
AIの急速な普及は、これまで「安定職」と呼ばれていた業種にも深刻な打撃を与えている。実際、消える仕事の範囲と規模は急速に拡大しつつある。今後、私たちが生き残るためには、どこまでAI社会に自分を適応させることができるのか、それが問われるようになっていく。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
「人員削減」の道具としてAIが使われている
AI技術の進化は、長年にわたり企業の効率化や生産性向上を目的に語られてきたが、ここ数年でその本質が劇的に変化したように思う。効率化ではなく「人員削減」の道具としてAIが使われはじめ、失業の波がいっせいに広がっている。
もはや一部のベンチャー企業や特定の業界だけの問題ではない。
2023年から2025年にかけて、アメリカのIT大手、IBMやGoogle、Metaといった企業が「AI導入」を名目に何千人もの従業員をレイオフした。
IBMは2023年、AI業務自動化を理由に約3900人を削減。Google親会社のAlphabetもAI活用で約12000人の人員削減を発表。Metaは2022年以降、累計で2万人超のレイオフをおこなった。
Microsoftも、世界で従業員6000人を削減したが、やはり「人工知能(AI)に合わせた事業モデルに転換する」ということで、好業績の中でのリストラだった。
Amazonも2023年から2024年にかけて倉庫業務やカスタマーサービス部門でAI・ロボットの導入を加速し、全世界で1万人規模のリストラを断行した。従来、人手に依存していた物流やサポート業務がAI化に置き換えられることで、多くの非正規労働者や契約社員が職を失ったのだ。
このリストラは現場の作業員だけでなく、ミドルマネジメント層やオフィス業務の従事者にまで波及している。AI失業の対象は限定的ではなく、幅広い職種・階層に及んでいる。
実際に、AI導入で人件費の大幅削減に成功した企業の決算が株式市場で高く評価される一方で、現場では突然のリストラがいっせいに発表され、生活基盤を失う人々が増加している。
新技術の登場は雇用の再配置を生み出すと言われてきたが、今回は「新しい雇用の創出」よりも「既存雇用の一掃」が先に目立つ。AIが奪った仕事の数が、AIが生み出す新しい職の数を大きく上回っている。
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安定神話が崩れ、仕事そのものが消える時代
AIの急速な普及は、これまで「安定職」と呼ばれていた業種にも深刻な打撃を与えている。実際、消える仕事の範囲と規模は急速に拡大しつつある。たとえば、ChatGPTなどの生成AIやAI翻訳システムの進化によって、外注ライターや翻訳家の求人案件は世界中で激減している。
イラストレーターの仕事も激減している。短期間で大量のイラストが必要な広告やゲーム業界などでは、コスト削減やスピードを重視してAIによるイラスト生成が積極的に活用されている。
AIはホワイトカラーにも容赦がない。特に金融や保険、コンサルティングといった分野では、審査業務や事務作業の自動化が本格化し、余剰人員の発生が次々と表面化している。
大手会計事務所であるPwCも、AI導入後に一部部署を統廃合し、2024年に会計監査や税務部門を中心に1,500人(全従業員の約2%)の人員削減を発表している。AIによる自動処理の導入が進み、会計・監査・経理業務の一部自動化が現実となっている。
いまや、「AIに取って代わられにくい」と考えられてきた医療や教育分野でさえも影響を受けている。
AIによる画像診断、問診チャットボット、リモート学習プラットフォームの普及で、一部の業務は大幅に省力化された。AIが難しいとされてきた「専門性」や「個別対応」ですら、技術の進化により置き換えが進行している。
安定雇用を維持してきた多くの職種が、この数年で次々と消えつつある。失業者は新しい職を探しても、AIや自動化に置き換えられていない分野がますます少なくなっている。誰もが「自分は大丈夫」と思い込んでいた安定神話が崩れ、仕事そのものが消える時代が現実化している。
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AIによってプログラマー自身もリストラの対象
AI化によって仕事を失った人々が、その後どのような現実に直面しているかを考えると、その深刻さは単なる技術の話では終わらない。AIによる大量離職は、再就職やキャリアの再構築が簡単ではない現実を浮き彫りにしている。
アメリカやイギリスでは、特に中高年のホワイトカラー層を中心に、数万人規模の失業者が発生し、生活保護や公的扶助に頼らざるを得なくなった。
2024年、米ニューヨークタイムズは「AI化で仕事を失った40代以上の再就職率が20%未満にとどまっている」と報じた。イギリスBBCも、元金融マンやIT技術者など高い専門性を持った人々が長期の失業に追い込まれ、失意のうちに生活保護の申請をおこなうケースが相次いでいると伝えた。
皮肉なのは、AIによってプログラマー自身もリストラの対象になってしまっていることだ。米国では2025年初頭、IT業界の失業率が3.9%から5.7%へ急上昇し、推定15万人以上のエンジニアが職を失ったとされる。
Microsoftでは、すでに社内コードの20~30%がAIによって生成されているいるわけで、このAIが書いたコードの比率は今後も広がっていくことになる。AIは人間よりも高速かつ正確にコードを書き、テストやバグ修正も自動化できる。
一方で、AIを活用したシステム設計や高度なアルゴリズム開発など、創造性や高い専門性を要する分野では依然として人材需要が高いということなのだが、そういう人物は一部分なので、結局は雇われるよりも雇われない人間のほうが増えてしまうのは当然のことだ。
そこで「リスキリング(再教育)」の重要性が訴えられるのだが、実際には、年齢やスキルのギャップ、さらには教育のための資金不足といった壁が立ちはだかる。そもそも、新しく覚えたその仕事も、AIが奪うかもしれない。
AI化の進展は、単なる技術革新や業務効率化ではなく、多くの人々の「人生設計」そのものを根底から揺るがすことになる。これは、あと数年で大きな社会問題になる可能性がある。
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どこまでAI社会に自分を適応させることができるのか
AIは今後も猛烈な勢いで進化していく。それによって、解雇され、再就職が困難になってしまう人たちも激増していく。こうした雇用構造の変化は、社会全体の分断と格差拡大を大きく広げていくことになるはずだ。
AIを使いこなせるごく一部の人々、特にIT技術者やデータサイエンティストといった新しいスキルを持つ層は、平均年収を大きく伸ばしていくだろう。一方で、AIによって置き換えられる職業の人たちは時代に取り残されて呆然とすることになるだろう。
生き残るためには、どこまでAI社会に自分を適応させることができるのか、それが問われるようになっていく。
NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは「AIが仕事を奪うのではなく、AIができる人が仕事を奪う」と言っているのだが、とにかくAIによって自分の仕事を武装し、AIで稼げるように自分自身を変えていかなければならない。
さらに重要なのは、AIが社会を飲み込むのであれば、AIに投資してそこからも利益を得て生き残るくらいのしたたかさが必要だ。AI企業はいくつもある。個別銘柄に投資するのもいいし、AI企業を多く含んだETF【QQQ】などに投資しておくのもいい。
AIは次のインフラになる。インターネット時代がやってきたときにインターネットができる人間が優位に立ったように、今後はAIを駆使できる人間が優位に立つ時代がやってくる。
かつてインターネットが社会を席巻したときに「パソコンは必要ない」と考えた人々が時代から取り残されたのと同じ構図である。AIを使いこなす者が仕事を得て、AIを活用できない者は競争から外れていく。
個人の働き方も投資のスタイルも、AIをいかに100%自分のものとして活用できるかが、生き残りを左右する決定的な要因となりつつある。
自分の仕事をAIで武装し、AIから収益を生み出す手段を持つことが、新しい時代の「標準装備」である。AIの波に抗うのではなく、積極的にその力を取り込む。それことが、唯一合理的な生き方だ。
これからは「AIとともに生きる」ことが、社会で生き残るための絶対条件になる。
