
テスラやアマゾン、ボストン・ダイナミクスなどの大手企業は、単なる省力化ではなく「人間のように仕事ができる」ロボットを前提とした新しい工場や流通網を作り始めている。イーロン・マスクは「今後、人間の肉体労働や単純作業はすべてロボットに置き換えられる」と述べている。SFの話ではない。(鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。著書は『ボトム・オブ・ジャパン』など多数。政治・経済分野を取りあげたブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営、2019、2020、2022年、マネーボイス賞1位。 連絡先 : bllackz@gmail.com
ロボティクスは地球史上最大の産業になる
かつてNetscapeを創業し、現在はベンチャーキャピタル会社『アンドリーセン・ホロウィッツ』で投資家として活躍しているマーク・アンドリーセンが、「今、米国の産業構造は大きく変わろうとしている」と高揚感と共に述べている。
「かつて産業革命が手作業から機械への転換をもたらしたように、今度は人間の肉体労働や単純作業をロボティクスが根こそぎ置き換える」
ここ10年でロボティクスの開発競争は急激に激化している。たとえば「テスラ・オプティマス」もそうだ。この人型ロボットのように、「汎用ロボティクス」こそが次の社会基盤を作る決定的な技術になるとイーロン・マスクも言う。
マーク・アンドリーセンもイーロン・マスクも、繰り返し「ロボティクスは地球史上最大の産業になる」と断言している。つまり、今後はロボットがすべての肉体労働・単純労働・ルーチン作業をこなす。
今の時点では、どこか空想めいた話に聞こえる。しかし、これは荒唐無稽な未来予測ではない。現実に工場の自動化率は年々高まり、中国では一部の大手工場で人間の作業者をほぼ全廃する動きが始まっている。もう、すでにそれは実際に「動き始めている未来」なのだ。
国際ロボット連盟(IFR)のデータによれば、世界の産業用ロボット稼働台数は2023年に約428万台に達し、毎年10%以上のペースで増加している。今の段階では、ほとんどが単純な繰り返し作業や搬送作業を担っている。
だが、AI技術の進化とともに高度な判断や複雑な作業への適用が始まっている。
この「汎用ロボティクス」の進展が意味するのは、機械が単なる道具から、環境認識や状況判断までおこなう「労働力」として社会に組み込まれることである。
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「手作業・単純労働」は急激に消滅していく
すでにアメリカの自動車工場や物流センター、倉庫業などでは、数百台規模のロボットが協調して24時間体制で稼働し、休みなく生産や出荷をおこなっている。
日本でも2023年時点で約42万台の産業用ロボットが稼働している。今後は小売、介護、農業、建設など、これまで人手に依存してきた業界へも拡大が続く。
なぜ今ロボティクスが「社会を一変させる決定打」になっているのか。それは、AI技術の進歩によって、これまで困難だった環境適応・臨機応変な作業・安全制御などが実現可能となりつつあるからだ。
単なるプログラムによる自動化を超え、カメラやセンサーを駆使した状況判断、機械学習による最適動作の実現、さらにはクラウドやネットワークと接続した大規模な分散制御システムの構築が進行している。
テスラやアマゾン、ボストン・ダイナミクスなどの大手企業は、単なる省力化ではなく「人間のように仕事ができる」ロボットを前提とした新しい工場や流通網を作り始めている。イーロン・マスクの発言が誇張ではないのは、すでにその一端が現実化しつつあるからだ。
こうしたロボティクスの普及によって、過去の製造業で主役だった「手作業・単純労働」は急激に消滅していくはずだ。従来の製造業の雇用構造や産業集積も根本から変わることになる。
今後10年で、あらゆる産業において人手不足という問題はロボティクスによる自動化で「強制的に」解決されていくことになる。
どこの企業が最初に大量の汎用ロボットを投入できるか、誰がそのための設計や製造、管理ノウハウを握るか。それが企業の盛衰を決定する局面に突入した。
現実に、アメリカや中国のトップ企業は何十億ドルもの資本をつぎ込み、国単位で生産拠点の自動化を推進している。資本と技術を集約できる大手企業だけが生き残るという資本主義の原理が、ここでも明確に発動している。

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エイリアン・ドレッドノート工場の実現
「エイリアン・ドレッドノート工場」という言葉は、イーロン・マスクが未来の製造業の姿を語る際に初めて使った造語だ。由来は20世紀初頭の革新的戦艦「ドレッドノート」と、異星人(エイリアン)のような未知の技術力を掛け合わせたものだ。
従来の人間中心の工場とは根本的に異なり、圧倒的な自動化とAI制御に支配された、いわば「人間の手がほとんど介在しない」生産施設がその本質となる。
この工場の最大の特徴は、あらゆる工程がロボットとAIによって自律的かつ連続的におこなわれるところにある。部品の運搬や組み立て、品質検査、パッケージング、在庫管理に至るまで、人間が直接かかわる余地は極限まで削減される。
ロボットアームや搬送用AGV(無人搬送車)、そして視覚認識AIなどが全工程を担当し、センサーから得られた膨大なデータをリアルタイムで解析しながら、絶えず最適化を繰り返す。
こうした工場では、数百、数千台のロボットが相互に連携し、一秒たりとも止まることなく生産活動を継続する。
エイリアン・ドレッドノート工場の根本的な特徴は、工場そのものが「巨大なAIロボット」として機能する点にある。ラインの設計や工程の再構築すらもAIが主導し、製造プロセス全体を動的に変化させ続ける。
従来は何年もかけて改善していた生産効率や品質管理が、ほぼリアルタイムで自動的に最適化されていく。人間の労働者は現場から退き、主にシステム監視や緊急対応、AIやロボットのメンテナンスに役割が限定される。
実際、このコンセプトで、アメリカや中国の大手企業では、組み立て・検査工程の九割以上をロボットが担う工場が続々と稼働を始めようとしている。
今後のAIやロボティクス技術の発展によって、「人間不要」の製造ラインが世界標準になるのは避けられない。製造業の主役は人間からAIとロボットに完全に交代していくことになる。
エイリアン・ドレッドノート工場であり、世界の製造工場はそこに向けて突き進んでいくことになる。

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変わりゆく社会の中で「どこに賭けるのか」
自動化工場がもたらす最大の変化は、生産性と効率の劇的な向上である。ロボットは休憩も不要で、24時間365日、一定の品質で作業を続けることができる。人間のように疲労やミスを起こすこともない。生産計画も需要動向に応じて即時に変更でき、コスト削減効果は絶大だ。
ただ、実際にエイリアン・ドレッドノート工場が動き始めると、従来の労働者は完全に不必要になってしまうので、社会全体に大きな雇用喪失が広がっていくことになる。しかもそれは永続的な雇用喪失だ。
もちろんAIは工場のみで稼働するわけではなく、社会全般に広がる。金融や物流、不動産、教育などあらゆる分野に波及し、社会全体の構造を根底から変えていくことになるはずだ。そのすべてで、雇用喪失が起こる。
ただ、自動化によって消える職種も多いが、代わりに生まれる職種もあり、社会全体の雇用構造は大きく再編されると専門家は見ている。実際にどうなるのかは蓋を開けてみないとわからないのだが、社会がこれからの10年で激変していくのは間違いない。
投資家としては、この変わりゆく社会の中で「どこに賭けるのか」が重要になってくるはずだ。
私自身は、AIは全世界を変える巨大なパラダイムシフトになると数年前から確信しており、しかもそれは「アメリカ主導になる」と信じているので、他の国に大きく投資を移動させるつもりはまったくない。
だから、コアは今後もETF【VTI】である。全世界も新興国も見ていない。今後もイノベーションの震源地としての米国に賭け続ける。
個別銘柄(サテライト)として、AI銘柄をいくつか保有するが、メインは「AIで革新していく米国企業全体」なので、引き続きETF【VTI】は私の重要銘柄であり続けるはずだ。エイリアン・ドレッドノート工場の実現による米国企業の競争力の底上げも大きなテーマのひとつである。
今後の動きに注目していきたい。
