何もしない大統領から何をするか分からない大統領の時代へ

何もしない大統領から何をするか分からない大統領の時代へ

2017年1月20日、ドナルド・トランプが正式にアメリカ45代大統領に就任した。

品性の欠如、攻撃的な性格、女性蔑視と、数々の問題を抱えながらもアメリカ人がドナルド・トランプを選んだのは、ただひとつ「アメリカの再建」をこの男が表明しているからだ。

本来、この「アメリカの再建」はバラック・オバマ大統領がすべきことだった。バラック・オバマは「チェンジする」とアメリカ国民に約束したはずだ。

アメリカの多国籍企業は凄まじいまでの富で膨れ上がって、その大株主が地球上の富を独占するのではないかというほどの資産を膨らませていた。

しかし、株式を持たない普通の市民はその資本主義の恩恵はまったく何もなかった。その格差はもはや一生懸命に働くとか、努力するとかのレベルでは埋めがたいものになっていた。

こうした社会をバラック・オバマは「チェンジする」と約束したはずなのに、蓋を開けてみればリーマン・ショックで痛めつけられた巨大な多国籍企業を税金で救済し、一般国民に対しては何もしなかった。

このバラック・オバマ大統領の8年間で、アメリカの格差はさらに深まり、今や超富裕層の8人の富が世界人口の半分と同等の資産を持つような時代にまで突き進んだ。

バラック・オバマは、何もしない大統領だった

「バラック・オバマは何も変えてくれなかった」という失望は、非常に深いものだった。

相も変わらず、アメリカの政治は多国籍企業を優遇する方向に向き、グローバル化を推し進め、アメリカ国民を見捨てる政策を取り入れるばかりだった。

グローバル経済を重視するあまり、アメリカは中国の台頭も許した。中国に媚びを売ってアメリカの権威や覇権ですらも捨てかねなかったのがオバマ大統領だった。

この大統領は中国を優遇して、重要な同盟国である日本をないがしろにした。当初は安倍政権をも「歴史修正主義者だ」として寄せ付けようとしなかった。

すり寄ってくるバラック・オバマ政権を見て、中国は図に乗ってアメリカを見下すようになった。

その結果、中国は、軍事費を膨張させて南シナ海を支配下に置こうとする動きを公然と進めるようになった。

さらに超限戦でアメリカに凄まじいハッキング攻撃を行って情報を盗み取ったり、AIIBでアメリカ抜きの経済圏を作ろうと画策したりするようになった。

ここまで見下されて、バラック・オバマはやっと最後に「日本が味方で、中国が敵だ」ということに気付いたのだった。

オバマ大統領は、中東でも大失敗した。2011年から中東の親米政権が次々と崩壊しても傍観したままで、中東におけるアメリカの存在感も完全に喪失した。

さらに、ロシアと深いつながりのあるシリアのアサド政権を崩壊させようとして、反体制派に武器弾薬を大量に流し込んでいると、その反体制組織が勝手にシリア・イラク圏内で国を創設して、世界最悪の超暴力国家ISIS(イスラム国)を生み出すという結果を生んだ。

バラック・オバマ政権は、やることなすこと失敗ばかりだった。ただ、この大統領は品位だけはあったので、そのイメージは愛された。しかし、それだけだった。

何もしないバラック・オバマ政権のせいで、アメリカは富も威信も覇権も失いかけていた。アメリカ人は「もうこんなアメリカを終わりにしなければならない」と決意していた。

では、この病んで弱体化したアメリカを「再建」するのに、誰が相応しかったのか。

アメリカ人は「アメリカ第一」を訴える政治家を望んだ

ヒラリー・クリントンは次期大統領候補の本命だと言われていた。アメリカのほぼすべてのマスコミは最後の最後までヒラリー・クリントンを推して露骨に世論操作に明け暮れた。

しかし、ヒラリー・クリントンは、どう見てもエスタブリッシュメント(支配者階級)であり、この政治家に任せてもアメリカが変わるとはアメリカ国民は思わなかった。

オバマ政治を継承するというのだから、「悪くなっていくアメリカを何も変えない」と言っているも同然だった。

さらにヒラリー・クリントンは温暖化対策やら女性の人権やら世界との協調やらを一生懸命にやっていくと訴えたが、今のアメリカ人が求めているのはそんな当たり障りのないものではなかったのだ。

今のアメリカ人が求めているものとは何だったのか。

それは「もっと仕事をくれ。もっとアメリカをすごい国にしてくれ。アメリカのことを考えてくれ。アメリカ人を豊かにしてくれ」というものだった。

つまり、アメリカ人は「アメリカ第一」を訴える政治家を望んだのである。

それは、バーニー・サンダースでも、ヒラリー・クリントンでも、ジェブ・ブッシュでもなかった。マスコミが「キワモノだ」と叫んで「絶対に投票するな」と言って回っていたはずの候補、ドナルド・トランプだったのである。

ドナルド・トランプは、「アメリカに雇用を戻す」と約束した。「アメリカに不利なTPPもNAFTAも見直す」と言った。「アメリカから不法移民を叩き出す」と言った。「中国に45%の関税をかけてやる」とも言った。

そのすべては「アメリカ第一」という公約につながるものであり、そのための暴言でもあった。既存秩序をぶち壊しても、アメリカ第一を貫く、という意味でドナルド・トランプは型破りだった。

ドナルド・トランプは大統領就任式で「この瞬間から、国を再建していく」と開口一番に言ったのは、まさにそれがアメリカ国民が望んでいることであるのをトランプ本人が知っているからでもあった。

叩き合い、殴り合い、罵り合い、反目し合う世界へ

ドナルド・トランプは既存の秩序を破壊しても「アメリカ第一」を優先すると宣言している。

すでに「TPP離脱」は表明されており、選挙公約を着々と推し進めていくことも宣言されており、「アメリカ第一」が口先だけでないことは確かである。

これから何が起きるのかというと、言うまでもないが中国との激突である。

ドナルド・トランプは当初から中国に45%の関税をかけると言っている。

その他にも中国に対して「輸出競争力を高めるため人民元の対ドル相場を操作して低水準に抑えており、この犠牲になったのが米製造業の雇用だ」と中国の為替操作を激しく批判し続けてきた。

さらに、南シナ海での中国の横暴に繰り返し触れて、「中国は南シナ海の真ん中に巨大な軍事施設を建設していいかと尋ねたか。私はそうは思わない!」と激しく攻撃している。

その上、ドナルド・トランプは「どうして『一つの中国』政策に縛られなきゃならないのか分からない」と中国が勝手に世界に押し付けている「一つの中国政策」を突っぱねて、最初から中国の敵対を激しく見せている。

中国は今まで恫喝外交を繰り広げてきたが、ドナルド・トランプは売り言葉に買い言葉で対処する政治家であり、中国の恫喝外交は効かない。

ドナルド・トランプは中国に配慮しない。「アメリカ第一」を中国が邪魔するのであれば、中国と激しく対立することも辞さない大統領である。そうであるならば、対立は止められないと考えるのが正しい。

2017年1月20日。いよいよ、何もしないバラック・オバマ政権が終わり、何をするか分からないドナルド・トランプ政権が始まったのだ。

今年からグローバルな世界は秩序が崩壊し、対立は激化し、激しい摩擦が生じる世界と化す。もちろん、日本も対立と摩擦に巻き込まれていく。

叩き合い、殴り合い、罵り合い、反目し合うのがこれからの世界の姿だ。暴力の時代は先鋭化していく。あなたは、準備ができているだろうか?

大統領就任式に臨むドナルド・トランプ。今年からグローバルな世界は秩序が崩壊し、対立は激化し、激しい摩擦が生じる世界と化す。もちろん、日本も対立と摩擦に巻き込まれていく。

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