東京都港区は「金持ちが暮らすところ」というイメージがあるのだが、明治学院大学社会学部の河合克義教授の調査によれば、「高齢者夫婦の4世帯に1世帯は年収250万円未満で、生活保護水準に近い生活をしている」と明らかにしている。
金持ちが住んでいると思われている地区でも、生活保護水準の生活に追いやられている人たちが珍しくなくなっているのだが、この傾向は加速する。
なぜなら、日本は世界でも類を見ない少子高齢化が加速して政府はまったく対策を取ろうとせず、さらに国民も政府も膨れ上がっていく社会保障費に無頓着で、まるで他人事のように暮らしているからだ。
少子高齢化が進むと、年金・医療・介護に要する金がどんどん増えて社会保障費を増大させる。何もしなければ、やがて膨らんだ国の借金は破裂するというのは分かりきった話だ。
だから政府は年金を減らし、医療費の自己負担額を増やし、消費税をどこまでも上げてもがいている。そのすべては国民にツケを払わせるものだ。
福祉のカット、年金の削減や先延ばし、増税、インフレ。こうしたものはすべて弱者をより追い込んでいく動きなのである。貧困層が追い詰められる。
もはや「もらい逃げ」ができなくなっている
経済的苦境は末端である貧困層に襲いかかっていく。生活保護受給者数が、過去最多を更新し続けていることを見ても分かる通り、貧困層の多くは現状維持すらできていない。
特に、生活保護受給者の大きな層をなしているのは高齢層である。セーフティーネットが消え、生活保護も年金にも問題を抱え、今後も消費増税も必ず実施され、高齢層はさらに追い込まれていく。
今まで高齢層は、年金問題ひとつにしても先延ばしによって負担を若者に押しつけていた。しかし、国の借金が2017年3月末時点で1017兆円に達しているわけで、もはや「もらい逃げ」ができなくなっている。
これからは粛々と年金は減額されていき、医療負担も増大し、受給年齢も引き上げられていくことになる。
年金減額は目に見える削減なので、年金支給額の引き下げを憲法違反とする集団訴訟のようなものも起きたりする。しかし、年金が引き下げられなくても、インフレが進めば年金引き下げと同じことになる。
こうした流れがさらに突き進む中で、やがて高齢者自身は助かるかどうか分からないところまでいく。日本の本当の意味の貧困は、そこからスタートするのである。
高齢者は増税・年金減額にはこぞって反対するだろうが、今のままでは増税も年金減額も避けがたい。これは高齢者たちにとっては死活問題になるはずだ。
始めは小さく始まるだろう。しかし、増税・年金減額が一度社会システムに取り入れられると、理由をつけてそれが拡大されていく。
今でさえ日本は増税大国になっている。暴動が起きないのが不思議なくらいだ。消費税は10%でも20%でも増えるし、年金は10%でも20%でも減らされていく。
直撃を受けるのが団塊の世代だ。数年前、団塊の世代は「逃げ切り世代になる」と言われていた。しかし、もうそんな楽観的なことを考えている人はどこにもいない。
国民の多くが中間層から貧困層に落ちて苦しむ
年金は意味をなさず、団塊の世代はまとめて貧困に落ちる確率が高くなった。
そもそも、今でも生活保護申請を膨れ上がらせているのは高齢者なのである。年金以外の収入がない高齢者から、国民年金で細々と生きて行く高齢者までが追い詰められている。
経済苦を何とかしようにも、もう働くこともできない。老人ホームに入るにしても金がいる。安いアパートに入るにしても断られ、介護施設にも入れない。
そうやって、金もなく行き場もない高齢者が山のように増え続けている。かつては、子供が親の面倒を見るのが当然だった。今はそうではない。そんな時代ではなくなってしまった。
年金では足りずに貯金を取り崩し、貯金も足りずに貧困に落ち、国も地域も子供もアテにならずに社会から孤立し、やがて孤独死する高齢者が続出しているのだ。
日本人は1990年のバブル崩壊から、少しずつ少しずつ経済的な苦境に落とされ続けて来た。
日本人は「金持ち」だと言われていたのだが、ふと気が付くと国民の多くが中間層から貧困層に落ちて苦しんでいる。この流れは止まることなく、さらに続いていく。
1990年代に生まれた若年層は、日本社会が転がり落ちていく中で生まれ育っている。貧困が恒常化した中で暮らし、彼らはかつて日本人が豊かだったことすらも知らない。
2000年当初、正社員になれずに落ちていく若年層を中高年は「働かない若者の成れの果て」であるとか「自己責任だ」と言ってきた。
しかし2008年9月15日のリーマンショック以降、日本企業も容赦ないリストラを中高年に対して行うようになっていき、自分たちにも火の粉が降りかかってくるようになった。
リストラや失業の憂き目に遭い、中高年は再就職しようにも満足な給料すらも得られない現実に愕然として、若者の苦境は自己責任ではないことに気付くようになった。
孤独死した高齢者の凄まじく荒んだ部屋の意味
日本の自殺者が50代と60代に集中しているのは、リストラ・失業・病気で貧困に転がり落ちると、もう這い上がれないことに気付いた絶望から生まれている。
そして逃げ切ったと思った高齢者も、政府が膨れ上がる借金の中で弱体化し、福祉や年金の削減が行われたりして、困窮に追い込まれている。
若年層を貧困に追いやり、中年層をリストラに追いやってきた社会は、逃げ切ったと思っている高齢者に襲いかかっていき、大量の貧困層を生み出しているのだ。
高齢層はいったん転がり落ちると仕事もできないので、どこまでも続く極貧に甘んじるしかない。
かつては家族が面倒を見てくれたかもしれないが、家族という概念すらも崩壊している現代、高齢者は家族からも見捨てられて孤立する。
2015年の内閣府の「高齢者白書」を見ると、バブル崩壊以後の日本社会では一人暮らしの高齢者が7倍以上に増えており、現在は約600万人が孤独に暮らしている。
今後10年以内にこの数字はもっと増えて約700万人が一人暮らしの高齢者となる。65歳以上の世帯では相対的貧困率が18%であると言われている。
高齢者が貧困化すると家の中に閉じこもる傾向になり、健康を害しても病院に行かず、やがて足腰も衰えてゴミを捨てることもままならなくなり、ゴミ屋敷のような状態の中で息絶えていくことになる。
孤独死した高齢者の部屋は凄まじく荒んでいることが多いのだが、それこそが日本の未来の心象風景である。増大していく孤独死を見ても分かる通り、高齢者の地獄は確実に日本にやってきている。
1017兆円の借金を「大したことない」「日本に借金があるのは嘘」「日本は破綻しない」などと財務的な詭弁を言う人もいるが、こんな詭弁を弄しているうちに、社会の底辺に暮らす人たちの首が絞まっている。現実を見ないで日本を破壊していく人たちを私は許さない。
いかに日本が危機的なことになっているのか、もっと現実的に把握すべきである。
小島美羽さんが作った孤独死した人たちの部屋のミニチュア。孤独死した高齢者の部屋は凄まじく荒んでいることが多いのだが、それこそが日本の未来の心象風景である。高齢者の孤独死を見ても分かる通り、高齢者の地獄は確実に日本にやってきている。
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