コンテンツの中には、動画を見せるもの、写真を見せるもの、掲示板形式で自由に書き込みができるもの、商品画像を見せて買い物ができるもの……と一括りにできない。
しかし、多種多様に見えるこれらの「コンテンツ」は、HTMLという枠の中で動いており、「サイト」という形で結実しているという点では一致している。
かつて、インターネットがまだシンプルだった時代は、個人がHTMLを駆使してサイトを構築していた。
しかし、これだと一部の技術に強い人間だけしかサイトを作成することができない。2000年代の前半までは、そのような時代だった。
やがてブログのような完成されたシステムが登場して、2005年頃から爆発的流行を見るようになった。個人は技術的なことは何も知らなくても、管理画面で文章を書けば良いだけの時代に入ったのだ。(鈴木傾城)
全世界のウェブサイトの約30%はこれで動いていた
こうしたブログシステムは、単に文章を書くだけの欄があるだけでない。
付属の機能として、検索機能、固定ページ、カレンダー、過去記事に到達するためのアーカイブ、RSS、コメント機能等、あらゆる機能が盛り込まれて発達していった。そして、これらのコンテンツはデータベースに格納されている。
やがて、こうした総体をパッケージ化した「システム」が次々と登場するようになったのだが、こうしたシステムはCMS(コンテンツ・マネージメント・システム)と呼ばれるようになっていった。
現在の「ウェブ」は、もはや個人がHTMLファイルを手打ちして作れるようなレベルではなくなっている。やってもいいが、完成されたCMSがあるのだからやる意味がない。
さらに、2010年代に入ってから状況を複雑化させたのはスマートフォンとタブレットの存在だ。
2015年以後は、すでにインターネットはスマートフォンで見るのが当たり前の時代となっている。時代は転換した。現在、文明はスマートフォンによって再構築されていると言っても過言ではない。
この象徴的な転換は「モバイル・ファースト」という言葉で表現されている。グーグルも2018年3月27日、クロール、インデックス、ランキング」をモバイル・ファーストに変えた。(ダークネス:すべてはスマートフォンに集約していかなければならない)
サイト管理者は大小様々なモニタで表示できるようなデザインに対応することが求められるようになっていった。
こうした要求に対して、システムを一から内製しているのでは間に合わず、今や大手の企業でさえもCMS(コンテンツ・マネージメント・システム)を利用してサイト構築をするようになっている。
ところでこのCMSだが、実は圧倒的なシェアを持つ存在がある。全世界のCMSの60%を占めるのは「WordPress(ワードプレス)」というものだった。
ワードプレスはオープンソースで構築されたCMSである。そして、ワードプレスで制作されたウェブページは全世界のウェブサイトの約30%になっているというのだから凄まじい。
グーグルが凄まじい資金力ですべてに優っている?
マイナビ・ニュースの2017年12月13日の記事『CMSシェア、WordPress が60%へ』によると、その順位を上位5位まで抜粋すると以下のようになっている。
1. WordPress 59.9%
2. Joomla 6.6%
3. Drupal 4.6%
4. Magento 2.3%
5. Blogger 1.9%
現在、このサイト『ダークネス』はグーグルの Blogger(ブロガー)というシステムで動いている。
このブロガーだが、私自身はすでに10年近く使っていて非常に愛着があるCMSとなっている。しかし、順位で見ると吹けば飛ぶような1.9%でしかなかった。
グーグルと言えば全世界を支配する検索エンジンの雄である。超巨大IT企業だ。莫大な資本でインターネットのすべてを支配していてもおかしくないような技術集団が集まっている企業と言っても過言ではない。
ところが、CMSの分野ではわずかに1.9%であり、ワードプレスの59.9%に比べるとひどく見劣りがする。シェアではワードプレスの足元にも及ばないレベルである。
最近、別サイト『ブラックアジア』を新しいものにした。こちらは圧倒的シェアを持つワードプレスで一から再構築(リニューアル)した。
そのため、私はオープンソース版のワードプレスと、グーグルのブロガーの両方をユーザーの立場で評価できるのだが、その結果として感じたことがある。
このシェアの差はダテではなかったということだ。ワードプレスは圧倒的な機能とプラグインの物量、テーマの多彩さでグーグルのCMSを完全に凌駕していたのである。
これは私には意外なことだった。なぜなら、私はグーグルという企業がウェブの世界では「凄まじい資金力ですべてに優っている」と思っていたからだ。
そうではなかった……。
いつでも業界の趨勢はひっくり返ることを示唆?
グーグルはCMS(コンテンツ・マネージメント・システム)の専業ではないし、今のところはこの分野に注力することもない。
そのため、どれだけグーグルが凄まじい資金を持っていたとしてもCMSを専業にやっているワードプレスにはまったく歯が立たないのである。
私はフォトショップやイラストレイターでデザイン業界のソフトウェアを独占しているアドビ社の「Adobe Spark」というCMSも試している。その技術的な素晴らしさに惚れ惚れしたこともあった。(ブラックアジア:カオサン2005)
しかし、このアドビにしてもワードプレスの圧倒的な牙城を崩すことができそうにない。総合的に見ると、ワードプレスが作り上げたオープンソースのコミュニティが生み出す莫大なプラグインに太刀打ちできない。
アドビも並みの企業ではないのは誰もが知っている。しかし、アドビにしてもCMSという枠内では、ワードプレスの前に赤子も同然だ。
グーグルやアドビは、インターネットの世界では最高峰と言っても過言ではないほど成功した企業である。ブランドもあり、ユーザーにも投資家にも支持された企業だ。
しかし、こうした企業の影響力がまったく届かない世界があり、そこではまた別の存在が君臨していたのである。
これは、いくら強大に見える企業であっても取りこぼしている分野がいくらでもあることを示している。そのため、ある種のパラダイムシフトが起きて大手が取りこぼした分野が巨大化したら、いつでも業界の趨勢はひっくり返る。
かつて世界を支配したかのように見えたマイクロソフトがスマートフォンの時代になって急激に精彩を失ったように、今は強大に見えるアップル、グーグル、フェイスブック、アマゾンのような企業もひっくり返される余地はある。
CMSの世界で君臨しているワードプレスと不甲斐ないグーグルの姿を見て、そのようなことを深く思い知った。インターネットの世界を支配しているグーグルも全能ではなかったのである。(written by 鈴木傾城)