フランス大統領戦で、グローバル・メディアが「極右」と罵倒する国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペンが破れ、「フランス国民は正しい選択をした」とEU(欧州連合)の各国首脳が次々と賛辞を送っている。
マリーヌ・ルペンは「反EU、反移民」を明確に謳って揺るぎないので、もし彼女が当選したらEUはなし崩しに崩壊していく危険性があった。
すでに2016年6月にはイギリスが国民投票で「まさか」のEU脱退を選び、フランスでも、ドイツでも、オーストリアでも、オランダでも、イタリアでも、次々と反EUを標榜する政党が台頭している。
そう言った意味で、今回のフランス大統領選挙はグローバル経済の推進派にとっては正念場であり、絶対に負けてはいけない選挙でもあった。
そのため、マリーヌ・ルペンに対する個人攻撃やレッテル貼りは凄まじいものがあった。
しかし、それでも既存政党の古くさい議員が太刀打ちできないと見るやすぐさまエマニュエル・マクロンを急いで時代の寵児に仕立て上げて有力候補であるという世論操作が行われた。
ロスチャイルド銀行の副社長の座にあったマクロン
ロスチャイルド銀行の副社長の座にあったエマニュエル・マクロンは、まさにグローバル主義の申し子だ。典型的なエリートであり、エスタブリッシュメントである。
そのため、今後のフランスはEUを脱退するどころか、むしろ逆に崩れゆくEUを支えてリードしていく立場になることを意味している。
つまりフランスは現状維持を続ける。
グローバル化と多文化主義によって国内に激しい格差と貧困と治安悪化に見舞われている現在のフランスでは、こうしたエリートが事態を悪化させた戦犯であるという意識がある。
にも関わらずエマニュエル・マクロンが勝利した。
「極右マリーヌ・ルペンを選ぶとEUが完全崩壊して今よりもさらに深い泥沼の混乱が発生する」とグローバル・メディアが恐怖心を必死で煽った結果、フランス人はひとまず「右翼でも左翼でもない」と主張するエマニュエル・マクロンで「妥協」することにしたのだ。
そう言った意味で言うと、エマニュエル・マクロンは支持されて当選したというよりも「他に選べる候補者がいない」ので妥協の結果として当選したと見るのが正しい。
それは選挙結果を見ても分かる。現在のフランスではすでに30%以上の有権者が「反EU」を明確に掲げる右派政権を支持しており、中道を支持する層と数字が拮抗している。
フランス国内は国民の間で意見が分裂しており、エマニュエル・マクロンが当選した翌日には、もう反マクロンの抗議デモが湧き上がっている。
左派も手放しでエマニュエル・マクロンを支持しているわけではなく、極左のジャン=リュック・メランションを支持した層もまたエマニュエル・マクロンの当選には激しく不満をぶちまけている。
フランス大統領戦は「極右と極左の激突」であった
グローバル・メディアは「極右」であるマリーヌ・ルペンを潰すのに躍起になっていたのだが、その間隙を縫って急激に大統領選の有力候補に躍り出ていたのが、「極左」だったジャン=リュック・メランションである。
メランションは反米で名を上げたウゴ・チャベスを信奉していたり、キューバのカストロ議長の支持者として公然と支持をぶち上げたりしている筋金入りの社会主義者であり、これまたグローバル主義には相応しくない候補だった。
何しろ「資本家の富と労働者の富は逆転させなければならない」と資本主義を否定するのだから、見方によってはマリーヌ・ルペンよりも危険人物であるとも言える。
ところがフランス人は、この人物をも大統領戦の有力候補として支持していたのだ。グローバル・メディア風に言うと、フランスはまさに「極右と極左の激突」であったと言える。
マリーヌ・ルペンに転んでもジャン=リュック・メランションに転んでも、フランスは現在のグローバル化した資本主義から逸脱する。
だからこそグローバル・メディアはなりふり構わず「中道」のエマニュエル・マクロンをゴリ押しし、これ以上の混乱を嫌う層も、ほとんど選択肢が与えられずにエマニュエル・マクロンを選ぶしかなかった。
最後にマクロンとルペンの一騎打ちとなったとき、極左メランション支持者は渋々マクロンを選ぶか、もしくは白票を入れて「選択肢がない」と示した。
今回のフランス大統領選はこれだけ重要な選挙だったにも関わらず、無効票・白票が50年ぶりの多さだった。
つまり、「極端な政策を掲げている候補を選んですべてをぶち壊すか、誰にも入れないか、それとも仕方なくエマニュエル・マクロンを選ぶか」というのが今回のフランスの大統領選だったのだ。
国民戦線のマリーヌ・ルペンが待ち受けている
フランス国内は格差と貧困と移民やテロによる治安の悪化で混乱しており、グローバル化によって「負け犬」に堕とされた人たちの不満もあちこちで爆発している。
右を見ればマリーヌ・ルペンの支持者がマクロンを攻撃しており、左を見ればメランションの支持者がマクロンに敵意を剥き出しにしている。
エマニュエル・マクロンはそんな中で、強固な政権を作って国内をまとめていかなければならない。
しかし、エマニュエル・マクロンは『前進(アン・マルシェ)!』という政党を立ち上げてまだ間もない独立派の政治家で、既存の政党である共和党や社会党とつながりがない。
つまり、政治基盤を持っていない。
そのため、政権運営のためには、どうしても共和党や社会党との連携が必要になる。しかし、そうすると多彩な意見やしがらみと不協和音を内閣に取り込むことになる。
こうしたカオスを、まだ政治経験の浅いマクロンがいかに制御できるのかが政権発足当初から問われることになる。
エマニュエル・マクロンは親EU派だ。今後はフランスのためというよりも、EUのために政治を行うようになるのは必至である。グローバル化の流れも止めることはない。
しかし、このグローバル化こそが企業が利益を最大化させて労働者の賃金をどんどん極小化させるためのシステムなので、フランスの労働者の不満は解消できない。
エマニュエル・マクロンが政権運営に失敗し、現状を変える力がないと見なされたらどうなるのか。フランスはより深い混乱に堕ちていき、国内の世論はより先鋭化する。
そしてその先には、今や野党の代表となった国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペンが待ち受けている。