商品の販売や運用収益も悪化してしまうからだ。トランプ政権は保険・金融セクターにとっては基本的には良くない政権なのだ。
その政権が4年続くのだから、経営も株価も低迷するか悪化することも考えておかなけばならない状況だ。
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意識して避けているわけではないのだが……
そう言えば、バフェットの運営しているバークシャー・ハサウェイは別にして、純粋な保険企業に長期投資する投資家はあまり聞かないのだが、私自身も金融・保険企業で長期投資をしたいというモチベーションがあまりない。
意識して避けているわけではないのだが、あまり食指が動かないのはたしかだ。
保険企業は悪いビジネスではない。保険会社は契約者から受け取った保険料をプールし、その資金を主に債券で運用して利益を獲得する。運用期間が長期にわたるほど資本効率が高まりやすく、安定的なキャッシュフローを生み出しやすいモデルである。
黙っていても現金が入ってくるビジネスは、何にしろ素晴らしい。
しかし、金融・保険セクターは長期金利の動向には非常に敏感で、その企業の経営努力よりも長期金利に経営状況が左右される。そのあたりが、好きになれない点かもしれない。
何というか、経営以前に、FRB(連邦準備銀行)の大きな力によって無理やり従わざるを得ないような悲哀のようなものを感じてしまって、その感覚がどうも自分には合わないような気持ちになる。
権力を持った上司が常に上にいて、その上司の言動次第で運命が決まるような、そういう感じだ。長期金利を決めるのはFRBであり、いったんそれが決められたら、その瞬間に自分たちは為す術もなく利益が落ちたりして、それに耐えなければならない。
実際には、そうした政策金利の変更を見越した経営をしているのだが、経営の主導権を司るFRBという「上司」がいるという構図がひどく居心地が悪い。これは単に私の個人的な感覚でしかないので、どうでもいい話なのだが、それでこれまで金融・保険業界にはあまり関心が向かなかったようにも思う。
プルデンシャルに関しても、そうした無意識が働いているので、高配当株だからといっても欲しいとは思わないのだが、もしかしたらそういう感情がないのであれば、それはそれで配当株投資としては良い銘柄なのかもしれないと思ったりもする。
引き続き、注目はしている。
