
石油は「もう時代遅れ」「環境にも悪い」「これからはクリーンエネルギーの時代」と言われて続けている。現在、バフェットのオキシデンタル石油への投資に関しては、否定的な論調のほうが強い。だが、バフェットは臆していない。バフェットは、短期的な世論や流行に流されることがない。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
世間の「石油離れ」ムードを根拠のない幻想
石油は「もう時代遅れ」「環境にも悪い」「これからはクリーンエネルギーの時代」と言われて続けている。今後、間違いなく縮小していく業界でもある。だが、長期投資の覚悟があるのであれば、この石油関連セクターは面白い分野だと思う。
いくつか高配当株があるし、連続増配銘柄もある。私が地道に増やしていこうと思っている銘柄のひとつにシェブロン【CVX】もあるが、このシェブロンも38年連続で年間配当を増加させている企業のひとつである。
石油株といえば、ウォーレン・バフェットもバークシャー・ハサウェイを通してオキシデンタル石油やシェブロンを保有し、かなり石油セクターにコミットしているのはよく知られている。
たしかに、世界は再生可能エネルギーや脱炭素社会の実現に向けて急速に進んでいるのだが、バフェットは「石油は、いまだに世界経済に不可欠な資源であり続けている事実に注目している」と述べている。
「エネルギー転換が短期間で完了することはない」
これこそがバフェットが石油に投資する大きな理由である。航空業界や貨物輸送、農業分野では、代替可能な技術や燃料がいまだに十分普及していない。
さらに、石油は単なるエネルギー源としてだけでなく、化学製品やプラスチック、肥料、そして工業材料など、幅広い産業の基盤を支えている。この多面的な利用が、石油の需要が消えない最大の要因だ。
バフェットは、エネルギー需要の実態や技術の普及スピードを冷静に見つめ、世間の「石油離れ」ムードを根拠のない幻想とみなしている。つまり、投資として石油株はまだ十分にリターンが見込めると考えていることになる。
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石油の消費は今後数十年単位で徐々にしか減少しない
バークシャー・ハサウェイは、オキシデンタル石油の株式を段階的に買い増しているが、すでに保有株は2億5000万株を超える水準に達したことが各種の証券取引委員会(SEC)提出資料や金融メディアで報じられている。
これは、オキシデンタル石油の約28%前後に相当するものであり、バークシャーの投資ポートフォリオの中でも上位に位置する大きな投資先でもある。
現在、バフェットのオキシデンタル石油への投資に関しては、否定的な論調のほうが強い。だが、バフェットは臆していない。バフェットは、短期的な世論や流行に流されることがない。
オキシデンタル石油に関しても、短期的な変動や脱炭素トレンドによる一時的な悲観論に振り回されることなく、実際の需給構造、資源の物理的・経済的な代替困難性に着目して投資を継続している。
「石油の消費は、今後数十年単位で徐々にしか減少しない」とバフェットは述べる。
短期的な石油価格の変動や規制強化のニュースが相次いでも、バフェットはそれを投資判断の根拠にはしない。むしろ、そのような混乱こそが優良企業を安く手に入れる好機と見ている。
それでは、石油価格に関しては、バフェットはどのように考えているのか。興味深いことに、バフェットは「石油価格はどうなるのかわからないので、予測不能なものを予想しない」と明確に述べている。
「それは誰にも正確に見通すことはできない」
「商品価格の先読みはしない」
「エネルギー価格の将来を予想して投資はしない」
石油の価格が上がるか下がるか、経済成長がどうなるかといった短期的な要因よりも、優れた経営陣と安定したキャッシュフローを生み出すビジネスモデルを持つ企業に資本を投じてリターンをじっくりと手に入れるスタンスがバフェットにはある。
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短期的な市場のノイズに惑わされない胆力
バフェットはオキシデンタル石油やシェブロンといった米国の大手石油企業に巨額投資をおこなっているが、その理由は単純な石油価格の上昇期待ではない。両社は景気変動の影響を受けやすいエネルギーセクターに属しながらも、安定した配当政策や財務体質、業界トップクラスのコスト競争力を有している。
そのため、これらの企業が長く生き残れば生き残るほど、長期的に見ると他社が太刀打ちできないほどの「堀」を持った企業になると考えている。
この長期のスタンスを支えるのが株主還元だ。石油メジャーの多くは高い配当利回りを誇り、自社株買いも積極的におこなっている。これらの施策は、不透明な時代においても株主に安定したリターンをもたらす。
その典型が38年連続で増配しているシェブロンだといえる。
ただ、石油セクターはボラティリティが非常に激しく、グローバル経済や、国際政治や、政治的要因で、暴騰暴落を繰り返しやすい。エネルギー価格の急落や業界全体の不安が高まる局面では、多くの投資家がパニックに陥って持ち株を売却する。
バフェットが石油株を好むのは、もともと、そうした短期的な市場のノイズに惑わされない胆力があるからだろう。さらにバフェットは「逆張り投資」も辞さない。市場が悲観的なときこそ、本当に強い企業を安く買うチャンスと考えている。
それを考えると、石油株はバフェットにとってはチャンスが多いセクターである。流行や市場のノイズに流されず、誰もが見捨てているときに安値を拾って長期で保有して収穫を得る。
こうした逆張りに近い投資ができる投資家はかなり少ない。ほとんどの投資家は、流行や市場のノイズに流され、石油セクターは「時代遅れ」との指摘に動揺してそこから離れてしまう。
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永続的な競争優位性がそこにあるかどうか
バフェットの投資は「永続的な競争優位性がそこにあるかどうか」で決まる。あると考えれば永遠の保有になるし、競争優位性を失ったと考えれば売却する。
私自身はそこまでオキシデンタル石油やシェブロンに確信しているわけではないのだが、シェブロン【CVX】に関しては高配当であることから強く関心を持っている。
シェブロンについては、こちらでも取り上げたとおりだ。(ダークネス:トランプ政権は長期で混乱を引き起こす。配当株シェブロンを握って高みの見物?)
現在、シェブロンの配当率は4.8%であり、もっと下がるのであればもっと増やしたいとも考えている。その理由は、「38年連続増配という驚異的な実績」を評価しているからだ。
38年連続増配というのは尋常ではない記録でもある。米国市場でもごく一部の「配当貴族」しか達成できていない。直近のインフレや金利上昇局面でも安定したキャッシュフローを株主に還元して安心感がある。
加えて、エネルギー業界におけるシェブロンの資本効率の高さと堅実な財務体質は際立っており、世界有数の石油・ガス企業として景気の変動や原油価格の乱高下にも耐えうる経営力を備えている。
さらに、積極的な自社株買いや着実な成長戦略もあって、石油価格がどうなろうと、世間の評価がどうなろうと経営が崩れる要素がない。高配当株投資家にとって、シェブロンは「長期保有に最適な安定成長型の理想的な投資先」と断言できる。信頼性、配当実績、経営の堅牢さのすべてが揃っている。
それなら、ひとまずは混乱と不透明感を巻き起こしているトランプ政権のあいだはシェブロンを保有して高配当を手にして相場を高みの見物でもしておくのは悪い考えではない。
4年後はバフェット率いるバークシャー・ハサウェイが、シェブロンをどのように考えているのかも興味深い。4年後にふたたび検証してみたいと思う。
