そうすると、企業は若者たちを正社員で雇うのを辞めて、非正規雇用で無制限に雇うようになっていった。
非正規雇用で雇うことで企業は雇用者に責任を持つこともなく、景気やビジネス環境によって好きなときに人をリストラすることが簡単にできるようになった。
これは働いている人間にとっては、いつクビを切られるのか分からない環境で暮らすということになる。実際、非正規雇用者はそうやって使い捨てされて生活が不安定化した。
こうした中で、日本人が手にしていたはずの豊かさは、1年、そしてまた1年と経つたびに消えてしまった。
格差が問題になり、最初に若年層や女性が困窮に追いやられた。次に高齢層が、最後に中高年も苦境に追いやられるようになり、日本に貧困が蔓延するようになっていった。
そして鈍感な日本人も、やっと何かおかしなことが起きているということに気がつくようになった。
「いつの間にか、自分たちの富が消えてしまっている」
「自分たちの将来がなくなってしまっている……」
グローバル経済が日本人の給料を引き下げた
しかし、病気も同じだが気づいたときはすでに手遅れのことが多い。時代の変化がもたらす結果を日本人は甘く見ていた。気が付いたときはもう手遅れだ。
多くの日本人は、なぜ給料が上がらなくなったのか、なぜ日本の将来が真っ暗になったのか、最初は気付いていなかった。しかし長い時間をかけて、ようやくその「真の原因」を理解するようになった。
結局のところ、世界を俯瞰して見ると日本の政治家が悪いというよりも、世界を席巻していた「グローバル経済」が日本人の給料を引き下げたのだ。
グローバル経済は新興国を豊かにさせ、相対的に日本人を貧しくさせた。たとえば、日本と新興国の関係でグローバル経済を説明すると、以下のようになる。
(1)企業が国際的になった。
(2)日本人は給料が高い。
(3)新興国は給料が安い。
(4)企業が新興国に移転する。
(5)新興国の労働者を安く雇う。
(6)日本人をリストラする。
(7)日本人が失職する。
(8)日本人の失職が増える。
(9)日本人の貧困層が増える。
今の資本主義が続くというのは、グローバル経済が続くということだ。グローバル経済が続くのであれば、日本人は新興国の労働者と戦う必要がある。
日本人はすでに高賃金であり、労働時間も短い。そんな日本人が新興国の労働者と太刀打ちできるのかと言われれば100%の人が難しいと答えるだろう。
新興国の人たちは、低賃金で長時間休みなく働くことができる。日本人はできない。新興国の人たちは1ヶ月3万円でも働く。日本人は働かない。勝負はついている。
グローバル経済が続くのであれば、日本人の環境は良くなることは絶対にない。
「働いても貧しくなる一方」の時代になっている
2000年に入ってから、日本人の中流はこれから壊滅的になると多くの経済アナリストは警鐘を鳴らしていたし、事実その通りになった。
企業が出ていって日本人を雇わなくなったのだから、問題が起きないわけがなかったのだ。日本人の平均年収もどんどん低下した。しかし、政府は「それが構造改革だ」とうそぶいた。
日本企業はグローバル化の波に乗り、先進国の労働者たちに高賃金を払うよりも新興国の安い労働者たちに低賃金で働いてもらう方が会社に利益が残ることを学んだ。
だから、経済の原則に則って工場を移転させ、「先進国の労働者を捨てて新興国の労働者を雇った」のだ。コストを考えると、もう日本人の労働者は雇えなかった。
企業はボランティア団体ではないから、必死になって利益を稼がなければならない。利益を稼ぐためには1円も無駄にできない。
1円でも無駄をなくすためには、1円でも安く働いてくれる人を雇うという流れになるのは目に見えている。だから、日本企業は大挙して新興国に出て行って、日本国内の仕事は消えてしまった。
そうなると、日本人は低賃金の仕事でも受け入れざるを得なくなる。仕事がないより、低賃金の方がマシだからだ。
日本人は遅かれ早かれ全員まとめて「給料が下げられる」「仕事がなくなる」「貧しくなる」のは、グローバル化が日本を覆い尽くした時点で決定していたということになる。
今後もグローバル経済が続く限り、日本人はぎりぎりまで賃金低下を受け入れるしかない状況にある。
もうすでに、「働いて豊かになる」時代ではなく、「働いても貧しくなる一方」の時代になっていることを日本人は自覚している。
では、日本人はどこまで貧しくなるのか。
それはどこかの新興国に行って、そこの人たちがどのような暮らしをしているのか見てくればいい。基本的には彼らと同じ程度まで貧しくなっていく。
トランプ大統領が失敗すればどうなるのか?
ではグローバル経済は、全世界の人たちに何のメリットもない馬鹿げたシステムだったのか。実は、それがそうとも言えないところに世の中の複雑さがある。
グローバル経済は先進国の労働者を貧しくするが、逆に言えば新興国の労働者を豊かにするシステムでもある。
先進国の企業は低賃金を求めて新興国に移動するが、そうすると新興国には大量の仕事が舞い込んできて、人々は毎月の給料を安定的にもらえるようになり、それが徐々に豊かさをもたらすようになるのである。
つまり、皮肉なことなのだが、人類全体で見れば所得が均一になって格差が是正される。先進国の労働者が貧しくなり、新興国の労働者が豊かになるのだから、これは紛れもなく賃金と富のフラット化である。
しかし、その新興国も人々が豊かになって賃上げ闘争をするようになると、企業はそれに応えるよりも、他の賃金の安いところにまた渡り鳥のように移転してしまうので、ある一定水準以上には豊かになれない。
そのため、先進国・新興国の両方で賃金がフラットになるとしても、「低い水準」でフラット化するのである。人類全体から見ると、ほとんどの国民が貧しいところで固定化される。
グローバル化というのは、そういった側面があるので、グローバル経済が定着しているのであれば、先進国の普通の労働者が今後は豊かになれるというのは楽観的過ぎる。
こうしたことが鮮明に見えてくるようになって、欧米では急激に国民の間で「反グローバリズム」が湧き上がるようになっており、それがついにドナルド・トランプ大統領のような保護貿易主義者を生み出している。
しかし、ドナルド・トランプは世界のグローバル化を止めることができるかどうかはまだ分かっていないし、もし失敗すれば今後はグローバル化を止めるものは誰もいなくなる。
グローバル化が止まらないのであれば、日本人の賃金はもっと引き下げられる方向にいく。企業が安い労働者を雇う動きが加速するのだから当然だ。
楽観視できる材料は、どこにもない。
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